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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
謎の集団 リリオウド編
272/304

僕の心

 サグもテリンもエボットも。ある意味トラウマと言えるものはもっている。故郷が滅ぼされた時の光景がそれだ。

 しかしグリアのトラウマは想像を絶している。

 三人の人生経験には存在し得ない、発想さえ無かった事を現実に受けていた人間が目の前にいる。

 

「……トラウマを乗り越えるって……簡単じゃないよ?」


 テリンはおそるおそると言った口調で言葉を紡いだ。

 それに対し、グリアは見ている側が少し不安になるような表情でニコリと笑う。

 その笑顔はまるで弱々しい花のよう。体格と強さに似合わない美しさを兼ね備えているが、薄氷のような脆さが見え隠れしているのも確かだった。

 夜の闇。それらが作り上げる冷たさに似た恐怖が優しく首筋を撫でる。

 ぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつ。

 鳥肌が立っていくのがはっきりわかった。気持ち悪いほど完璧に。


「でも、乗り越えなきゃ、強くなれない」


 美しい笑顔から放たれた、静かで確固たる決意を秘めた言葉。

 激しい口調じゃないからこそ、その決意は強く心に沁みてくる。

 

「どうして強くなりたいんだよ」

「そっ、そりゃあ島を守るためで」

「違う、島を守りたいのは分かってる」


 グリアはサグに心の底から不思議そうな顔を向けた。

 何が言いたいのかまるでわかっていない。という心を全面に押し出した間抜けな顔。サグは少しだけ笑ってしまう。

 テリンとエボットは逆に、サグの言いたい事が全てわかっている態度でグリアを見つめる。


「島を守る理由は、どこにある」


 グリアはやっと全ての事を理解できた顔をした。

 ゆっくり立ち上がり、暗い空間をフラフラと歩く。大袈裟だが、サグにその動きが舞踊に見えた。

 暗い空間に月光の演出効果、サグは幻覚を見たのだと勝手に確信づけたが、自分の確信を疑いたくなるほどグリアの動きは綺麗に見える。


「たった一つ、恩義だよ」


 指を一本、ピンと立たせてグリアが言う。

 放たれた言葉は少しだけ重いものだが、グリアは対して何も感じていないようだった。


「父に捨てられ、たった一人生きていくには幼すぎた僕は、この島の人々に育てられた……」


 グリアが拳を握り締め、そして自分の腹部にもう片方の手を当てた。

 下を向いているせいでその表情はわからないが、普通の顔をしているわけではないのは明らかだ。


「大事に、育てられたんです、これでもね」


 声がどこまでも優しい。

 耳が安らぐ。という表現を三人は初めて理解する事ができた。

 グリアの顔が見てみたいという好奇心に駆られる。

 デリカシーにかける好奇心だとわかっているが、サグの心に好奇心が溢れ出してしまっていた。

 

「守りたい、そのためなら、戦える」


 グリアはもう一度手のひらに炎を発生させた。

 さっき暴走していた荒れ狂うかのような炎とは違う。夜の暗がりの中で輝き、優しくゆらめいていた。

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