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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
鳥と人 エストリテ編
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女の子のテンション

 食事を終えて、四人は街を歩く。昨日イリエルから聞いたとおりにこの島、エストリテの役所を目指していた。イーオートから貰った島の観光案内用マップを見て進んでいるが、どうにも同じような建物が多くて道が分かりにくい。


「えっと……あれが交易所……あっちが図書館だから……」


 マップと睨めっこしながら一つ一つ指差し確認しながら場所を確認する、道行く島民たちは何事かと訝しむ目で見てくるが、すれ違った時に聞こえてくる言葉から、慣れていない人間だと察してすぐ視線を逸らす。不快では無いのだが、少しばかりチラチラして気になってしまう。

 他の三人もキョロキョロ見回してどこに何があるか確認している。エボットなんかは地図を読むのが上手いので、三人よりも少し早く理解しているようだった。


「あっちだ」


 エボットが右に曲がる道を指差した。地図で見てもおそらく正しかったのでそれに従う。角を曲がると、分かりやすい目印となる大木が一本、この島の人々は晴れた日にこの木陰で休むのが好き、と観光案内の資料に書いてある。周囲の地面もちゃんと整備されて歩きやすく、どうやらこの辺りは島民たちの憩いの場となっているらしい。

 大木を中心に置いた広場で、説明書きの看板を正面にして後ろ側にあるのが、探していた役所だった。元々白っぽい色の大きな六階建ての立派な建物で、おそらく島の建物の中では一番高い。正面入り口前にはいくつかベンチが置かれていた。その中に見慣れた白衣を着る少女、目の前にいるスズメにパンをばら撒きながら、その様子をノートに書いているらしい。


「何してんだよ」


 駆け寄って話しかけると、突然現れたサグたちにびっくりしたスズメたちが一瞬で飛び立ってしまった。


「あ〜っ!」


 残念そうに地面に項垂れるイリエル、改めて目の前の少女が動物好きだと認識した。

 手についた土を払いながら立ち上がった、ちょっとだけ四人に恨めしそうな目線を向けながら。視線の意味をサグはわかっていたが、面倒だったので完全に無視した。


「イリエル、どうだった?」


 話し込んで聞きたかったことから逸れるのも面倒だったので、真剣な顔をして単刀直入に話をする。雰囲気を察したのか、不満を隠しもしなかったイリエルの顔も引き締まる。


「とりあえず調査結果を報告して、今日この島の人たちに話をするはずよ」

「どういうふうに纏まった?」


 ディオブが眉間に皺を寄せて、分かりやすく疑った顔をしている。たぶんイリエルを疑っているわけでは無いのだろう。

 ディオブは四人の中で一番神軍が嫌いだ、もちろんサグも嫌いではあるが、ディオブに比べれば大した事はないの領域に留まる。だからあんなにも明らかに嫌な顔をしている。


「報告を元にして今日、島民たちに発表するって今朝聞いたわ」


 イリエルも昨日の態度から自分ではないことを察しているようで、尖った態度を取らず優しく答えた。一波乱あるかと思っていたが、杞憂だったようだ。自然に大きく息を吐いた。両肩に同時に手が置かれた、どうやらテリンとエボットも同じ心配をしていたらしく、若干疲れた顔をしていた。


「ずいぶん曖昧な答えだな」

「私は生物研究を担当してるだけなの、だからこういう行動的なことは領分じゃないのよ」


 手をひらひらとしながら答える。少しだけ無責任にも聞こえるが、イリエルの年齢は自分たちと同じくらいに見える、分類的にはまだ子供に当たる歳の人間が代表するよりも、経験豊富な他の神軍に任せた方が適当だろう。イリエルの言った通り立場的なところもある。


「その発表ってのはいつだ?」

「えっと……確か十時からだから……あと一時間くらいでこの島の大通りで」


 イリエルの腕時計によると、今は大体八時五十分くらいだった。確かにあと一時間ほどで十時だが、それまでは何もすることが無い。

 ちょっとだけ考えていると、サグの肩にエボットが腕を回してきた。


「よっしゃ!俺らはトレーニングだ!」


 エボットは本当に嬉しそうな顔だ、どうやら朝のことで完全にスイッチが入ってしまったらしい。ため息を吐きつつもサグも多少不完全燃焼だったので付き合うことにした。

 すっかりその気になっていたのだが、目の前にズイ!と現れたディオブが、両手で二人同時にチョップを喰らわせた。叫ぶほどではないがちゃんと痛いチョップだった。


「ダメだ、またテンション上げて怪我でもされたらかなわん」


 さっきと同じくらい眉間に皺を寄せて、けれどさっきよりも機嫌悪そうに言った。エボットの頬には、さっきの切り傷のせいでできた傷を抑える絆創膏が貼られている。多少血が出た程度で済んだが、骨を折るなどもっと大きな怪我に繋がりかねない。頭の冷静な部分がが止めるべきだと囁いていた。


「じゃあ買い物行こう!」

「「「「えっ?」」」」


 テリンが嬉しそうに言った。全員のポカン顔を置いてけぼりにしたまま、テリンは楽しそうに笑っている。視線はまっすぐにイリエルへと向けられていた。どうやらイリエルと買い物に行きたいらしい、顔は見えないがキラキラした雰囲気が伝わってくる。

 対照的にイリエルはタジタジだった。自分は(動物を)ジロジロ見るくせに、自分が見られる側になったら恥ずかしいらしい。白衣の袖口を握って恥ずかしそうに顔を隠している、腕の隙間から見える顔は薄く赤色に染まっている。

 考えてみれば、テリンは故郷にいた頃から同年代の女子の友達に恵まれなかった。ちょっと年下の女の子はいたが、ほぼ同い年はいない。さらに今まで男ばっかりだっただけにテンションが上がっているのだろう。


「行こうイリエル!」

「えっえっ?」


 顔をガードしていた腕をがっちり掴んで駆け出した。あまりの勢いにイリエルはそのまま引っ張られて行ってしまった。まるで昨日の逆バージョンだ。


「行くか」


 喉の奥で鳴るように笑っていたディオブが二人を追って駆け出した。エボットと顔を合わせてから一緒に走り出す、エボットにほんの少し不満が見えたのは内緒だ。




「つっ……疲れた……」


 振り回されたイリエルはすっかり疲れ切って、腕をだらんとさせて肩のラインなんかは大体サグの肘くらいまで低い。昨日あれだけアクティブに動いていたのに、ギャップに驚かされる。


「マーコアニスと向き合った時のプレッシャーよか大丈夫でしょ」

「あの時は必死だったから〜」


 呆れ顔で言うと、疲れ切った声で絞り出したような返答だった。正直なところ、本当に昨日一緒にいたのと同じ人物かどうかさえ疑わしく感じてきてしまった。

 本当に対照的にだが、集団から外れて戦闘を楽しそうにステップ混じりで歩くテリンは、見たことが無いほどに楽しそうだった。ショッピング中は服屋に入っては気に入った服を次々にイリエルに着せた、まるで幼児が着せ替え人形で遊ぶように、だ。他の三人で自分たちの服を見繕ったが、テリンの熱量には流石に敵わない。さんざ着せ替えられて、テリンが着た服の感想も求められてタジタジになっていたのは笑えた。


「もう九時五十五分、とりあえず間に合ったか……」

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