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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
魔法修行編
28/304

魔法修行、ミス

 翌日、小さな浮島に遭遇した。

 半径10メートルほどで、大した草木もない小さな島だった。

 そこでなら船を気にすることなく、思いっきり修行に打ち込めた。

 たった一日、そこにいただけだったが、テリンの炎は、明らかに昨日よりも熱くなっていた。

 ディオブ曰く、心の端っこで、船が木製だから、無意識に”危ない!!”と自分を押さえつけていたのだそう。

 サグもエボットも、進化と言えるほどに成長した。サグの弾ける力はさらに強まって、静電気よりも痛く、電気らしい攻撃性を帯びてきていた。

 エボットの氷も、らしい冷たさを獲得し始めている。それだけでなく、僅かにイメージした形の氷を作れるようになっていた。三人ともまだ未熟だが、確実に成長している。

 途中、その島のそばに、移動型の商船がやってきた。実のところ、三人の魔力修行で異常なほど船内の食料消費が早かった。だから大量に食料を購入できて助かった。

 それに近辺の島の配置図も購入できた、これも非常に大事な買い物だ。地図には近辺にある危険な天空生物の生息地も記されていて、危険を極力回避することにも成功する。

 本も買った、自分たちの知らないことをもっとたくさん知りたい三人にとって、これ以上に嬉しい買い物は無い。

 本棚に、ディオブ用の椅子、備え付けてあるものがボロで、新調が必要だった小さな家具もあらかた購入した。

 そこからさらに修行を続けて、拳に纏ったそれぞれの属性が、魔法と呼べるほど攻撃性を帯びてきていた。

 昼下がり、昼食を終えて三人は、それぞれの修行の成果を確認していた。


「とりあえず、みんなそれっぽくはなってきたね」


 サグの言葉に、二人も頷く。サグもだが、二人も満足そうな顔をしている。やっと魔法らしいことができてきて、楽しくなってきているのだ。


「いやだめだろ」


 そんな三人に、渋い顔をするのがディオブ。対照的な表情に、サグは少しだけ驚いた。


「いや、俺ら普通にできてるじゃんよ」

「普通すぎだ」


 エボットの意見をバッサリと切り捨てる。あまりに無慈悲な言い方に、少しだけカチンときてしまう。


「……しょうがねえ、かかってこい」


 ディオブが戦闘体制をとった。構えた拳に、少しだけ警戒してしまうも、三人は顔をあわせる。全員、いたずらをするときのような、楽しそうで、小狡そうな笑顔をしていた。

 三人も構える。実は三人は、純粋な格闘に関しては初めてだった。ずぶの素人丸出しの構えだが、三人は勝手に様になっていると思っている。


「いくよ」

「こい」


 サグとエボットが飛び出した。二人は拳を握り、そこに作った魔法の力を意識する。


「うりゃあ!」


 エボットが氷で固めた拳を突き出す。しかしディオブは、なんでもないことのように掌で受け止めた。


「冷え……よ!!」


 そのままエボットの拳を握り、分度器を描くかのように、180度、自分の上へ振り回した。そのまま地面へと叩きつける。


「ゲホッ!?」


 地面に叩きつけられたエボットは、驚きながら、衝撃に咳き込んでしまっていた。

 だが、その攻撃は同時に隙になった。サグはディオブの背中目掛けて拳を放つ。


「でいっ!!」


 拳は確かに、ディオブの岩のような筋肉に着弾した。しかし、体には全くダメージを与えられてはいないようだ。


「甘い!」


 体制をたいして変えず、そのまま軽いソバットで腹を蹴られてしまった。あまり痛くはなかったが、結局飛ばされ二、三回転して空を見上げる。

 またその隙を狙って、テリンが頭を狙い蹴りを仕掛ける、しかも燃えているやつを。だが、当たる前に足を掴まれてしまった。


「ホイッ!」


 テリンも空中へと放られた。四メートルほど飛び上がって、地面に自由落下した。

 サグはぼんやりと何も考えずに空を見上げていた。むくりと起き上がると、二人もボケッとした顔をしていた。エボットなんかは、訳がわからないという表情で土埃を払っている。


「お前ら、不合格もいいとこだぞ?」


 ディオブが咎めるような口調で言った。表情には明らかにわかる不満が浮かんでいる。


「まず、なんで近接戦を選んだ」

「えっ」

「だって俺らは、拳に纏わせる魔法しか」

「はいブブー!!」


 ディオブは大きく腕でばつ印を作る。言い方と声のせいで正直腹が立つ。


「まず魔法ってのは自由なもんだ、なんで魔力を纏わせるだけしかしないのか!」

「ディオブもやってるじゃん」

「俺の属性は鉄だ、それに元から筋力も格闘術もある、つまり俺とは相性がいいんだよ」


 腕がシルバーメタリックに変化した。言われてみれば、シンプルな硬化の能力は、ディオブとの相性バッチリだ。

 しかし自分たちはそうじゃない、格闘術の心得がないのに、拳が当たらないと意味が無い魔法にするなど。考えてみればみるほど愚かだ。


「電気とか炎とか、明らかに柔軟な属性してんのに、そんな拳しか考えねえからびっくりしたぜ」

「例えばサグでわかりやすく例えるが」

「うん」

「お前、その程度の電力で近接なら、スタンガンでいいだろ」


 ものすごくハッとした。

 確かに、今自分がやっていることはスタンガンだ。

 普段なら気づいただろう間違いと認識違い。魔法というファンタジックなワードに騙されて、意味のないことをしていた。


「まっ電力を上げるって考えは間違ってねえ、だが、そこから何をするかだ」

「エボット、オメーは冷たさに囚われすぎてる、ただ冷たいだけの拳じゃ何も生まれん」

「テリン、お前の蹴りは熱かった、熱さは確かにダメージになる、だがお前は二人よりもパワーがない、そこを炎で補ってこそじゃないか?」


 三人とも、かなりしっかりと弱点をつかれた。そもそも格闘術自体無い三人が近接戦をしようとしたこと自体が間違いだったのだ。それだけ言って、ディオブは船に戻って行った。

 残された三人組は、それぞれに行動を始めた。まずサグは、電気、というものに関して、再び考え始めていた。エボットは固形の氷を掌に作る特訓、作っては地面に落とし、手を離れてから溶ける時間を見ている。テリンは両手に火を起こして、温度を上げるよりも、大きく高くすることに集中していた。

 注意されて、そのまま拳以外のことをしているのが少し悔しかったが、その通りだったので仕方ない。

 そのまま大した成果無く夜が来た。

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