島が向かう姿
「猿用トラップは本来購入予定だったのか?」
ディオブが疑いを込めた目でリーダーを見る。
しかし、リーダーは全く心当たりがないという表情で、困惑の視線を書類の新たに出てきた文字へ向けていた。
書かれているのは猿用トラップが百個。
金額的には武器を同じ数だけ購入するよりもずいぶん安く済む。
一番下に書かれていると言うことは元々武器も購入するつもりだったのだろう。
だとすれば、なぜ猿用トラップだけが修正されているのかがわからない。この中では島のために一番必要なものだろうに。
「猿用トラップ禁止なんて法律あるのか?」
「あるわけないだろう」
「イリエル」
記された紙をイリエルへと渡す。
紙には購入する予定のトラップの型番まで記載されていた。生物研究者のイリエルならば知っているだろうと考えたのだ。
イリエルは眉間に皺を寄せながら型番を見つめた。そしてしばらく目を閉じてから紙をディオブに返す。
「流石に天空生物には通用しないけど、一般に流通してるトラップ、違法性もない」
「そうか」
違法だから修正された線を疑っていたが、今その線は消えた。
仮に違法だとしてもわざわざ修正テープで潰す理由がわからない。書き直させればいいのだから。
考えるうち、ディオブはそうあってほしくない可能性にたどり着く。
それが真実であるならば、この島の向かう先は容易に想像できる。だがそうあってはいけない。そう言える可能性。
「この書類は受理されたあとどうなる?」
「受理できなかった物とその理由を書かれた紙を同封してコピーを返す」
「つまり……修正されたこれを書いた人は見たと言うことか」
「「!!」」
ディオブの呟きにより、二人も自体の前葉へとようやく辿り着くことができた。
おそらく、この紙を回した王の親族というのは、島民たちに頼まれてこの紙を回したのだ。
だが、この紙は、どこかで王の目に留まってしまった。
王は動物を愛していると言っていい。この紙を見て、島のため使いまわすことのできる武器を購入させ、猿の対応にしかならないトラップを却下させる。
となると、そこに残るのは購入された武器たちだけ。
購入書は受理された状態、つまり修正済みの物が島民たちに送られていった。
「島民たちは購入されなかったことに怒ってる?」
「いや購入されなかったことってより、無かったことにされたんじゃないか?」
「えっ?」
「さっき隊長さんが言ってたろ? 理由添えて返すって、ならよ、わざわざ修正テープ使う必要は無え」
「……」
島民たちは、ただ渡されたコピーを見たのだ。そして修正された自分たちの希望を見た。
自分たちの望みを、明日を守るための望みをなかった時の気持ちは、どれだけのものだっただろうか。
反乱を決めるには十分に思える。
すでに察したリーダーは書類を漁り、状況を詳細にしようと動き出していた。
「でもどうしてこんなことを」
「決まっているだろう」
忙しく書類や本をひっくり返して何かを探していたリーダーが言った。
リーダーは全てを確認してから、ディオブとイリエルを見た。その顔は、戦士としての顔と、怒りを押し殺した狂気が混ざる。
「王はこの島を、完全に支配するつもりだ」
「というわけ」
イリエルの説明が終わる。
軽い言い方に反し、リエロス号の船内は重く、苦しい空気に押しつぶされそうになっていた。




