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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
旅の始まり編
4/304

先祖の言葉

「なんだ……これ」


 そこにはサグの見たことの無い文字で記載されていた。ノートに何行も書かれてことから、文字であることはわかったが、そうでなくただこれが書かれた紙を渡されればヘンテコな図形にしか見えない。

 しかし一人だけ違う反応をした人間がいる。


「これ……知ってる」


 テリンが言った。顔には確かな驚きが浮かんでいたが、驚き方がサグとエボットとは僅かに違っていた。

 

「えっ!?」

「まじかテリン!」


 サグとエボットが立ち上がり、テリンを凝視するが、テリンは一切二人を見ない。視線はノートの文字に注がれ外れなかった。

 何度も目を動かして脳内のデータと照合する。徐々に記憶と理解が追いつき、言葉に確信が宿った。


「これ、島長に代々伝わる本で勉強した」

「読める?」

「うん、翻訳する」


 テリンがノート全体に目を走らせる。文章を全て認識して頭の中で知っている言葉へと変換する。2分かからずにそれは完了した。


『私は知りすぎた、願わくば子孫たちよ、この言葉を伝え、私を忘れてくれ、そして背負わせることを許してほしい』

『私はイカロス、太陽に焦がされた者』


 翻訳を聞き終えた時、背中に妙な汗が伝わっていることに気づいた。薄暗いせいで心が余計な恐怖に囚われそうになる。さっきとはまた違った意味で心臓がうるさい。

 聞こえてきた文章はほんの少し、その上持っている情報は少なかった。しかし、染み渡る感覚があった。


「不気味……だな」


 額から嫌な汗を伝わせてエボットがつぶやいた。目にはわずかな恐怖が滲んでいた。

 このノートを読むまで物理的な恐怖には晒されてきた。

 しかしここまで精神的に重圧をかけられてしまうような恐怖は初めてだ。何かゾワゾワする、足の多い虫が腕や背を這っているような感覚がする。気持ち悪くてならない。

 明かりをあまりつけてないせいで船内は薄暗い。恐怖に拍車をかけるようだ。

 そんな空間を切り裂くように間抜けな音がした、

 腹の虫が空腹を訴える音だ。驚いて、二人してその方向を勢いよく向いた。

 音の発信源はテリンだ。当の本人は顔を真っ赤にして俯いている。その顔を見た時、二人は溢れ出る空気を抑えることができなかった。


「ぶははははっはは!!!」

「だっあははははは!!!」

「やめて二人とも!」


 異常なほど面白く感じて、二人はいつもではあり得ないほど爆笑してしまう。

 腹を抱えて爆笑する二人に、顔を真っ赤にして今度は怒るテリン、いつもの光景だった。日常の一部だ。笑い転げる二人に、テリンの怒りは長続きせずにつられてしまう。


「ぷっ、あははははは!」


 今までの緊張感や静かな雰囲気が嘘のように解き放たれて、人工の光に照らされる中、少年たちは笑っていた。誰も言わなかったが、全員が数十年ぶりに笑ったような、随分と懐かしい感覚を抱いていた。

 笑いが収まり始めて今度はサグの腹が鳴ってまた笑う、今度はエボットの、と少しだけ繰り返した。

 10分も経ってようやく笑いは収まった。全員が気持ちいい疲れを感じていた。不思議だった、一日程度も経っていないはずなのに、本当に何十年ぶりの感覚だった。

 初めに立ち上がったのは、今日もサグだった。


「おっし飯食いに行こう!この島にも町くらいあるよ!」


 明るいサグの声に釣られて、顔を合わせた二人もニヤリと笑う。

 そして勢いよく立ち上がった。


「おう!」

「うん!」


 三人は立ち上がって外に出ようとする。


「あっ」


 一番先に扉に手をかけたエボットが止まった。


「そういや金は?」

「それがね、それも倉庫にあったんだよ」


 サグがそばに置いていた布袋を重そうに持ち上げた。少しだけ振ると、中の硬貨が擦れる音がした。


「マジで?」

「そうそう、しかも大っきめの木箱の中にぎっしり、リュックもあったんだよね」

「マジでか!なら必要なもんも買える範囲で買ってこうぜ!」

「「お〜!!」」


 二人の返事に少しばかり気が抜けてしまったエボット。にっと笑いながら、再びノブに触れようとする。そして思い出した。


「なあ……あのノートどうする?」


 三人の視線が同時に、机の上に放置していたノートへ集中した。

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