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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
鳥と人 エストリテ編
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仲裁者

「ピピピ〜!ピー!」


 文字に起こせばこのような感じだろう。小鳥の割に島中に響き渡りそうなほど力強い鳴き声を発した。爽やかな渓流と落ち着いた緑達の中でこの鳴き声を聞けたらどれだけ良かったことか。

 全身の鳥肌が止まらない、後ろの穴の方からバサバサと羽ばたく音が聞こえる。明らかに警戒心剥き出しの鳴き声が聞こえて来た。さっきの数十倍恐る恐る振り返る。数えられなかったが、大体10から15匹のマーコアニスが羽ばたいていた。


「やっば」


 呟くことはできたが、全く体が動いてくれない。

 真ん中のマーコアニスが大きく一度鳴いた。すると他のマーコアニスたちも共鳴するように鳴き始め、一斉に巨大化した。島の湖で見たサイズと同じで、こちらを見る目には明らかな殺意が宿っている。


「ぼさっとするな!」


 ディオブが両腕を一瞬で硬化させていた、この前に見たシルバーメタリックの両腕だ。すでにこちらも敵意剥き出しの戦闘体制になってしまっている。急いでサグもナイフをテリンも銃を取り出す、エボットは槍を置いて来てしまい今は持っていない。

 敵意を向けられていることがわかっているようで、鳥達もさっきよりも激しく強く鳴いている。このまま戦いになる、誰もが、鳥達さえもがそう思っただろう。

 一瞬の睨み合い後、初めにディオブが動き出した、強く拳を握って構える。素早く、真ん中のマーコアニスも動き出した、足を前に出して明らかにディオブを狙っている。


「待って!!!」


 叫んだのはイリエルだった。一人と一匹の間に立って、両の手から全力で魔力を放出した。


「うおっ!?」

「がぎゃあ!!」


 意識外からの攻撃に、それぞれもろに受けてしまい吹っ飛ばされる。一方は何度か山を転がって、一方は二、三十メートルほど向こうの空へと飛ばされてしまった。

 ぶつかりそうだった二つが一瞬で視界から消えた、その事実を理解する頃には、鳥も人も、じっと一人の女を見つめて固まっている。空気は依然として張り詰めたままだが、誰もそれを崩せない。理由は簡単だ、女の放つ威圧のような気配が、全てを止めていた。

 ディオブとマーコアニスも戻って来てから、動けずにいる。変わらずイリエルの無言の圧が戦いを許さなかったのだ。


「戦うことは許さない……」


 低く静かに呟いた。さっきまでとは全く雰囲気が違う、角度のせいで表情が見えず余計に別人のように見えた。

 ゆっくりとイリエルは動き出した。真っ直ぐ立って、腕を大きく広げて、マーコアニス達を正面から見据える。


「マーコアニス達!!私たちはここから離れる!だからこれ以上!島の人たちを傷つけないで!」

「もうすぐ下のその子が成長しきるのはわかってる!!それが終わるまでは居てもいい!!」

「だから!あなた達も島に関わらないで!」


 イリエルの叫びは、サグからすれば衝撃以外の何者でもない。いや自分だけでなく、テリンもエボットも同じことを感じているはずだ。目の前にいるのは悪い言い方をすればただの鳥畜生だ、人間の言葉が通じるわけがない。むしろ大声を出したせいで威嚇行為と解釈されてもおかしくは無い。だが、驚くべきことが起こった。

 予想に反してマーコアニス達は動かなかった、仲間同士で顔を合わせて、二、三度うなづいたかと思うと、ディオブと衝突しかけた一匹が一度だけ大きく鳴いた。上空へ飛び立ち、一二周旋回した。降りてくる頃には、いつの間にやら小さくなっていた。

 降りてきたマーコアニス達は、イリエルを、いや五人全員をまっすぐに見つめた。


「約束する」

 

 イリエルが強く答えた。ゆっくりと羽ばたき、それぞれの側を優しい風を纏って飛ぶ。

 サグと一匹が目が合った。気のせいかも知れなかったが、「約束、守れよ?」そう言われた気がした。

 ぐるりと五人の周囲を飛び終えると穴の中へと戻っていった。サグのそばにいた幼体のマーコアニスも、嬉しそうにチチチチ鳴いて穴へと入る。


「ふ〜っ!」


 頬を大きく膨らませて、同一人物とは思えないほど力無く地面に尻もちをつく。

 さっきの張り詰めた緊張感はどこへやら、全員が脱力し地面に体を寄せていた。スゥ、そんな音が小さく耳に入る。


「すごいすごい!!マーコアニスにはやっぱり人の言葉を理解する知性があったんだ!じゃあコミュニケーションに鳴き声を用いる仮説も間違って無い!!!高い知能を利用して効率的な巣作りをしていたデータもあった!ということは!!!」


 ノンプレスで勢いよくうるさく語り出してしまった。本当に振れ幅が大きすぎて、イリエルという人物はよく分からない。

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