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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
鳥と人 エストリテ編
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朝の戦争

「はいそこまで」


 二人の額はぶつかる直前で、ディオブの大きな手で止められた。二人の喧嘩にしか見えないトレーニングを見たディオブは、見たことないほどの呆れ顔だった。


「ったく、何朝からはしゃいでんだ、エボット血ぃ出ちまってるじゃねえか」


 言われてから、ようやく自分の頬を伝う生暖かいものに気づいた。親指でその辺りを擦ると、指にまだ流れ出たばかりの血と、ほんの僅かだが固まり始めた血が付いた。


(切り傷?いつの間に?)


 頬の傷なので見ることはできなかったが、なんとなく触った感じで切り傷だと分かった。だが心当たりが全くない、サグは今日まだいつも使っているナイフを使用していないからだ。

 当のサグは自分の拳を見つめていた。腕でエボットの拳をガードした時、エボットが魔力を込めていたことから、自分も無意識に雷の魔力を拳に集めていたことに気づいたのだ。しかし、あの傷のようにまだ相手を傷つけるほどの攻撃性はなかったはずだった。


(無意識に進化してる?)


 なんとなくだがそんな気がした。そしてそれは当たっている。トレーニングの中で、二人ははっきり”こいつをぶん殴る!”とイメージした。そして上がり切ったテンションのおかげで、無意識下で魔力を解放する事ができた。つまり二人は魔法を編み出す第一歩を踏み出したのだ。それを理解はできていなかったが、直感はできていた。

 そしてそのすべての顛末と、持ち前の知識理解力で全てをほぼ把握している少女が一人。


「先……こされちゃったな」


 テリン・イアムク、実はエボットが部屋を出てすぐくらいに彼女も目を覚ましていた。そして外に出たが、二人がトレーニングを始めてしまい話しかけるタイミングを失ってしまった。仕方ないので二人のトレーニングを見学することにした。

 テリンは銃を入手してから今までリボルバーの方ばかり使っていた、なんとなく使っていただけだったが、昨日銃の構造を見たことで、銃と魔法を同時に活かす方法を思いつき、魔力を解放して魔法開発をしていたのだが、二人の方が先に”魔力”から”魔法”の領域へ至ってしまった。それがどうしようもなく悔しくて、訳のわからない感情が胸の奥から溢れ出てきた。


「はあ……」


 ため息を一つこぼし、仕方ないの一言に感情を仕舞う。結局、やるしか今自分には選択肢がなかったからだ。




 程なくドックにいる全員が目を覚まし、すぐに朝食となった。朝も量はなかなかのもので、大量のスクランブルエッグにウインナー、そして焼き立てトーストがいくつも重ねられてタワーになっている、だがその割にジャムの瓶はイチゴ、ブルーベリー、マーマレードが各種二つずつにバターの箱が三つだけ。何かアンバランスなものを感じながらゆっくり席に着く。今日は隣にイーオートが座っていた。ちなみに今日はテリンとトエリコは別の席だったが、ディオブの膝の上にイーグが座っていた。ポンっという感じにリズムをつけて、イーオートがサグの肩を叩いた。


「気をつけた方がいいですよ?朝は戦争ですから」


 優しい口調だったが、表情はいたずらっ子のような性格の悪さが滲み出ていた。

 その矛盾の理由にサグが気づいたのは、すぐ後だ。

 最後にドックの料理長ヘイゼルがケチャップをテーブルに置き席についた。そして全員が揃ったのを確認してから、セイルが音が響くほど勢いよく手を合わせた、サグたち他の面々も一拍遅れてから手をあわせる。


(あれ?)


 その時サグはようやく気づいた。この肌に刺さるプレッシャー、昨日の夕食とは全く違う、ちょっと怖くなってくる雰囲気は一体なんだろうか。


「いただきます!!!」

『いただきます!!!!!』


 怒号にさえ聞こえるセイルの挨拶と同時に、全員が置いてある食事に手を伸ばした。驚いたことに、あれだけ高く積まれていたトーストのタワーが一瞬で一つ消えた。サグも落ち着いて一つパンを取る。手に取り顔に近づけた瞬間、焼きたてパンの香りが鼻腔を突き抜けて脳を刺激した。焼き目や手に取った時の感触も素晴らしい、パン一つとってもヘイゼルは本当に料理が上手いらしい。ぜひこれは熱いうちに食べたい。


「あれ?ジャムは?」


 一番好みのブルーベリーのジャムを探すが、どこにも見えない。というよりも探そうとして視界に入ってくるのは、ほぼ全員がまるで獣のようにパンを取っている様だ。ジャムをザザッと雑に塗りたくってはまるで噛みつくかのようにパンを食べている。


ほうほ(どうぞ)

「あっどうも」


 パンを食べている途中のイーオートからマーマレードのジャムを手渡された。少しマーマレードは苦手なのだが、見つからないのなら仕方ない、さっと塗ってからテーブルに置いた。すると誰が取ったのかわからないほどの速度で腕が出てきてジャムが消えてしまった。

 ポカンとして開いた口が塞がらなかった。間抜けっぽく見えたのか、イーオートは片手でパンを支えながら笑っていた。


「あの〜……これって?」


 言ってからパンを咥えた。やっぱりブルーベリーを探せばよかったと少しだけ後悔した。

 ごくりと口の中のものを飲み込んでから、イーオートは答えた。


「言ったとおりです、朝は戦争なんですよ」

「ええ……」


 確かに、この状況を見ればなんとなくわかるが、流石に急ぎすぎじゃないかとも思う。


「だいたいみんなはそんな反応です、ですが慣れてる人ほど急いでたくさん食べるんですよ」

「というと?」

「船造りの作業は過酷です、重い道具や材料を運ぶのもそうですが、状況によっては死のプレッシャーとも戦わねばならない、その時擦り減らす神経と体力は想像を絶します」

「となると、朝に量を食べる事です、プレッシャーを経験した人間ほど、食べようとするんですよ」


 イーオートの説明で納得はしたが、あまりに見える光景が異次元で、さっきまでの平穏な時間に置いてけぼりにされたようだ。ちら、と向かいの席を見ると、同じくポカンとした顔のテリンと目があった。それがお互いに面白くてプスっと空気が漏れたように笑う。トーストは一枚食べたが、流石にまだ腹は満たされていない、今鳴ったばかりの腹の音が証拠だ。


「食べるか」

「そうね」


 食べようとしてサグもテリンも身を乗り出した。何枚かパンを取ってジャムを塗ろうとする、偶然ラッキーなことに目の前にブルーベリーのジャムの瓶を発見した。


(ラッキー)


 手を伸ばしたが、目の前でさっと消えてしまった。誰が取ったのか見ると、驚いたことに犯人はエボットだった。周りの熱に浮かされたのか、さっきのテンションが残っているのか、他の作業員たちと揉み合いながら食事をしている。

 驚きにほんの少しだけ固まってしまったが、空腹に身を任せて、荒々しい食事の場に二人で飛び込んだ。


「上手いか〜イーグ」

「うん!」


 ちなみにディオブは端っこでイーグと平和に食事を楽しんでたいた。

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