部隊会議
「そうか……マーコアニスたちは、あの伝説のスカイストムを守っていたのか」
神軍用戦艦内船艇付近、臨時会議室にて、今回派遣されている舞台の主要メンバーが集まっていた。部隊長初め主導する者たちは席に座り、今回調査をしてきたイリエルは、ボードを利用しながら結果と考察を話していた。
イリエルの話を聞くメンバーの表情は重く渋い。顎に手を当てていたり、眉間を摘んで下を向いていたりそれぞれだが、明るい表情をしているのは一人としていない。
「その通りです、ビシェイル隊長」
イリエルが会議机の一番向かい側に座っている男、ホウド・ビシェイルに答えた。ビシェイルも、他と変わらず難しい顔をしていた。というのも、原因はイリエルの話の内容にあった。
「イリエル・トントークくん……キミの話は、全てが推測混じりの希望的観測に過ぎないのではないか?」
マーコアニスたちがあの浮島で何をしていたのか、何のために島から野菜を持って行っていたのか、そこまではよかった。しかし、”スカイストムが成体になる時期”については苦言を呈さざるを得ない。そもそもスカイストムという存在が大したデータの無いいわば伝説のようなものなのだ。だというのに、”もうすぐ成体になって飛び立つ”と言われても信じられないのも当然だ。
「はい、そこに関しては私も不安な推測だと思っております」
「ですが、生物研究班の研究室には世界中から集めたデータが五件程度、そして私自身で一件、スカイストムが成体になるまでのデータを観測しております」
「それを総合して早ければ明日、少なくとも数日以内という結果を出しました」
「生物研究班のデータと研究の正確さは、隊長もよくお分かりですよね」
「……」
ビシェイルは何も言わない、しかし考えはしている、そしてイリエルの言葉が正しいことも、よくわかっている。
今回の任務にビシェイルが選ばれた理由は、元々生物研究班の出身だからだ。だからこそ警備に関わる部隊の中では、様々な生物に対する知識と理解を持っている、イリエルの言う通り生物研究班のデータの正しさもよく知っていた。
ビシェイルの心理をイリエルはほぼ正確に読み取っていた。ダメ押しだ。
「マーコアニスは強力なパワーを持っています、このまま自然にこの島を離れるなら、流れに任せるべきです」
「我のすべきことは、これ以上島に被害が出ないように、最低限の警備体制を敷くことです!」
強気な声で締め括る。こういう時に強気な声というのは、想像以上な力になる。ビシェイルも、他の連中も何も言えない状態だった。
(やった!)
イリエルは確信していた、自分の意見が通ったことを。今上司たちが黙っているのは、自分の意見に納得しかけているのだと。
一分ほど経って、ようやくビシェイルは言葉を発した。
「トントーク……よくわかった、ありがとう、調査結果を踏まえ、残りは我々で議論させてもらう」
「はい!」
嬉しそうに会議室を去った。
会議室は、少しだけ重い雰囲気に包まれていた。なぜならば、イリエルが出してくれた結論は、非常に面倒だったからだ。
「どうしますか隊長、計画に変更は?」
「そうだな……ストル……お前はどう思う?」
「俺はただの戦闘要員っすから計画なんて小難しいことは」
ディオブに負けず劣らずの筋肉をしている男、ストル・バシフォードは適当に答えた。質問に答えながらも、自分の武器であるヌンチャクを磨くことに集中していた。いつもの光景だとわかっているが、会議中のその態度にホウドは少しだけ呆れてしまう。
椅子の背もたれにぐたぁっと寄りかかって、天井のライトを見つめる。明日に起こる面倒事、できるだけこうならないように事を進めるつもりだったが、イリエルが結論を急いでしまった以上仕方無い。
「……もう少しじっくり進めたかったがな……イリエルの言う通り、マーコアニスのパワーは危険だ」
「隊長、では?」
視線が今発言した女性隊員に集まる。イリエルを除いてはこの部隊唯一の女性隊員で、無口なことで知られる。名をカフォ・ティトルと言う。
「そうだなカフォ、明日島民たちにアピールした後、計画を始めるとしよう」
「元々不都合ならイリエルは切り捨てる予定だったからな……」
立ち上がり、くるりと振り返って後ろの扉を開ける。
「トントーク隊員は非常に優秀だ……しかし一つ間違えている」
扉の金具がギィギィ音を立てる、扉はただの木製の扉では無い、分厚く、特殊な素材でできていた。
イリエルは資材倉庫としか聞かされていなく、生物以外にほぼ興味を示す性格でもなかったため知らなかったことだが、その部屋は完全な防音室になっている。そして、浮島に行こうとした時、マーコアニスが船艇を襲撃した理由が、そこにある。
「キャア!キャア!」
小さいが、極めて頑丈な檻の中で、カラスサイズの鳥が泣きながら羽ばたいている。その種族名は、マーコアニス。
「鳥どもが動かないのは、これのせいさ」




