決まってしまった
穏やかではないこの状況、武器を買い付けたという言葉が、聞き耳を立てる四人に尋常ではない緊張感を与えた。
連絡を取る手段がない状況では、最悪の状況に対する対抗策を通達することができない。
天井に張り付いているテリンととミラはともかく、壁に張り付いて窓から中を覗いているサグとエボットは問題だ。
周囲に警戒しながら中の情報を盗み聞き続ける。かなり神経を削る。
「我らの持つ最大の武器は数だ! そこに多少の武力である武器があれば!」
賛成派だった老人が立ち上がりながら叫んだ。
老人の言葉が非常に楽観的な言葉であることを、盗み聞いている四人は理解している。
魔法という概念は、古代のような武器を持ち突っ込むだけの戦闘を、まるで塵芥を払いのけるように簡単に否定してしまう。
ここにいる人員が魔法を使うようにはとても思えない。使えたとしてもその程度は?
多少使える。それではダメだ。飛び抜けて強い。おそらくそれでも足りない。一騎当万。それほどの魔法使いでなければ、王兵隊に勝つことはできないだろう。
グリアが下っぱならば、そういうことなのだ。
「そうだ! 武器の中には銃も! 弾薬も余るほどある! 我らは王政を討てるのだ!」
さっきの老人よりは年若いだろう男が、肥えた腹を揺らしながら叫ぶ。
気圧されたのか、さっきまで否定を叫んでいた側が、ぐっ、と静かになってしまった。
残念ながら、どれだけ武器があろうとも銃弾は土や氷属性の魔法で防げば良いし、剣などは雷属性を纏わせた剣でぶつかれば簡単。
いや、もっと言うならば魔法を放射してしまえば簡単に戦いは終わる。
魔力や魔法を使うことができなければ近接に持ち込むことすら不可能かもしれない。
彼らは、甘く見すぎている。
現実は数などでは到底解決できない、鉄よりも恐ろしい壁が目の前にあるのだ。
「立ち上がらなければ! 子供達の未来も! 俺たちが大切に思う自然も! 生きてきたこの島も! 全ては守りきれない!」
叫んだのは若い男だった。この場の中ですら一番か二番には若く、まだまだ熱に溢れた年頃と言える。
その熱は伝播していく。若い力か、燻った火種に点火したと言うべきか、徐々に場が熱くなっていく。
「そうだ」
「私たちがやらないと」
「このままじゃ変わらない」
「何もしない王に鉄槌を」
「この島を守るんだ」
「倒す」
「守り抜く」
同調。
心が空気となって伝わり、熱が伝播して与えられ、暖まりすぎた空気がオーバーヒートした。
議長や書記が取りまとめるまでもなく答えは決まった。
「どうするよ」
バレないように建物を回り、エボットがサグに合流した。
表情は冴えず、この島が向かう先を想像し寒気に震えているようだった。
今屋根から降りてきた二人もそう。風邪でもひいたかのような最悪の顔をしている。
サグもそう。空色の髪の毛と肌が同じくらいに見えてしまう。
「一旦帰ろう」
やっと絞り出した答えは、とても情けなかった。
「そう……」
船に帰り、先に帰っていた二人と合流し、ディオブが食事を作る途中に全ての話をした。
イリエルはひどく憂鬱そうに眉間に親指を押し付ける。たいして押していないのに、爪と肉の間に、盛り上がった眉間の肉が少し当たった。
あまり芳しくない反応になるのは分かっていたが、ここまで表情が悪くなるとは思っていないかった。
いったい何があったと言うのだろうか。
「イリエル、話してやれよ」
ディオブが大きな中華鍋を降りながら言った。得意料理のチャーハンをド派手に作っているところだ。
イリエルは少し睨みつけるような、不快そうな目をディオブに向けたが、竜巻でも起こしそうな大きすぎるため息を吐き舌打ちを一つ。
「やなのに」
「仕方ないだろ、黒い世界もある」
四人は目を合わせながら、同時に訳がわからないと言う顔をした。
イリエルはただ一つ、呟くように言う。
「シナリオは決められていた」




