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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
鳥と人 エストリテ編
55/304

撃鉄 テリンvsカフォ

 岩陰に隠れ、テリンは機会をうかがっていてた。幸運だった、まだ自分が死んでいないことが。

 銃音がした。また遠くから弾丸が放たれ、自分の隠れている岩に着弾した。もう六発目になる。いい加減岩も限界が来る頃だろう。

 チラ、と地面を抉っている弾丸のめり込んだ痕を確認した。弾丸は地面へ深く潜り込み、その分土を地表へと盛り上げている。もしあれが自分自身に当たったらと考えると、まず間違いなく体の一部は抉られるだろう。


(最悪だ……ほんっと!)


 壁に隠れながら、できるだけ気配を殺しながら、心で大きく強く悪態をついた。

 自分が今持っているのはリボルバー銃、対して相手はスナイパーライフル、射程そのものもそうだが、威力も大きく違う。現に今自分が隠れている岩は、あと一発二発で崩れてしまいそうなほどだ。

 少しだけ顔を出してみる。遠くの方、少しだけぼやけて見える位置にスナイパーは居る。それだけ確認するとすぐに頭を下げた。

 その後すぐ、岩を銃弾が掠め、同じように地面に深く潜り込んだ。頭を下げるのが数瞬遅ければ、確実に脳天を貫かれていたことだろう。

 戦闘開始からずっとこの膠着状態だ。何をしようにも、結局ライフルで貫かれるのなら動きようが無い。


(焦るな……落ち着け……今自分にできることはなんだ?)


 冷静に頭を切り替えて、必死で考えを巡らす。

 今自分にあるもの、知識、銃、そして魔力。未だ魔法と言えないまでも、魔力のコントロールはそれなりにできるようになってきている。これを駆使し、なんとか相手の懐まで近づくことができたなら。


(……そうか……これなら)


 足を伸ばし、魔力を体に巡らす。

 二人に比べて冷静で分析力のあるテリンは、魔力を解放した時、体に起こる変化について、二人よりもよく理解できていた。()()()()()()()()()()()()()()()()()、何よりも体が強化されている感覚があった。

 魔力で体が強くなっている感覚、それを足に集中させる。同時に、自分を思い描く。圧倒的な脚力を得た自分だ。

 鳥のように空を飛べる訳ではないが、少なくとも脚力と走力は強くなっている。実証していないが、そんな感じがした。


「……いくぞ」


 猫が飛び出す時のあの丸まった姿勢、それを真似する。足のパワーを最大限地面に伝え、体がそれを邪魔しないようまっすぐに。狙うは次、隠れやすい手頃な岩のあるあの島だ。

 一瞬、わざと姿を晒した。スナイパーは、その一瞬を逃さない。

 また銃を撃った音がした。

 弾丸が放たれた音の一瞬だけ直前に、テリンは強く地面を蹴った。まるでテリン自身が弾丸になったかのように、強く地面から弾かれ、一瞬で次の浮島の岩陰に隠れることができた。弾丸は地面にただめり込んだ。


「外したか……魔力コントロール上手いな」


 テリンを狙うスナイパー、カフォは無機質に呟いた。

 もちろん命を奪えるように狙った。外したことに落胆してない訳でも無い。ただ気にするまでも無いのだ。

 躱された、それが今起こったただ一つの事実であり、今更大きく騒ぐような場面でも無いのが事実。冷徹なスナイパーは、ただ事実だけを肯定する。

 岩陰に隠れながら、倒すべきスナイパーを睨む。すると、こちらを狙っていた銃口が後ろへ引っ込んだ。


(チャンス? 罠?)


 迷いが生まれるのは当然、しかし、一瞬が勝負を分けるこの戦場で、迷いはそのまま命を奪う。

 再びこちらを向いた銃口が、一発銃弾を放った。さっきとほぼ同じサイズの岩に隠れている、たった一発で何ができるのか。

 そう、たかをくくってしまった。

 着弾した弾丸は、自分をナパーム弾と勘違いしたのか、その瞬間に爆発した。


「うわぁっ!!」


 幸い爆発そのものは岩のおかげで直撃しなかった。しかし、爆発のせいで飛散した岩のかけらが、次々体に当たる。血は出ないもののそれなりに気を取られてしまう。

 だが運のいいことに、煙のおかげで視界も悪い。これならばライフルで狙うことはできないだろう。


(煙に紛れて隠れれば……!!)


 足に再び魔力を込める。しかし、動き出すことはできなかった。

 ライフルの音と共に痛みが太ももに走った。見るのが怖かったが、すでに首は自然と動いている。

 足に一つ、小さいがはっきりとした穴が空いていた。弾丸が太ももを貫通し、地面に刺さったのだ。穴からは血が流れ出ていて、まるで滝のようだった。

 その事実をやっと脳内で噛み砕くと、急にさっきよりも大きい、業火のような痛みが生まれた。


「ぎゃああああああ!!!」


 足を抑えて後ろへそのまま倒れる。

 風に吹かれ、煙はどこかへと消えて行ってしまった。煙が晴れた向こう側に見えるのは、変わらずこちらを狙う銃口だけ。


「火属性の魔法、解釈次第なら爆発さえ起こせる」


 テリンが狙っている訳じゃないが、どこを狙っているのか、なぜかはっきりわかった。

 銃口は正確に自分の目と目の間を狙っている。目と目の間、脳幹を撃ち抜かれれば確実に即死する。


「さあ、チェックメイト」

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