新たな島
ようやく島が見えて、喜んだのも束の間、島の端のところに見覚えのある神軍の船を確認してしまった。操縦室に飛び込むように駆けて、一旦この場で止まるように言った。エボットもすぐに状況を把握した。
「どうする?また島の裏に停めるか?」
「いや、それはむしろダメだ」
前と同じことを提案したエボットに、ディオブは厳しい声で否定する。
「港以外のところに停めれば、それ自体が島のルールに違反する場合がある、すると神軍に俺たちを捕まえる理由を与えちまうぞ」
どうやら前回の自分たちはよっぽどラッキーだったらしい。
「そうか……それじゃあどうするの?」
「しれっと停めて、できるだけ早くマストを取ることだ、そんで早くこの島を離れる」
反対する理由もなかったので、それに従うことにした。
できる限り近づかないように、反対の端っこに船を停めることにした。港の桟橋には、船を案内するための女性職員がいた。サグが指示を受けて、中のエボットに叫んで指示を伝達する。少し無理やりなやり方だったが上手くいって停泊に成功した。
「テリン、荷物お願い」
「おっけ〜」
サグが船を飛び降りた。そして案内してくれた職員へと挨拶をする。
「どうも、助かりました」
「いえいえ、ようこそエトリステへ」
優しい表情で朗らかに答えてくれた。すっと表情を変えて、興味深そうにサグたちの船を見た。
「それにしても古い船ですね」
桟橋の端っこに立って、下を覗き込む。何が興味をひいているのか、サグにも大体察しはつく。
「これって、相当昔に使われていた接岸方法ですよ?」
見ていたのは、発射式の錨だった。実際船そのものが古いので、昔なことは間違いない。それに世話になったのも一度きりだ。港があれば、錨を打ち込む必要なんて無い。
「いやあ、金がなくて叩き売りされてた古いものを買ったんですよ」
「そうですか……それでもよくこんなのありましたね……マストまでついてる」
「そうなんですよね……マストを取りたくて、ここに職人はいらっしゃいますか?」
「ええ、あの建物がそうです」
すぐそこにある双眼鏡で見た建物を指した。やはりあの建物が船を改造してくれる場所らしい。
三人も荷物をまとめて船から降りてきていた。ディオブは特徴的な長い金髪を少しでも誤魔化そうと、ポニーテールに髪をまとめて帽子を被っていた。エボットからリュックと変装用の帽子を受け取る。
「案内ありがとうございました」
「いえいえ、どうぞゆっくりお過ごしください」
丁寧にお辞儀で送り出されて、四人は目当ての建物を目指す。
数分かからず建物に着いた、建物の扉は鉄製で大きい。厚さまでは流石にわからないが、見るからに重そうだ。とりあえず数回扉を叩いてみた。ゴンゴンと大きな音が響いたが、何の反応も返ってこない。
「すみませーん!」
今度は声をかけながらもう一度ゴンゴンと叩いてみた。すると中から足音が聞こえてくる。ざす…ざす…と擦るような足音で、ガリガリと何かを引きずるような音も聞こえてくる。若干の恐怖を抱きながら、音の主が現れるのを待つ。
扉が横にスライドした。現れたのは薄い白髪の老人、片手にはノコギリを握り気だるそうにしている。身長そのものは小さいが、前の開かれた服のせいで、幾つにも割れている腹筋が見える。
「何だ小僧ども……」
低くしゃがれた声に少しだけびびってしまうが、代表してサグが話を始める。
「突然すみません、俺たちの船の改造をお願いしたいんですけど」
「船の改造だと?どの船だ」
「あれです」
自分たちの船を指差した。ちら…と横目で老人を見てみる。さっきの職員ほど大きな反応ではなかったが、表情は明らかに驚きに変わっていた。
「あんな骨董品か?よくあんなもの手に入れたな」
「ほんの偶然ですよ、あの船を現代基準に改造して欲しいんです」
「ああわかった……が調査に一日もらうぞ」
老人が難しそうな表情で言った。
「調査?何でだよ」
エボットが言った。口調は驚きのせいで少しだけ荒かった。突然、エボットの鼻のすぐそばに、老人が持っていたノコギリを突き出した。エボットは流石に驚いて一歩引いてしまう。頬を冷や汗が伝った。
「小僧、なんで古い船にマストがついていたかわかるか?」
「えっ……風を受けるためじゃ……」
「それもある、だがな、本当のところはバランスを取るためだ、自分で浮いて進む力があんのにわざわざ風を受ける必要はねえだろ、だから外しても問題ねえか調べんだよ」
職人のごもっともな意見だった。一番船に詳しいエボットも知らなかったのだ。従うしかない。
「わかりました、調査してから外すのにはどれくらいかかりますか?」
「明日また来い、そんとき言ってやる」
それだけ言って、老人は再び中へと戻る。ピシャリと勢いよく扉を閉めてしまった。依頼こそできたが、あとはもう何もできない。
「とりあえず……街行くか……」
それだけ言って、街に向かった。




