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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
旅の始まり編
3/304

託された物

 明るい光が部屋に差し込んでいた。何時間経ったのかは全く知らない。時間が経って日がさしたから目覚めたのだ。頭を起こして腹を隠していた布団を退かす。エボット・ケントンは目覚めた。

 キョロキョロと周りを見回して何事かと考える。


(そういや……船か……ここ……)


 やっと記憶に脳の働きが追いついて自分の現状を理解し始めていた。とりあえず自分の左に並んでいた二つのベッドを見る。どっちにも誰もいなかった。


「おはよ〜エボット」


 テリンが扉を開けた、髪を整えているが風呂にも入っていない上に着替えもしていないせいで、少し汚く見える。


「はよ〜、サグは?」

「船の探索してる、昨日はできなかったからね」

「なるほど……俺もいくかぁ」


 ベッドから跳ねるように降りて部屋を出る。リビングのようなメインの部屋にはすでにサグがいた。丸いローテーブルの前にクッションを置いて座っている。


「おはようエボット」

「おうサグおは〜」


 挨拶を交わしながら座る、一番初めに目に留まったのはあの箱だ。


「それ……」


 指差したのは脱出の直前にサグの母から渡された、オリアーク・ウィストの冒険の資料とやらだ。古いの木箱は未だ開封された様子が無く、中身に関しても一切何が入っているのかわかりもしない。


「うん……まだ開けてないよ」


 サグがそっと木箱の蓋に触れる。サグは自分の心臓がどくどくとうるさくなっているのがわかった。早鐘なんて表現では足りない、この心臓のスピードを例えられる言葉をサグは知らなかった。

 心臓がうるさいのはテリンも一緒だった。テリンはずっと憧れ続けていた、伝説のオリアークの冒険、フィクションだと心の端っこで疑っていた冒険の証拠が目の前にある。興奮しないわけがない。

 サグと同じようにクッションをおいてテリンもエボットも座った。テーブルの上には木箱が一つだけ。寝起きで空腹なのを誰も気にしない。


「どうする?」


 サグがつぶやいた。これを、だとか、それを、だとかいう余計な言葉は一切必要ない。もうわかっているこの木箱以外に今何を気にするのだろうか。心のうるささを抑えられる気がしない。心臓だってさらにうるさく鳴っている。


「これが欲しくて……あの神軍って連中は島を荒らしたんだよな……」

「そうだね……多分今も探してる……」

「そしてこれを開けた瞬間僕たちは……知ってはならないことを知ったことになる……」


 秘密の塊、そういえば柔らかく聞こえるかもしれない、物々しい言葉をつけるならば、これはパンドラの箱だ。これ一個のために何十、何百という島民が殺されてしまった。

 禁断、その言葉がこの箱を表すのにはふさわしい。

 だが、知らないことには、自分たちがこんな目に遭っている理由もわからない。


「開けるか?」


 エボットが恐る恐る言った。二人はずっと箱を見つめたままだ。

 数秒、考えるのに時間がかかった。


「開けよう」


 サグの言葉でようやく覚悟が固まった。

 エボットが箱を抑えてサグが蓋を外す。

 カコ、と小さく硬い音がした。

 喉が急速に乾く、生唾を何度飲み込んでも足りない、乾いては潤し繰り返す。

 蓋を持ち上げ、ゆっくり上に持ち上げて隣に置く。

 意外とカビ臭い匂いはしなかった。木も腐っているなど時間が立っている様子は無く、昨日あの床下に置かれたばかりなのでは? と思うほど綺麗だった。

 中に入っていたのはノートがいくつか。三人はそれぞれノートを手に取る。

表紙にはそれぞれのノートのタイトルが書かれていた。

 サグの手にとったノートは『オリアーク・ウィスト冒険記』、テリンの取ったものは『チジョウ滞在記』、エボットが取ったものは『生物研究記』だ。

 タイトルに馴染みの無い言葉が使われているものもあり、一度だけ顔を合わせるとそれぞれノートを開いて食い入るように読む。

 しばらく穴が開きそうなほどの目力で見つめる。だが二、三分程度で声をエボットが声を上げた。


「なんっだこりゃ!全然わかんねぇ!」

「どしたのエボット」

「いや……生物研究のノートみたいなんだが知らねぇ生物の話ばっかだ……雲海龍ってなんだよ……そっちは?」

「冒険記は割とわかりやすいよ、どこの島に訪れただとか、こんな人に会ったとかね」

「へ〜私は全然わかんないや」

「お前のノートはなんだ?」

「これ?『チジョウ滞在記』だって」

「チジョウって?」

「知らない、けど相当広い島なんじゃないかな、何キロも歩いてそれでも端っこには辿り着かなかったって書いてあるし」

「マジで?何キロも歩くような島があるのか」


 それぞれのノートにはオリアークの経験したことが各分野ごとにまとめられているようだった。しかし経験の浅い彼らでは知らない言葉や分野、チジョウなどの意味すらわからない単語も多く、現状ちんぷんかんぷんとしか言いようがない。

 さらにパラパラとノートを読み進める。だがやはり知らない言葉も多く、比較的理解できていた『冒険記』ですらわからなくなってきてしまう。

 眉間に皺を寄せながら、ぎりぎりわかる仲間と食べた見たこともない食材の話だとか、新種の生物と戦っただとかの話を読み込む。そしてまた次のページを開いた。


「なっ」


 次のページをめくった時、一番最初に目に飛び込んできたのはずっと心の端に気になっていた単語を交えた一行、右のページの一番下に刻まれた一行だった。


『私はついに”果て”への道を発見した』

 

 たったそれだけ、それだけの一行が、妙に強く脳へと飛び込んできた。声を漏らしたサグの方を二人が見る。何も言わずにサグはノートをテーブルに置いてその一行に指を置いた。すぐ二人も釘付けになる。

 ノートの端っこを摘んだ。心臓が指先に行ってしまったかのようだ。大きな動脈があるわけでもないくせに、指が脈打っている感覚がする。

 二人を見つめる。二人ともサグの指から目を離さずに今か今かとページを捲るその時を待っている。目を閉じて、一気にページをめくった。


「「「は?」」」


 三人同時に声が漏れた。ページは真っ黒に、かつぐちゃぐちゃに塗りつぶされて、一つも読めない。

 今度は三人同時にため息が漏れる。緊張して、ドキドキしながらめくっただけにとても肩透かしだ。心臓が急速に速度を落としていく。


「んだよ真っ黒かよ!」

「っていうよりこれ変じゃない?」

「サグもそう思う?」

「ん?変って?」

「ほら」


 サグがノートを持ち上げて天井の明かりにページを透かして見せる。すると驚いたことに黒塗りになっている反対側のページから全く黒色が透けていなかったのだ。普通であれば光に透かしてみれば黒塗りの色は透けて見えるはずだ。ということは。


「えっ? これって普通のペンじゃねぇの?」

「多分……偶然情報が見えることがないように徹底して特殊なペンやインクを使ったんじゃないかな」

「他のページは? 偶然下が透けたり、潰しが甘かったり」


 テリンの言葉でペラペラと捲るが、どのページも、徹底的に記載があったであろう部分を潰されている。透かそうとも角度を変えようとも、下にあるであろう字は見えない。結局かと落胆しまたため息を漏らす。またページを捲った。

 今度は今までのただ黒塗りだったものとは違っていた。


「なんだ……これ」

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