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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
鳥と人 エストリテ編
33/304

天空生物

 当てもなく、理由もなく街を練り歩いた。さっきの理由を踏まえて街を見ると、なるほど納得がいった。確かにイライラしている人たちはお互いにイラついているのではなかった。聞こえてくる会話はほぼ全て神軍か鳥のもので、言葉と口調の全てに怒りを感じた。


「こうも怒りの言葉ばっかだと、流石に怖くなってくんな」


 路地に入って誰もいないことを確認してから、エボットがげんなりした顔で言った。サグもそれには同意するところだ。


「でも……なんで神軍は解決しないのかな」

「そりゃあ、調査のためだろうな」


 テリンがポツリとこぼした疑問に、店での会話中、ずっと静かにしていたディオブがすぐに答える。


「調査?」

「ああ、さっき言ってた鳥の巨大化の話、まず間違いなく天空生物だ」

「「「えっ?」」」

「……そこからか」


 三人のよくわかっていないという表情から、説明の必要性を感じ取った。後頭部を引っ掻きながらめんどくさそうにしている。


「いいか?天空生物ってのは」


”天空生物”


 一般に言われる動物、虫などとは分けて分類される特殊な力を持った生物のことである。

 生物としての基本能力の全てが、他を上回っており、時としてその特殊な生態が故に、環境や人々に悪影響を及ぼしてしまうことがある。

 そのため基本的に現れれば駆除や撃退が推奨されている。

 しかし生態系と危険性が故に研究があまり進んでいない。



「ってのが天空生物の今んとこだ」

「「「へ〜」」」

「あの鉱山で戦った天空サソリ(エア・スコピウス)も天空生物の一種だ、鉱石を食って硬化する特殊生態があるからな」


 三人の脳裏に嫌な記憶が蘇った。もう体はどこも痛くなかったが、多少あざが残っている。ヘリオに付けられたものも残っているが、サグの背中にあるのは間違いなくサソリのせいでできたあざだった。痛くないはずのあざに電流のような刺激が一瞬流れた。さすっても何も感じない。


「んじゃ神軍は本当にその天空生物に苦労してんのか?」

「さあな、まあさっさとこの島を出てくのが得策だろ、必要なものとかあるか?」

「ちょっと待って」


 テリンがゴソゴソとリュックからメモ用の手帳を取り出した。四人中三人が細かい管理が苦手だったので、船内の物品管理などはほぼテリンに任せてしまっている。


「えと、燃料用鉱石と食料水、本と……まあとは見繕ってしだいね」

「てと最優先は燃料用鉱石だな」

「俺の分野だな!」


 エボットが明らかに楽しそうな表情をした。

 燃料用鉱石は、どの島からも採ることができる浮力の元だ。島を浮かせているものには核が存在し、核が生きている限り鉱石は成長をゆっくりと続けるらしい。これによって島は無限に大きくなることができるそうだ。


「うん、とりあえず鉱石だけ買いに行こうか」

「……」


 サグは一人、森の方を見ていた。少しだけ、ドキドキしてしまっていたのだ。故郷の島では、木の根っこを枕にして眠るのが大好きだった。前の島には土色の山ばかりで、緑は少なかったし、大して見ることもできなかった。それが今度はここまで青々とした植物が目の前にある。


(行きたい……!!)


 はあ〜


 いきなりため息が聞こえてきた。吐いたのはエボットとテリンだった。少しの呆れと、仕方ないという感情の混ざった笑顔があった。


「行きたいでしょ?」

「わかるの!?」

「わかるっての、顔がそう言ってら」

「嘘!?」

「「ほんと」」


 少しだけ恥ずかしくなってしまった。しかし二人の様子を見るに、本当にわかりやすく顔に現れていたようだ。ディオブはそんな三人を見て楽しそうに笑っている。だが、サグにはその様子がたまらなく恥ずかしかった。


「いいぜ、行ってこいよ」

「えっいいの?」


 正直嬉しくて仕方ない。しかし同時に申し訳なくもある。燃料用の鉱石はなかなか重い、だから人数や力で対応するのだが、自分一人抜けても運べる絶対量に影響が出てしまうはずだ。


「いいよ、どうせ船の改造で何日かはこの島離れられないしね」

「じゃ船で合流だな」

「わかった!」


 申し訳ない原因が消えたら、速攻で走り出した。あっという間に走っていったサグに、今度は三人が呆れ顔をした。


「あいつそんなに森が好きなのか」

「うん、天気のいい日は毎日木のそばで寝てた」

「行こうぜ、パッパと買うも買っちまおう」

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