鳥型天空生物
「改めてひでえな……」
三人はさっきの惨劇の場所を調査していた。といってもサグとエボットにケミカルなことができるはずもなく、ただ見る、しかできないのが現状だった。一方入りエルは、マーコアニスから散った羽を回収するのに必死だった。
「ひでえって割に顔を覆ったりしないじゃない」
最後の羽を回収し終えたところだった。
きょとんと二人は顔を見合わせる、言われてみればそうだった。そしてすぐに気づく、鉱山内で見たサソリとの戦いの方が惨たらしかったことに。
「まあ……もちょい嫌な光景見たことあるし」
「あそ」
それだけ言って興味を無くしてしまったようだった。今は最後に拾った赤い羽を繁々と眺めている。
「その羽って何かあるの?」
サグがなんと無しに聞いた。するとイリエルは、その羽を目の前にズイ!と突き出した。
「気づかない?」
言われて、サグもじっとその羽を見てみる。すると、あることに気づいた。
「あれ?小さい?」
あまりに当たり前すぎて気づかなかった。羽のサイズはキツネを屠った時とは違う、最初のカラスほどの大きさの羽だったのだ。エボットもその羽をジロジロ見回した。
「本当だ……確かに羽が小さいぜ……」
「そう小さいの、けどさっきの巨大化は本当…それじゃ考慮される可能性は?」
突然与えられた問題に二人は頭を悩ませる。そんな光景を見て、イリエルは楽しそうな顔をしている。隣で悩んでいたエボットが、あっ、と小さく声を出した。
「魔法……」
「あっ!」
「その通り!」
今で身近じゃなかったからすぐに思い付かなかったが、考えてみれば簡単な話だった。気づいてから、もう一度羽をじっと眺めてみる。しかし見る限り何の変哲もない、普通の羽だ。
「特に何もないけど……」
「そっ、特に何もないの」
「「ええ……」」
「だけど、鳥の本体だけじゃなく羽の一本一本まで巨大化してた…となると、マーコアニスは相当な魔力を持っている」
正直なところ、サグは今の話がよくわかっていなかった。魔力が強いと良い、というのはわかっているのだが、そこまで。具体的に何が良いとかはまだわからない。サグ始めテリンもエボットも、魔法への理解がまだまだ低いのだ。
「それって……具体的に何がまずいの?」
「まず他に何ができるのかわからないって点ね、知らない魔法使われるとまずい」
「あとは?」
「……巨大化できるのがあの個体だけのか……マーコアニスという種族そのものの魔法なのか……」
言われてやっと気がついた。確かにあの個体だけの能力ならばまだマシだが、種全体の能力であれば、厄介さと危険度は何十倍にもなってしまう。魔法をまともに使えないサグたちでは、一瞬で蹂躙されるのがオチだろう。ディオブでも苦戦するかもしれない。
「わかんないのか?」
「無理よ、この島に来て四日目くらいであれを初めて見たわ」
ボストンバッグからメモ帳を取り出した。覗き込んでみると、記録表が書かれていて、やって来た日と捕食された動物の数、種類が記録されていた。
「ほぼ毎日決まった時間に来ては。無防備な姿を晒してやってきた動物を捕食してる、持って帰るのは大方仲間に食べさせるためね……」
「今日はあいつ!昨日はこいつ!ってわかんないのか?」
エボットが言っていることは雑だったが、何が言いたいのかは大体わかった。要は”日毎きているのはどの個体か判別できていないのか?”と言っている。イリエルも正確に理解できていたようで、首を横に振った。
「無理よ、判別方法無いし、近づいて死にたく無い」
確かに。二人も縦に首を振って同意を示す。
「だから直接あの浮島に行って調査できたら良いんだけど……」
島の端っこの方を向いた。サグはよくわかってなかったが、その方向にあの浮島があることは想像がついた。
「神軍で調査に行けば良いじゃん」
サグは軽い口調で言った。しかしイリエルの表情は渋い、これだけでも大体のことは察することができた。
「無理だったわ、神軍の船は大きいけど、巨大化したマーコアニス一匹で船体にダメージを受けちゃってね、それが島に来て翌日の話」
「応戦しなかったのか?」
「船底に攻撃されたの」
さらに詳しく説明を聞くと、島に来たその日はまず住民たちから情報を聞いたそうだ。そこから一日経って、あの浮島へと直接調査に赴いたらしい。だがあともう少しで到着というところで、一匹のマーコアニスが船底に回り攻撃、結果船はほぼ航行不能になってしまい、命からがら島の港に逃げ帰ったそうだ。
「小さくて素早く動ける乗り物があればね」
「そんな乗り物……」
サグが小さく呟いた。心当たりは全くなかった。
「あっ」
今度はエボットが小さく呟いた。突然腕でサグの首を掴んでイリエルからそそくさと離れた。
「なっ、何すんのさ」
雑に首を挟まれたせいでサグの気管と血管が若干絞められて苦しかった。一度軽く謝ってからサグを解放した。そして今度は頭を掴んで顔と顔を近づけさせた。
「サグ、スピードボートだ」
「スピードボート?」
「覚えてないか?最初の島で神軍が俺らを追っかけて乗ってたやつだ」
「あっ」
やっと思い出した、あの島で戦って淵にレイゴスを落とした後、すぐそばに小型の乗り物を見つけた。その乗り物から武器を手に入れ、ボートそのものは自分たちの非常時のために回収したのだった。サグはあれっきりですっかり忘れてしまっていた。
「あれ結局どうしたの?」
「それが……船底の倉庫でずっと改造してた……」
「えっ!?」
聞けば、ノートの秘密がわかった時も船底倉庫で改造を重ねていたらしい。おかげで仕組みを理解し、性能も微量ながら上げることに成功したそうだ。
「けどどうするの?元は神軍のものでしょ?」
「うー……助けた礼にもらった……とかは?」
「騙せる?」
「五分五分……」
「うわぁ……」
最悪の場合、命を預ける賭けになる。イリエルがどれだけ魔法を使えるのか知らない以上、この賭けは危険すぎる。
「どうすんだよ、そこまでする義理はねえだろ」
エボットの言っていることは当然だ。自分たちは昨日この島に来たばかりであり、何かこの状況を変える理由があるわけじゃない。けどどうしても引っかかる記憶がある。
「でも……」
「あのお姉さんが言ってた事、忘れられない」
「……」
「この島が苦しんだままにしておくのは……いやだな」
エボットにはまるでサグがだいぶ年下の少年のように見えた。おもちゃが買ってもらえなくて、意見が通らなくて少し拗ねている少年の顔だ。長年友達をやっていると、サグの妙に優しい部分や、意地でも引かない場面が分かる。今回がそれだ。こうなると自分の意見を絶対通そうとする。抵抗するだけ面倒だ。
ばっと腕を引いて、サグの首を解放した。
「ガキかよ……」
「何か言った?」
すぐそばにいるのに、サグの耳に届かないほど小さな声で呟いた。
「わかったって言ったんだよ!」
少しだけ苛立った口調で言ってしまった。なんだかんだサグに甘い自分がいることを、エボットはよく自覚していた。だからこそ、そんな自分にも少しだけ苛立ってしまった。
二人でイリエルの元に戻った。イリエルはその場から二人のことを見ていたようで、待ちくたびれた様子だった。
「悪いな」
「なんの話してたのよ」
「あるんだよ、島に行ける小さい船」
「本当!?」
急にテンションを上げて、キラキラした目で近づいてきた。しかしイリエルに慣れてきたおかげで、二人も引かないで話を聞くことができている。
「ああ、とりあえず来てくれ」
今度は二人が先に歩いて、森を突っ切って港を目指した。走り出しで程なく、あの船の改造用のドッグが見えた。森を抜けてドッグに向かうと、今話を終えて出てきたばかりのテリンとディオブが居た。二人は少しだけ憂鬱そうな顔をしている、腰が曲がっているせいで妙にリュックが重そうに見える。不思議に思いながら、一度二人に合流した。




