激突
夜が明けた。久方ぶりの、ベッドの上ではない朝だった。
しかし、三人の体は疲れていなく、むしろ活力のようなものに満ち溢れている。
サグとエボットはいつもの午前中のトレーニングに備え、すでに食事を終えて服を着替えている。
テリンは一人甲板の上で自分の火を見つめ、手のひらで優しくそれを握りしめた。
起きてきたディオブとイリエルは、三人の様子に少しだけ違和感を覚え、お互いに目を合わせた。
「なにかあった?」
「間違いなく、だがわからん」
二人はとりあえず全く触れない事を決め込み、いつものトレーニングの準備をする事を決めた。
「ディオブ、イリエル、今日は俺たち二人でトレーニングさせて」
サグとエボットは、真剣そのものの瞳で、心の底から落ち着いた口調で二人へ語りかけた。
二人には何か確信めいたものがある。直感させるには十分な瞳をしていた。
強くなった側として様々な事を知っているディオブとイリエルは、その頼みを素直に受け入れることにした。
「いいぜ、本気でやってみろ、お前らにはいろんな経験が必要だしな」
ディオブの言葉に感謝し、二人は甲板から島へと上がった。島の環境でなければできないことはたくさんある。
テリンもトレーニングには参加せず、船の端っこで自分の炎を操ることに集中し始めた。
テリンの考えは一つ。自分自身の魔法を見つめ直すこと。
テリンが現在扱える属性は二つ。火と光の力だ。
光の方に関してはあまり鍛えてこなかった。戦闘には火さえあればなんとかなっていたから。
しかし現在、テリンは新しい力の必要性を感じていた。
イリエルの扱う炎は、属性の融合もあるとはいえ完璧なコントロールに支えられた魔法だった。
自分との差を痛感するには十分なほど。
(コントロール……イメージ……全部見つめ直す……私の力を作り直す!)
自分の持てる戦術と武器、そして発想。
全部を使って戦うしかないのだ。テリンはそれを見つめ直すために、自分の体の中全てを考え直そうとしている。
魔力探知を支えるディオブとイリエルは、テリンの成長度合いに驚きつつ、内部で起こっている事を察知し、何をしようとしているのかをほぼ正確に理解した。
「こりゃあ、焦らないとかもな」
「ええ、少しまずいかも」
二人は少しだけ冷や汗を流した。
そして現在は可能性の塊、ミラを見つめてニヤリと笑う。
「わかってるなサグ」
「ああ、始めよう」
周囲に人がいない空き地に入り、二人は拳を握って向かい合う。
二人が直感的に出した一番向いている結論は、戦闘しながら磨き進む事。
反射の応用、格闘の戦闘技術として、中途半端ながら身につけている技術の一つ。だがそこに劇的な強さは無い。
だからこそ、二人は一番近しいライバルであるお互いに向かい合い、殴り合い、ただひたすらに磨く事を決めた。
アクマンス、エストリテ、リリオウド、強敵を超え、成長するあの感覚。
瞬きの時間さえ大袈裟に長くさえ感じる、あの最高の進化の感覚。その感覚を再び掴むにはライバルが必要だ。
「いくぞ」
「おう!」
二人は走り出し、お互いに魔法を構えて走り出した。
電気が迸る拳と、氷を纏わせた拳が勢いよくぶつかり合う。
次は蹴り、またお互いの魔力がぶつかり合い弾ける。
「だりゃあ!!」
「しゃらあ!!」
攻撃と攻撃がひたすらぶつかり合う。何度も何度もぶつかり合う攻撃は同格。
しかし一つ一つの攻撃には殺意が宿っていた。
本気なのだ。本気で相手を倒そうとする攻撃がぶつかり合っている。
(グリアの決意がどれだけすごいか、わからないけど)
(この島に対し、俺らがどんだけ何ができんのかわかんねえけど!)
((強くなりたい!!))
二人の拳が交錯した。
電気と氷が弾け、また混ざり合う。




