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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
鳥と人 エストリテ編
53/304

雷撃 サグvsビシェイル

 島の中央部にある空洞の中、サグとビシェイルはぶつかり合っていた。

 実践経験の少ないサグにとっては、目の前の情報と今まで旅の中での修行が全て。全てをうまく組み合わせて対抗している。

 ビシェイルが振り下ろした剣を、ナイフで受け止めて上と下の位置を一瞬で組み替える。


(上を取りに来た?)


 ビシェイルは一瞬混乱するが、行動の理由はすぐにわかった。

 そのままナイフを剣の上で滑らせ、首を切り捨てようとする。ギリギリで、後ろに体を逸らして躱されたが、今度はナイフを逆手に持って突き刺そうとした。


(ほぉ…いいコンボだ)


 最悪命を奪われるというのに、ビシェイルはサグのセンスに、純粋な関心を持っていた。

 ナイフを振り下ろす前に、勢いよく上体を起こしたビシェイルの頭突きが命中し、よろめいてしまう。鼻を突き抜けるような痛みが染みた。


「くっ」


 涙が滲み、視界が歪んだ。なんとか目を開けると、すぐそこまでビシェイルの剣が迫っていた。顔をギリギリで逸らしたが、わずかに頬に擦り、血が流れた。

 ナイフで体の横側を狙う。しかし読み通りだったらしい、ビシェイルの強力な、攻撃性を持った魔力を纏った膝蹴りが、サグの腹を捉えた。


「グッ」


 雷属性の痺れる力が体に染み込んでくる、血流と一緒に電流が体に流れた。

 そもそも蹴りそのものも痛い、あの洞窟で戦った時に受けた肘鉄を思い出す。それと同じ威力の打撃に、強力な電流がプラスされている感覚だ。


(これが…俺と同じ…雷属性の攻撃か!!)


 痛みの中でサグはどこか的外れなことを感じていた。

 咳き込みながらゴロゴロ転がってしまう。意識が彼方まで飛びかけるが、殺意満々の相手を見て意識を戻す。

 剣を大きく振りかぶって、確実に殺し切れる斬撃を繰り出してきた。だが油断が出たのだろうか、構えが大きすぎたのだ。サグは剣を正確に見切り、わざと紙一重で躱し横から抜けた。すれ違いざま素早くナイフで腕を斬る。


(手応えあり!)


 すれ違った瞬間に確信した。相手の腕を斬ることができた、確実に成功していると。確信した感覚を確かめるべくチラと相手の方を見る。


「!!」


 切れている袖から、ほんの少し血が流れているのが見えた。思ったよりも傷が浅い、咄嗟に腕を引いて、ちょっと擦れただけの傷に収まってしまったらしい。


「クソッ!!」


 あまりの悔しさにみっともなく叫んだ。戦闘中にするべき行為でないのはわかっているが、流石に渾身の一撃を外したショックは大きい。

 だがビシェイルは正直驚いていた。ただの子供だと思っていた相手が自分の剣を躱し、そのまま自分の腕を切り裂いてきた。

 ビシェイルは10代の頃から今まで、十年以上神軍に所属し訓練を受けてきた、レイゴスやヘリオ以上の熟練兵士だ。経験や鍛えてきた歴はサグなんかとは比べ物にならない。かすり傷すら恥となるほどの経験の差がある。

 だが血を流してしまった。それも剣とナイフという圧倒的リーチ差のある武器で。


(これほどか…)


 柄にも無く自然と口角が釣り上がった。

 実のところ、ここ最近は平和なせいで退屈していた。自分の警備区域はそもそもの犯罪率も低く、戦闘に発展すること自体がそうなかった。神軍の訓練場で同期とバチバチしていた頃とは大違いだ。戦いが好きな身からすれば、退屈ほどの地獄は無い。

 目の前にいる才能あふれる少年は、常に自分の想像を超えてくる。一度がっかりした自分の心を裏切るように。


(ディオブが相手にならないのは少し残念だったが…十分以上だ)


 剣を握る手にもう一度力を込めた。楽しくてしょうがない、殺し合いには不似合いな感情が溢れてくる。


「いくぞ?」


 攻撃の宣誓、殺し合いの場では、ふざけているようにしか思えないが、ビシェイルは至極真面目だ。

 地面を蹴るように駆け出して剣を構える。対照的にサグはグッと腰を落としてナイフを握り直す、体制としてバスケのディフェンスに近い。

 横なぎに大きく剣を振るう、わかりやすい振り方だったから地面に伏せるようにして剣を避けた。


(ここ!!)


 片手で体を支え、ブレイクダンスのように体を回転させる。ビシェイルの足を蹴り払うつもりだったが、まるで縄跳びのように、小さくジャンプして躱されてしまった。空中で剣の柄頭に手を添えてサグを狙う。


(やべ!!)


 すんでのところで後ろに下がって剣を躱した。剣は三割ほど地面に刺さっている、ぱっと見簡単には抜けない。

 走って飛び込んで、お返しとばかりに胸を思いっきり殴った、魔力を纏わせ、攻撃性全開のバチバチ音の鳴る最高のやつだ。

 二、三メートル飛ばされたビシェイルは、胸を抑えて少しだけ苦しんでいるようだった。しかし不気味なことに口角が全く下がらない。


(チャンス!!)


 剣を握っておらず、ダメージに苦しんでいる今こそ最大のチャンスだった。

 突然、ビシェイルが片手で銃の形を取った。なんの抵抗かハッタリか、考える時間がもったいなく感じ、疑問を殺して特攻する。

 指に眩しく電気が弾けた。サグと同じ雷属性の魔力だ。”まずい”思った時にはもう遅い。サグの肩を、目に追えない何かが貫いた。


「クアッ」


 肩の傷から味わったことのない痛みと熱さを感じた。

 肩の傷を押さえて地面へ倒れ込んでしまった。痛みを感じる余地もない、熱すぎて痛さを感じることができない。歯を食いしばりながら見上げると、ビシェイルが手を銃の形にしたままこちらを見下していた。指をふっとカッコつけて吹く。


「これが魔法だよ、少年」

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