心のね
話は終わった。そのはずなのに、なぜか心の不安感が消えてくれない。
サグはゆっくりとテリンの方を向いた。その表情は暗く重い。
島が一体になるために必要な事、連帯の気持ち。
そこに住む人々が一体となり、島を良くしていこうと思う、言葉にすれば簡単な姿。簡単なようで、薄氷のように脆い理屈。
しかし多くの島々と大人たちはそれができていた。サグたちの故郷もそう。
大人たちは薄氷を守り続け、島を保たせ続けていたのだ。
しかしこの島はそれができなくなってしまった。薄氷はすでに崩壊し、自ら落ちていくしかなくなっている。
人々がそれぞれを憎み合い、噛みつき、殺し合う。
その先にあるのは戦争、相手が違うだけで、イリエルの故郷と全く同じ末路しか見えない。
「イリエル」
「多分、明日最悪の未来が来る」
聞こうとした不安げなミラの声を押さえイリエルが言った。
イリエルの心のうちはわからない。しかし心中穏やかで無いことは確かだ。
どう言っていいのかわからない。サグたちの生きてきた島は平和で、幸せな故郷の思い出しかないから。
「俺たちは明日、民間組織の元へ向かい、すべての事態の収集に努める」
「なんで二人が!?」
「俺たちが第三者で、部外者だからだ」
「どういうこと?」
「王兵隊が何十人で向かえば、あちらは警戒しまともに取り合ってくれない可能性がある。二人とかなら、袋叩きにされる可能性がな。俺たちならば袋叩きにする意味はない、メッセンジャーとしての役割を十分果たせるということだ」
ディオブの言っていることは概ね間違ってはいない。
二人の実力ならば、仮に人質として使われようとして囲まれても、武器の破壊も脱出も容易であるだろう。
間違いがあるとするならば、二人が通すべき筋がどこにあるのかということ。
はっきり言っているが、二人は部外者である。
面倒に巻き込まれた立場であり、なんのためにここにいるのかわからない状況にさえある。
ならば何をしなくてもいいはずなのに。
「どうしてその話やることに? 義理とかじゃないでしょ?」
テリンが言った瞬間、サグとエボットもぼんやりした違和感の輪郭に気づいた。
だが気づきはそこまで、四人は正体に辿り着くことができなかった。
対する二人はドキリと鳴った心臓の痛みに気づかないふりをして誤魔化す。
「いいや義理だ」
ディオブの言葉に、わかりやすい疑いの目を全員が向けた。
心外だ。とでも言わんばかりの視線をディオブが返したが、続くイリエルの言葉がその言葉の信憑性を増長させる。
「私がやりたいって言ったの」
全員が動きを止め目を落とした。
そう言われてしまってはこれ以上何をいうこともできない。
「ほら、明日早いから寝るよ」
その場は解散になり、全員が寝室へと向かった。残された二人は向かい合い立ち続ける。
「悪いな」
「言えないでしょ、金目的なんて」
夜はふけ、明日への不安を強める。
強欲か、それとも心の引き金か。明日の光景は、未だ誰も知らぬこと。




