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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
鳥と人 エストリテ編
52/304

天空バトル三対三

 スピードボートは名の通り普通の船よりはやい、小さい分空気抵抗が少なく、余計な物を積まないから重量がかさま無い。つまり何が言いたいのか、サグ達のスピードボートと、神軍の船はほぼ同時に浮島に到着したということだ。

 作戦立案のため自動操縦の最大速で移動した、移動中に攻撃されないようにわざわざ高い位置を通って。


「作戦は?」

「ないよ」


 イリエルは適当な口調で答えて見せた。正直呆れさえしてしまうが、あまりに突然の状況だったのでしょうが無い。


「俺とイリエル、あとの三人に分かれて行動する」


 ディオブが突然仕切り出した、しかしあの鉱山で脱出する時、全てを考えていたのはディオブだった。先まで見通せる力があるのは間違いない。


「俺とイリエルはあの神軍の船に忍び込む、中に入るななんて指定しやがったんだ、まず何かある」

「私も全部知ってるわけじゃないわ、ありそうね」


 二人とも同じ考えらしく、下で突入の準備を進めている神軍の船を睨んだ。


「問題はあの三人だ、俺の見立てじゃまず強いと思うぞ?」


 ディオブがイリエルを睨むように見た。目つきが悪いのは、イリエルに怒っているからでは無いだろう。


「ええ、三人とも神軍内で一目置かれる実力者よ」


 イリエルの表情は硬い。それだけ三人の危険度を表している。


「多分作戦的には、あの三人が先行して入り込むはずだ、そして他の雑兵どもが島を囲む」

「どうしてそう思うの?」

「魔法なら多くの敵を一気に倒せる、実力者ならば尚更な、それに万が一マーコアニスを逃した時それを片付ける必要がある、逃して島民を危険に晒すわけにいかんからな」


 二人は上から下の島を指差しながら、大体の考えを並べていく。

 未だその手の話の知識が無い三人では、二人の話を聞くことしかできなかった。


「俺が戦ってもいいが、三対一は辛い、イリエルの実力もちゃんと知らないからな」

「じゃあどうするの?」

「サグ、テリン、エボット、三人で戦ってもらう」


 自分たちの名前がようやく登場したが、登場するタイミングとしては正直最悪だった。作戦を論じていたイリエルも、流石に驚いて何も言えない様子だった。


「それ、大丈夫なの?あなたより三人とも弱いでしょ」


 ずばっと言われてしまうが、正しいので何も言い返せない。


「……正直、これは恐ろしいギャンブルだ」


 ディオブが三人を見つめる、目は、言っている事の不安定さとはかけ離れて真っ直ぐだった。信頼、期待、そんなプラスの感情を感じる。自分たちが感じている恐怖や不安とは正反対だ。


「お前ら」


 優しい声だった。ただ慰めるときのような宥め声では無い。喜んでいるときに出てくる、明るく高い声だ。


「お前らは天才だ」

「魔力コントロールだけじゃない、魔法に関しても」

「俺は今日、それを確信した」


 短い付き合いだが、どれが本音でどれが嘘かくらいわかってきた。真剣な目が、茶化したり、煽てたりしているしているわけでは無いことを証明する。


「魔法はどの状況によって目覚めるか誰もわからない、俺はお前らの可能性に、賭ける」


 不安ではあった。しかしここに来ている以上何かは成し遂げなくてはならない、覚悟は、すでに決まっていた。

 声は出さない、ただ一度、同時に強くうなづいた。それが答えだ。


「よし、作戦は決まった」


 ディオブが宣言した。すっと息を整える、緊張している、それも今まで無いほどに。

 エボットが船内の操縦室で自動操縦から切り替えて、神軍の船とは真反対にボートを停めた。ここならば島からも見えないだろう。


「それじゃ、やるぞ!」


 ディオブとイリエルは島の外周を走り神軍の船を目指す。

 三人は島の中央の窪みへと、山のような坂を登った。そして山の天辺に立ったとき、その正面に神軍の三人を見た。


「子供?なぜここにいる?」

「神軍…!!!」


 サグ達三人とも、それぞれの武器を抜いた。

 明らかに敵意を向けられている、歴戦の戦士でなくとも、相手が武器を抜けばそれくらいわかる。


「戦う気か?なぜそのようなことを」


 心底不思議そうにビシェイルが言った。確かにこれだけの後継では不思議でならないだろう。


「……イリエルを傷つけたからだ……気持ちを踏み躙ったからだ!」

「そして……このまま動物を殺すつもりならば、容赦はしない!」


 カッコつけた。正直言って実力は相手の方が上だ、こうして向き合うとそれがよくわかる。しかし自分を鼓舞する意味でも、こうやってカッコつけて、真正面から堂々と向き合うのがちょうどよかった。

 相手は多分、こちらを舐め切っている。ある意味当然だ、いきなり目の前に現れた明らかに弱い連中が”容赦しない!”なんて叫んでも何の恐怖も抱かない。


「……イリエルの言った通り、あのブヨブヨは確かにスカイストムだな……」


 ビシェイルが島の窪みを覗き込みながら言った。

 いきなり中から、赤の閃光のようなものが飛び出してきた。


「マーコアニス!」


 テリンが叫んだ。伝わるかわからないが、銃を隠しマーコアニスへ敵意がないことを証明する。

 反対にビシェイルは剣を抜いた。両脇の二人はビシェイルの剣を見て、自分たちの武器から手を離す。

 足を後ろへ下げて、体勢をグッと低くして構える。何が起こるか察してしまった。


「やめろ!!!」


 叫ぶが遅い。

 ビシェイルは大きくジャンプした、マーコアニスがいる上空に届くほどに。

 突然やってきた人間が自分に敵意を持っている、そう判断したマーコアニスは巨大化した。爪は胴ほど足がビシェイルを潰せるほど大きい。


「電光斬」


 地上のサグには逆光でちゃんとは見えなかったが、ビシェイルの剣が黄色く光り、サグの魔力と同じように弾けた。そして一瞬のうちにマーコアニスを切り伏せた。鼓膜を劈くような高音の悲鳴が聞こえる、あまりの音に思わず耳を塞いでしまった。

 そのままマーコアニスは巨大なまま窪みへ自由落下した。力無く、ぐったりとした様子で。大きかったせいで島が少しだけ揺れた。

 覗き込んで様子を確認してみる、想像よりも血は出ていなかったが、ぴくりとも動いていない。完全に絶命してしまっている。残りのマーコアニス達はスカイストムと共に端っこに固まって震えている。


「なんて酷いことを!」


 エボットが怒り心頭で叫んだ。地上に降り立ったビシェイルは隣に立つ男、たしかストル・バシフォードといった、とハイタッチをしていた。うまくいって喜んでいる様子だ。そんな二人にまたエボットは怒る。


「一つ聞かせろ」


 低い低い、静かな怒気。テリンとエボットは覚えがある。初めてたどり着いた島で見せたあの怒り方、レイゴス・ビルカードと向き合った時にそっくりだった。


「なぜ躊躇なく殺せる、命だぞ」


 質問もあの時とほぼ同じ。違うのは殺す対象だけ。ただ質問の重さはあの時とは桁違いだ。

 今のサグたちは、イリエルの過去を知っている。動物と人間の殺し合いを止めたいという意思を知っている。だからこそ、目の前の兵士が許せなくて仕方ない。

 ビシェイルは笑ってはいなかった、真剣な瞳でこちらを見ている。


「神が言ったからさ」


 声に嘘や茶化し、からかいは一切感じない。


「私は神に使える愚かな信徒、ただ殺せと命じられたなら殺すし、任を与えられたなら果たす、それだけだ」


 まるで祈るかのような語り口だ。なぜかビシェイルが手を合わせ、跪いている情景が浮かんだ。

 心酔し切った心、盲目に殺しを許容する考え。全てが気に入らなかった。

 故郷の赤い光景を知っているから、余計に。


「わかった……」

「敵だ……」


 自分でも不思議な感覚だった。心はこんなにも怒って熱いのに、心臓の鼓動が極端に弱く感じる。魔力修行で慣れてしまったせいだろうか。

 無自覚だったが、サグの手に魔力が集まって雷が弾けていた。あまりに強すぎたので、弾けた雷が地面を傷つけていた。

 そんな光景を、エボットとテリンは驚きつつ、ヒントを逃さないように見ていた。

 ビシェイルも剣を真っ直ぐに構える、両手で握って小指に力を込める。ナイフを握る手に力が入る。

 次の瞬間、サグとビシェイルは空中でぶつかり合っていた。ナイフと剣がぶつかり、稲妻が周囲の地面を傷つける。


「ああああああ!!!!!」

「はあああああ!!!!!」


 叫びと同調するかのように、稲妻も激しさを増していった。見ている四人は腕でガードをしてしまうほど激しい。

 サグは拳を強く握り、ビシェイルを上から殴った。雷の魔力を纏った拳は、エボットとトレーニングしていた時とは比べ物にならないほどの敵意を、相手を傷つける意思を持っていた。まるで落雷のように炸裂した拳を、ビシェイルはノーガードで受けてしまった。

 自分が切ったマーコアニスと同じ、窪みの中へと叩き落とされる。サグもそのまま窪みの中へ着地した。


「サグ!」

「よそみぃ!」


 サグを心配し下を見たエボット、その隙をついたバシフォードの拳が飛んできた。ギリギリのところで槍を構えてガードした、サグとのトレーニングも無駄じゃなかったらしい。しかし相手はサグよりも武術に優れている。もう片方の腕からヌンチャクが飛んできた。


「フォウ!」

「ぐっ!?」


 頬に重いものが当たった。鈍く揺れるような痛みが頭に響く。だが意識を失うわけにいかない、口の内側を噛んで相手をキッと睨む。

 片手を槍から離して、裏拳で相手の顳顬を思いっきり殴った。手応えからして、クリーンヒットしたのだが、大して応えていない。


「ってえなあ!仕返しぃ!!」


 もう一度拳で殴りかかってきた。腕でガードしたのだが、さっきよりも強く、さっきよりも重い一撃だ。足が後ろに下がっていくのがわかった。


(しまっ!)

「オラァ!!」


 殴りながら、バシフォードの拳は勢いを増した。ガードしていたままでは耐えきれず、体勢を崩し、小さな浮島まで飛ばされてしまった。バシフォードはケラケラ笑いながら追撃する。


「私たちも始めようか」


 テリンと睨みあう女、カフォ・ティトルは銃を構えていた。スコープ付きの長距離用ライフル、所謂スナイパーライフルだ、昨日読んだ本の中にあった。

 手に魔力を集めて炎を出す。すでに温度のコントロールを体得し、ある程度の攻撃性は持っている。

 さらに魔力をコントロールできるかどうかで、身体能力や体の硬さは変わる、銃弾相手にどこまで通用するかわからないが、やるだけやってみることにした。

 カフォがライフルの銃口をこちらへ向けた。その瞬間に体勢を低くして躱す。見えているわけじゃない、単純に撃ってくると思ったから体勢を低くした。


「へえ」


 少しだけ驚いているようだ。流石に躱されるとは思ってなかったらしい。

 テリンはジャンプしてカフォの眼前へ飛んだ。


「はっ!」


 そのまま蹴りを喰らわせようとする、しかしカフォは空中にライフルを放り投げ、テリンの足をがっちり掴んだ。そのまままるでハンマー投げのように振り回し、投げ飛ばした。


「うわあっ!!」


 テリンもまた、小さな浮島の一つへ落ちる。

 ライフルをキャッチし、無機質な顔でスコープを覗く。スナイパーにとって絶好な状況へと追い込まれてしまったのだ。

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