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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
謎の集団 リリオウド編
279/304

傲慢なる王

 イリエルは一瞬だけ戦慄した。

 目の前にいるのはこの島の権力の最高に立つ男。それを理解するまでに、一瞬を要したのだ。

 そのこと自体に大した恐怖感や、違和感のようなものは無い。事実は事実として受け止めるだけ。

 問題は、なぜ? の部分。

 この男は今、自分の放った情報を受け、混乱している島民たちへの対処を考えなくてはならないはず。

 つまりここにいてはいけない人間なのだ。

 過激な言い方だが、イリエルの認識からすれば間違いない。

 ここにこの男が存在するだけで、イリエルの心は疑いの気持ちを強めていく。

 イリエルの目つきが鋭くなったのを、見えない位置に立っていたはずのディオブは察し、いつでもフォローできるように備えた。


「陛下、どうしてここに!?」

「事務がひと段落したんでね、王兵隊を視察でもと」

「でっ、ですが……!」

「どうかしたかい? 他に仕事があると思うのか?」


 こう言われてしまってはグリアにはもう何を言うこともできない。

 王の仕事など、今日の様子から予想くらいは立てられこそすれ、王兵隊の見習いであるグリアが知るわけは無いのだ。

 業務が終わり次の業務として視察に来た。それだけが王の語る事実であり、知らぬ全員の感知できる全てなのだ。

 王はそれを全て理解している。だからこそ、余裕たっぷりの顔で笑う。


「君たちは?」

「私たちは……」

「私共は生物研究の一団でございます、先日の調査に同行させていただきまして」

「ああ、報告は受けている、我が兵団が助けられたそうだな」


 感じ取れるか取れないか程度の暗さがイリエルから漏れた。それを察知したディオブが飛び出し誤魔化す。

 同時に、王から向けられていた疑うかのような目が少しだけ柔らかくなった。

 ディオブはグリアに目だけを向ける。気づいたグリアも、目線だけで返事をする。

 どうやらイリエルの行動は、あくまでも王兵隊主体として行った調査任務に同行したプロフェッショナルとして報告されているらしかった。

 ディオブとしてはむしろその方がありがたいと考える。

 そちらの方が、イリエルが目立たないで済むからだ。


「いえ、大したことは」


 ディオブの意図を察したイリエルは一歩下り、ディオブが王に受け答えをする形になった。


「陛下、今回の調査結果はお目通りに?」

「見たよ、が、特に気にする要素もない」


 王以外のその場の三人が驚きに目を見開いた。

 調査資料や体験した事実など、全て事細かに報告したはずだ。少なくとも島の高い立場に居る者たちには。

 今度はイリエルが視線だけでグリアを見た。

 グリアは見るからに動揺していて、その様子はグリアが一切感知しないところで事態がおかしくなっていると理解するには十分だった。

 

「気にする要素もとは!?」

「そのままだ、自然は自然のままに、ただそれだけ」

「ですが!」

「貴様らはあくまで協力者、関係ないだろうこの島には」


 島の主に言われてしまっては、これ以上何を言うこともできない。部外者であることが事実であり全てだ。

 

「あれでは情報不足な面があったのでな、再調査頼んだぞ」

 

 それだけ言って王は去っていってしまった。

 悔しいのか、歯痒いのか、何を言えばいいのかわからないが、二人の胸中には尋常では無い感情が渦巻いていた。

 

「ディオブ! イリエル!」


 二人の感情を払ったのは、元気な若手の声だった。

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