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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
鳥と人 エストリテ編
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島での朝

 朝、優しい日差しが撫でるように入り込んで、柔らかく目を覚ましてくれた。

 布団を握りながら、ゆっくり体を起こす。それだけの当たり前の動作だったのだが、少しだけ体が痛かった。昨日の食事の後、居ても経っても居られなくなって、結局三人でひたすら本の通りやってみたからだ。暗い中、テンションを上げてやりすぎてしまったので、失敗して蹴りや拳が当たったり、すっ転んで顔を打ったりしてしまった。

 まだ誰も起きていないようで、他の三人は布団に包まって寝息を立てている。部屋の端っこで服をササッと着替えて、足音を立てないように抜き足差しでコソコソ外へと出る。ドックにはダスポウ一家の他に住み込みで働いている弟子たちも住んでいるのだが、朝早すぎるようで廊下を歩いても誰にも出会わなかった。


(たまには良いな、こういうの)


 普段とは違うというものは、自然とテンションを上げてしまうものだ。サグも例に漏れず、少しだけ楽しくなってきている。

 ドアを開けると、そこには自分たちの船があった。ドックの機械で色んなところが改修され、見た目はだいぶ変わっている。まず一番大きかったマストが無いことだ、昨日すでに外されていたが、一度寝て新鮮な気持ちで見ると、改めて変わっていることが分かる。そして故郷を襲われてから必死に逃げ延びた島で世話になった古い形式の錨だ。槍型のせいで、外された今ではそういう武器にしか見えない。代わりに錨があった部分には、明らかに仮で埋めるようの板が付けられていた。

 板の側に見慣れない黒い電気コードのような物を発見した。しっかり接着されているわけでは無いようで、何箇所かはピッタリくっついていたが、大部分は弛んでぷらぷらと浮いていた。

 すっかり、というほどの変化でもないし、まだまだ途中のようだが変わっていく船になんとなくの寂しさを覚えてしまう。手に入れてから大した時間も経って居ないのだが、これが愛着という物だろうか。

 とりあえず外に出た。外に出てから気づいたが、今日は少しだけ気温が低い日らしい。肌に感じる冷たい空気に身を震わせて、鳥肌が立ってしまった。


(とりあえず体動かしてみるか)


 とりあえず、昨日やっていたことを思い出して一人でトレーニングをしてみることにした。昨日疲れてあっという間に寝たおかげで、使ったナイフがそのまま懐に入っていた、しかしそのせいで体の変なところが痛い。体を鍛えるということを始めたばかりだから仕方ないことだとしても、疲れすぎてもすぐ寝ないように気をつけなくてはならないだろう。


「フッ!ダッ!」

 

 拳を突き出し、足を大きく振り、ナイフで空想の敵を切る。エボット用の武術の本に書いてあったところによると、一人でトレーニングをする時ははっきりと相手をイメージすることが大切らしい、だから存在しない人間をしっかりイメージして拳を出したり、蹴りを繰り出したりする。しかしサグはベテランの武術家では無い、最近鍛え始めたばかりの少年だ。ベテランでもはっきりイメージできない人間は居る、はっきり言ってサグのイメージなど論外も良いところだ。それは自分でもよく自覚できていた。


「くっそっ……!」

(結局、ただ殴るイメージ持ってるだけだな……)


 拳が空を切っているだけ、結局そこを意識してしまう。人を殴りたいわけでは無いのだが、早く強くなりたいのにやっていることはどうも実践的ではないというのが感想だ。素人だがそれくらいは分かる。


「早起きだな!サグ!」


 元気の良い声が聞こえてきた。サグの親友エボットだ、あくび混じりで体を大きく伸ばしながらこっちへ歩く。まだまだ顔は眠そうで冴えず、目なんか開いているように見えない。


「エボット!まだ眠そうじゃん」

「まあな、流石に寝起きはキツい」


 言いながらまた一つあくびをした。髪もボサボサで、起きてそのまんま外に出てきたという感じだ。


「も少し身だしなみを〜なんとかさ」

「いやあ、お前が外にいるって気づいたもんでな、つい」


 首や腕をコキコキ鳴らしながら、ゆっくりエボットの目が開いていく。サグの正面に立って、拳を握り構える。


「やろうぜ?朝の運動だ」

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