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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
鳥と人 エストリテ編
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殺意の意味と漢の喧嘩

「あなた、正気?」

「えっ?」


 唐突にそんなことを言われれば、誰だって混乱するのが当然だ。ディオブだって混乱する。


「正気だよ」

「嘘ね」


 混乱しながらも、当たり前に出した言葉は、一瞬で否定されてしまった。

 少々傷つかないこともないが、とりあえずイリエルの態度が気になって仕方ない。


「なんで急にそんなこと聞くんだ?」

「……あなた()()()ある?」

「殺す気?」

「そう! 殺す気よ!!」


 腕を大きく振って大袈裟に叫んだ。苛立ったせいで顔が赤くなり、眉間に影ができるほど皺が寄っている。

 怒っている理由は心当たりがあった。自分の甘い部分、見て見ぬ振りをしてしまっていた部分だ。


「あの掌底……殺すこともできる威力があったのに……弱めた」

「……」

「なんで? あの子たちには、殺した過去があるのに」

「わかるのか?」

「わかよ、神軍にいればね、殺しの前と後じゃ目が違うから」


 語るイリエルの目は冷たい。嫌なものを思い出してるようだった。


「魔法を、あなたは人を傷つけるために使ってる」

「だというのに、中途半端に殺す覚悟が無い」

「いざとなれば己を殺しにくる奴らが相手なのに、だ」

「あなたは最後までやり切る覚悟が無い、呪われる覚悟が無い」


 イリエルがまっすぐディオブの心臓を指差した。


「中途半端は、いずれあなたを殺す」


 まるで、占い師が結果を告げるときのような、断定し切った口調だ。

 変わらず目はひどく冷たい。責めるようで、視線が突き刺さって苦しくなる。


「あなたはこの戦場で、できるだけ人を殺さないようにしてる臆病者だ」

「自分の手を汚さないことに必死で、中途半端しかできない愚か者だ」


 言葉が心臓に突き刺さるようだった。それでも、何一つ言い返すことができない。

 全ては事実だ。ディオブ自身も、心の奥に引っかかっていたモノだ。答えはすでに出ていたのに、克服を遅らせていたディオブが悪い。


「……すまない」


 責める言葉が間違っていないのなら、出せる言葉は謝罪しか無い。なんの意味もない言葉なのはわかっている。変わるしか答えは無い。けれど、今はそれができそうにない。殺しに対する恐怖を、ディオブは乗り越えられずにいた。

 イリエルは未だ不満そうだった。しかし顔を逸らした。


「……行こう」


 神軍の戦艦に乗り込んだ。甲板は普通の船と同じ、武装が置いてあるばかりで変哲は無い。

 船室に入る。船室も変わらず武装が置いてあるばかりで、目に止まるようなものは大して無い。

 イリエルに肩を叩かれた。指差した先には階段がある、忘れかけていたが、もともとイリエルはこの船に乗っていたのだった。

 導かれるまま二人で下の船室へ。


「なんで下に向かってんだ?」

「……この船に割といたけど、知らない部屋があるのは会議室にある扉、隊長含め一部しか入れなかったから」

「なるほど」


 イリエルの声は未だ不満そうだったが、とりあえず責めるような雰囲気は消えていた。

 階段を降りてすぐの扉をイリエルが開ける。中に長テーブルと、いくつか良い作りの椅子が置かれていた。木目まで綺麗に整えられ、明らかに手作りの、見るからに高級そうな椅子だ。

 部屋の向こう側の壁に扉を見つけた。あれが話に聞いていた、イリエルの入ったことのない部屋だろう。

 部屋の通路を静かに進む。余計な音を出さないよう、細心の注意を払いながら。


「あ〜待て待て」


 後ろからのんびりとした声をかけられた。

 驚き混じりに、服が音を立ててしまうほど勢いよく振り返る。

 そこには、ディオブと負けず劣らずの筋肉をした大柄の男がいた。他の神軍と同じように黒の礼服のような制服に身を包み、腰には銃を付けている。

 そして状況から察するに、”たった一人であの部屋を守るにふさわしい”ということだろう。

 チラ、とイリエルと目を合わせた。目が合うと、イリエルは首を横にすばやく振った。どうやら知らない相手らしい。


「お前は?」


 さっき察したことでほぼ間違いないだろうが、一応確認のために聞いてみる。

 男は太々しく大欠伸をしながら、首と顎の境目あたりを引っ掻いた。


「俺か? 俺はこの部屋の護衛を任されたもんだ」

(いやっ……それはわかるんだが……)


 男の全く戦意を感じさせない雑な態度に、戦う気満々だったディオブの戦意は徐々に削がれていく。

 少しだけ、油断してしまった。

 男は早打ちの要領で、腰に携帯していた銃を抜き、イリエルに向けて発射した。

 あまりに唐突で、ディオブもイリエル自身も反応できないままだった。


「イリエル!」

「大丈夫……」


 銃弾は意外にも正確だったようで、イリエルは喰らった二の腕を全力で抑えている。しかも完全に不意を突かれたという、心臓に悪い最悪の感覚も残っている。

 一度イリエルの腕を確認すると、すぐに男を睨む。

 男はすでに銃をしまい、ニヤニヤといやらしく笑っていた。


「喧嘩……で良いんだよな?」

「ああ、最初っからな」


 男はポケットからメリケンサックを取り出した。僅かに赤く汚れていたそれを、男はゆっくりと装着した。

 ディオブも同じように鉄属性の魔力を拳に流す、これでディオブもメリケンサックと変わらない程度の硬度は手に入れた。


「ほお? 鉄属性か」


 男が嘲るような顔と声でディオブの拳を見た。明らかに挑発と侮辱を含んだ態度に、ディオブは少し苛立った。


「なんだよ」

「そんな魔法習得するならな、鉄製武器を持ちゃいいだけの話なんだよ」


「こんなふうに」なんて言いながら、わざと見ないようにしていたメリケンサックを視界に入れてくる。

 流石に苛立ちが怒りに変わったディオブは、ケラケラ笑うその男に拳を繰り出した。

 読んでいたらしく、男は腕を十字に組んで拳を受けた。硬化させていたのはディオブだけだったのに、明らかに硬い物同士がぶつかった音がした。

 床を無理矢理滑らせたが、思ったよりも効いていないようだ。


「ちっ」

「良いねぇ!」


 一瞬、木材が砕ける音がした。次の瞬間に、滑っていったはずの男は、一瞬でディオブの目の前に現れた。

 畳んだ脚から、溜めたパワーで、全力のドロップキックを繰り出す。

 ディオブも同じように腕をクロスしガードする。魔法で硬化の機能付きだ。

 受け止めることはできたのだが、同じように床を滑らされ、一気に会議室の向こうの壁に背中をぶつけた。

 しっかりガードしたはずなのに、腕の芯に響くような痛みがあった。


「けっ、良いパワーしてやがる」

「ディオブ・テンベルタムに褒められるとは光栄だ」

「知ってんのか?」

「ああ、有名だぜ? 冒険者ディオブ」


 男がポケットから紙を取り出した。紙にはディオブの容姿の特徴と、魔法と戦闘における特徴が記載されていた。


「神軍でここまで手配される人間は珍しいからな、印象にも残る」

「……そうかよ」


 疑問は残る。なぜ自分がここまで狙われているのか、とか。それでも、今はやるべきことがある。


(こいつを殴り倒すこと、それこそが俺の第一目標!)

「イリエル!こいつ先に倒す!」

「ええ」

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