撃鉄 テリンvsカフォ
岩陰に隠れ、テリンは機会をうかがっていてた。幸運だった、まだ自分が死んでいないことが。
銃音がした。また遠くから弾丸が放たれ、自分の隠れている岩に着弾した。もう六発目になる。いい加減岩も限界が来る頃だろう。
チラ、と地面を抉っている弾丸のめり込んだ痕を確認した。弾丸は地面へ深く潜り込み、その分土を地表へと盛り上げている。もしあれが自分自身に当たったらと考えると、まず間違いなく体の一部は抉られるだろう。
(最悪だ……ほんっと!)
壁に隠れながら、できるだけ気配を殺しながら、心で大きく強く悪態をついた。
自分が今持っているのはリボルバー銃、対して相手はスナイパーライフル、射程そのものもそうだが、威力も大きく違う。現に今自分が隠れている岩は、あと一発二発で崩れてしまいそうなほどだ。
少しだけ顔を出してみる。遠くの方、少しだけぼやけて見える位置にスナイパーは居る。それだけ確認するとすぐに頭を下げた。
その後すぐ、岩を銃弾が掠め、同じように地面に深く潜り込んだ。頭を下げるのが数瞬遅ければ、確実に脳天を貫かれていたことだろう。
戦闘開始からずっとこの膠着状態だ。何をしようにも、結局ライフルで貫かれるのなら動きようが無い。
(焦るな……落ち着け……今自分にできることはなんだ?)
冷静に頭を切り替えて、必死で考えを巡らす。
今自分にあるもの、知識、銃、そして魔力。未だ魔法と言えないまでも、魔力のコントロールはそれなりにできるようになってきている。これを駆使し、なんとか相手の懐まで近づくことができたなら。
(……そうか……これなら)
足を伸ばし、魔力を体に巡らす。
二人に比べて冷静で分析力のあるテリンは、魔力を解放した時、体に起こる変化について、二人よりもよく理解できていた。生来持っている魔力の属性もそうだが、何よりも体が強化されている感覚があった。
魔力で体が強くなっている感覚、それを足に集中させる。同時に、自分を思い描く。圧倒的な脚力を得た自分だ。
鳥のように空を飛べる訳ではないが、少なくとも脚力と走力は強くなっている。実証していないが、そんな感じがした。
「……いくぞ」
猫が飛び出す時のあの丸まった姿勢、それを真似する。足のパワーを最大限地面に伝え、体がそれを邪魔しないようまっすぐに。狙うは次、隠れやすい手頃な岩のあるあの島だ。
一瞬、わざと姿を晒した。スナイパーは、その一瞬を逃さない。
また銃を撃った音がした。
弾丸が放たれた音の一瞬だけ直前に、テリンは強く地面を蹴った。まるでテリン自身が弾丸になったかのように、強く地面から弾かれ、一瞬で次の浮島の岩陰に隠れることができた。弾丸は地面にただめり込んだ。
「外したか……魔力コントロール上手いな」
テリンを狙うスナイパー、カフォは無機質に呟いた。
もちろん命を奪えるように狙った。外したことに落胆してない訳でも無い。ただ気にするまでも無いのだ。
躱された、それが今起こったただ一つの事実であり、今更大きく騒ぐような場面でも無いのが事実。冷徹なスナイパーは、ただ事実だけを肯定する。
岩陰に隠れながら、倒すべきスナイパーを睨む。すると、こちらを狙っていた銃口が後ろへ引っ込んだ。
(チャンス? 罠?)
迷いが生まれるのは当然、しかし、一瞬が勝負を分けるこの戦場で、迷いはそのまま命を奪う。
再びこちらを向いた銃口が、一発銃弾を放った。さっきとほぼ同じサイズの岩に隠れている、たった一発で何ができるのか。
そう、たかをくくってしまった。
着弾した弾丸は、自分をナパーム弾と勘違いしたのか、その瞬間に爆発した。
「うわぁっ!!」
幸い爆発そのものは岩のおかげで直撃しなかった。しかし、爆発のせいで飛散した岩のかけらが、次々体に当たる。血は出ないもののそれなりに気を取られてしまう。
だが運のいいことに、煙のおかげで視界も悪い。これならばライフルで狙うことはできないだろう。
(煙に紛れて隠れれば……!!)
足に再び魔力を込める。しかし、動き出すことはできなかった。
ライフルの音と共に痛みが太ももに走った。見るのが怖かったが、すでに首は自然と動いている。
足に一つ、小さいがはっきりとした穴が空いていた。弾丸が太ももを貫通し、地面に刺さったのだ。穴からは血が流れ出ていて、まるで滝のようだった。
その事実をやっと脳内で噛み砕くと、急にさっきよりも大きい、業火のような痛みが生まれた。
「ぎゃああああああ!!!」
足を抑えて後ろへそのまま倒れる。
風に吹かれ、煙はどこかへと消えて行ってしまった。煙が晴れた向こう側に見えるのは、変わらずこちらを狙う銃口だけ。
「火属性の魔法、解釈次第なら爆発さえ起こせる」
テリンが狙っている訳じゃないが、どこを狙っているのか、なぜかはっきりわかった。
銃口は正確に自分の目と目の間を狙っている。目と目の間、脳幹を撃ち抜かれれば確実に即死する。
「さあ、チェックメイト」




