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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
魔法修行編
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魔法修行、壁

 また次の日、同じように魔法修行をしていた。それと同時に、格闘術も鍛えることにした。

 三人は故郷にいた頃、よく体を動かして遊んでいた。特にエボットは船の荷運びを手伝っていて、自然と体は鍛えられていた。何もしていない同世代と比べて、体力とパワーは平均とは明らかに離れている。

 三人でバトルロワイヤル形式に攻撃を打ち込んだり、躱わしたり、怪我をしない程度に加減しながらやってみた。

 またこの特訓は、動いている間にも魔力をコントロールする練習の意味もあった。戦闘となると、相手も自分も激しく動き回る、体の内面に集中する時間など無い。それでもシームレスに魔法を使うためには、結局コントロールをさらに鍛えるしかなかった。

 だが、どちらの作業にも慣れてない三人は、こなそうとするあまりどちらも覚束なくなったりしてしまった。

 特にサグなんかは、躱しながら魔力を集中させようとして、思いっきりテリンのキックを喰らった。思いっきりバランスを崩して、背中を甲板に打ち付けてしまう。


「ごめんサグ!大丈夫!?」

「大丈夫大丈夫」

「何やってんだよサグ」


 手を振りながら苦笑いして見せたが、少しだけ恥ずかしかった。エボットに笑われて、膨れっ面で顔を赤くした。


「………」


 ディオブからすれば、三人の成長速度と強くなる姿勢には恐ろしいものがあった。ついこの間まで、平和に暮らしていた少年たちは、人を殺し、神軍の恐怖を味わったにも関わらず、それを乗り越えて強くなろうとし続けている。成長だって、自分のケースに比べて圧倒的に早かった。その才能に嫉妬さえする自分がいた。


「けっ」


 少しだけ舌打ちをして、自分も筋トレをすることに決めた。


 またすぐに夜が来てしまった。一日中鍛え汗を流したが、正直大して何か変わった気はしない。魔法だって大した変化は感じない。

 バトルロワイヤルのおかげでそれぞれ攻撃と当てたり当てられたりと、鉱山の時よりはましなものの、色んなところに傷を作ってしまっていた。夜風が傷に染みて、少しだけ身震いする。


「今日はもう限界の時間ね」

「ああ……流石に疲れたぜ俺ぁ」


 ヘロヘロの表情でエボットは座り込んだ。本当にこの船に自動航行機能があってよかった。そうでなければ、今頃自分だけ鍛えられないことに苛立っていただろう。

 船内ではいつものようにディオブが料理を作ってくれていた。


「いつもごめんね」

「いやいいって、俺も魔法鍛えてた頃はよく助けてもらってたからな」


 今日の夕食は煮魚だった。よーく味がついていて相当美味しいものだ、それにご飯にもよく合う味に仕上がっていた。

 最初の頃よりは減っていたが、それでも普段よりも多い量を食べ終えて、また今日も風呂に入る。最初にテリンが入った、エボットは倉庫に船の整備用の道具を取りに、ディオブは甲板に出て夜風にあたりに行っていた。リビングに使っている部屋に一人、サグは座っていた。

 こういう、本当に暇な時に本を買っておいてよかったと確信する。子供向けのホラー小説だった、話の繋がらないシリーズもので12巻セットで買っておいた。読んでみると面白くて、没頭しているうちに、いつの間にかテリンが風呂を上がっていた。


「ん?本読んでたの?」

「あ〜うん、この間買った小説だよ」

「ふーん、読み終わったら私ね」

「おっけ〜」


 本についている紐のしおりを挟んでから、テーブルに置いて立ち上がる。

 ふと、部屋の隅っこに置いてある木箱に目をやった。その木箱は、オリアークの資料が入っていたものだ。今でもそのまま資料を全部入れてある。なんとなくその箱を開けて、中のノート『オリアーク・ウィスト冒険記』を取り出した。

 何日か前に自分で読んだそのノートは、かなりのページが黒塗りにされていて、その実態はわからない。


「何してんの?」


 風呂に入るはずだったサグが、部屋の隅っこでしゃがんでいるのをみて、不思議そうにテリンがやってきた。ノートだけをテリンの方へと少し向ける。あ〜と納得した声が聞こえた。


「でもそれほとんど読めないじゃん、読めるのは当たり障りの無い情報ばっかりでさ」

「なんとなくだよ」


 無意味に黒いページを眺めていた、透かしなどは何度も試したのに、無意味に見つめている。塗りたくられた黒が、自分を吸い込んでいくような感覚がした。そんなはずないのに、ぐるぐると空間が回って、飲み込まれていくようだ。

 その時、自分でも不思議だったが、無意識に魔力を手に集めていた。


「サグ!?」


 バチバチと、サグの手で電気が弾け出した。突然のことにテリンは大声をあげてしまった。大声を気にすることなく、自分でも不思議なはずなのに、サグは魔力を手に集め続けた。

 すると、驚いたことが起こった。目の前で、開いているページの黒いインクが、スゥーっと、消えていったのだ。

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