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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
謎の集団 リリオウド編
274/304

王と隊長

「そうか、それが報告か」


 まるで滝のように長い髭を優しく撫でながら、頬杖を付き眼下でひざまづき低い声で呟くように言った。

 男は老齢とはいかずとも、それなりに年齢を重ねていて、歳とともに刻まれたシワが手のひらや顔に刻まれている。

 男の足の上では比較的小さな猫が丸まり、男の手に撫でられるのを堪能し続けていた。

 

「はい、私どもの調査報告は以上です」


 自分の役割を終えたことに安心し、一つため息を吐く王兵隊隊長。

 王の危険を損ねなかった事。彼を安心させているのはたったそれだけの事実だ。

 仮にここで王が気まぐれにでも罰則をあたえたとしよう。それはつまり、同時にこの島そのものの崩壊を意味する。

 今このタイミングで王兵隊のリーダーが消えれば、間違いなく残されたメンバーは統率を失ってしまう。

 そうなれば、まず間違いなく猿たちの対処はできなくなる事だろう。

 簡単な話、この島は終わり、ということになる。

 

「ご苦労、下がって良い」

「……王よ……一つお尋ねしたく」

「なんだ」


 心の底からめんどくさそうな声だった。表情さえも歪み、面倒臭いと訴えている。

 心の中で舌打ちをしつつも、隊長としてここで聞いておかねば、この先何も変わらない。

 少しだけ政治的な恐怖を感じつつ、隊長は生唾を飲み込んで言葉を紡ぐ。


「この先、猿たちをどうなさるおつもりですか?」

「どうもせん」


 たったそれだけのシンプルな回答。聞き間違うはずもない言葉。だからこそ耳をうたがった。

 しかし王の顔はそれが真実であり、ただそれだけが正しいと訴えていた。

 隊長は自分の顔が非常に間抜けであると理解できている。それほどに衝撃的な言葉を吐かれた。


「なにもしないのですか!?」

「逆に何をする必要がある?」

「島民たちが猿の被害に喘いでおります! 被害報告も溢れるほどに!」


 隊長ではなく一島民として当たり前の回答。

 少し島を見ていればわかる。今この島は荒みきり、あと少しで崩壊する薄氷のようだ。

 絶望しかないと考えるのがむしろ普通、という領域まで来てしまっているのだ。

 

「それなら知っている」


 隊長は耳を疑った。

 今自分の王はなんと言ったのだろうか。

 いやわかっている。この静かな謁見の間で”それなら知っている”とはっきり言ったのだ。

 全てを把握している。その上で必要ない。と言い放ったのだ。

 喉が渇き手が震える。あまりの衝撃に体がおかしくなっているのが理解できた。


「なっ、なぜ」

「自然は自然のままであるべきなのだ、猿が自然のまま生き、この島の民を傷つけるというのなら、それが自然なのだ」

「なっ……あっ」

「わかったらもう下がれ、これ以上語ることは無い」

「……失礼致します」


 このまま何をいうこともできず隊長はその場からさった。

 王兵隊の仲間や島のみんなに申し訳なく思いながら、歯軋りをして廊下を歩いていった。

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