心の刹那
サグとエボットはとりあえず自分たちの船へと向かっていた。
リエロス号のメンバーに一旦報告しなくては、事態をどうにもすることはできない。
しかし進む間にも様々な声が聞こえてきた。
主に聞こえてきたのは王兵隊や王に対する文句。平たくいえば悪口だ。
サグも同じようなことを思っているので悪いとは感じなかったが、流石に王兵隊に責任はないと思っている。
王兵隊はむしろ猿達の問題を解決しようとしていたからだ。
人々の波を抜け、ようやく島の端っこ。船を停泊させている港へと辿り着いた。
「いるかな」
「いるだろ多分」
一応今は午前中、修行はいつも正午手前までしている。
だからいつも通りであれば、船に残っている全員がそこにいるはずなのだが。
二人は普段であれば船の中に一度乗り込んでから甲板に向かっている。
だか今日は足に身体強化を発動し、助走をつけて全力でジャンプした。
甲板へと降り立つと、二人を迎えたのはテリンとミラだけだった。
「二人とも、おかえり」
「ただいま……ディオブとイリエルは?」
「ああ、なにか島が騒がしいって、状況探りに行ったよ」
テリンはそう言って島の中央部を指した。確か王兵隊の基地があるという方角だ。
二人は自分たちがすれ違ってしまったことを察し舌打ちをした。
「なになに、どうしたの」
二人の明らかに尋常ではない様子にミラが近づいてきた。
テリンも何かがおかしいことに気づき、少しだけ不安そうな目線を島へと向けている。
「今島で」
サグは島で見たことを二人に伝えた。
ミラはサグの語ったことの意味を全て理解できていない様子だったが、テリンはサグとエボットと同程度に事態を理解し、その歪さに震えている。
今島へと向かった二人は、おそらく王兵隊に事の真意を確かめようとしているのだろう。
サグは島の中央部を見つめて静かになってしまった。
「サグ?」
「どうしようかな」
サグの小さな呟きは、これからの行動への迷いを簡単に表していた。
この状況下でサグ達が取れる行動は主に二つ。
一つ目はただ待っている事。ディオブとイリエルが持ち帰るであろう情報を待ち、ただ甲板で時間を過ごす事。
二つ目は二人に合流する事。これはまたすれ違う可能性と、何者かと遭遇した別の場所でまた問題が生まれる可能性がある。
サグとしては二つ目の行動をとりたいのだが、この混乱している状況下で、さらに問題を生む可能性は避けたい。
サグが悩んでいると、背中に強烈な衝撃が走った。
「何悩む必要がある」
エボットは背中を叩き、サグに笑いかけた。
サグにとにかく進むことを提案したのだ。
いつだってそうしてきた。エボットの目がそう語る。
サグもそれに対して、同じように笑いかけた。
「テリン、ミラ、船の留守番よろしく!」
「ちょっ二人とも!」
二人は船から飛び出し、島の端っこにある王兵隊の基地を目指して走り出した。




