グリアという男
消火を完了させた四人は向かい合わせになっているベンチに座った。
冷たい夜の空気に冷やされた木製ベンチに、同じく木製テーブル越しに座る。尻に伝わる冷たささえ、三人には全く初めての感覚だ。
テーブルの上には何もない。非常に殺風景な姿だが、偶然の産物であるこの出会いに、何かものを置いておけという方が無茶だろう。
それぞれが座ったが、目線は全てグリアに注がれている。
二対二で並んでいるはずのに三対一。
なんとなく想像できていたこの状況に、グリアは少しだけ居辛らそうに肩を竦め、身を縮ませていた。
「グリア、説明してもらうよ」
少し怒った口調でサグが言った。
身を乗り出しグリアへと迫る。それはサグだけではない。テリンとエボットも全く同じことをしている。
三方向から迫られたグリアはタジタジだ。とりあえずワタワタと手を振るしかできない。
「いやっ、そのお……」
少しだけ気まずそうに頭を引っ掻く。さっきも見た動きに呆れの顔を見せる三人。
グリアはさらに気まずそうにしている。
「えっと、自分の魔法適性は火なんだけど……あんまり魔法が上手くなくて」
指先を押し付け合いながら、非常に言いにくそうにつぶやいた。
三人はグリアの言葉に、ぽかんとした非常に間抜けな顔をしてしまった。
グリアは王兵隊の中でも、いわゆるルーキーに分類されると聞いていたものの、グリアの実力は身をもって知っているつもりだった。
だからこそ、魔法が苦手と言われて意外で仕方ない。という気持ちがある。
「そうなの? 結構意外なんだけど」
詰め寄るのをやめ、頬杖を突きながらグリアを見つめるテリン。
同じ火属性の使い手だからこそ、似たような感性や考えをもっているのかも知れない。
テリンの感想とほぼ同じことをサグとエボットも思っていた。グリアの戦闘能力なら間違いなく魔法も得意なのだろうと。
「僕は身体強化、つまり魔力コントロールは得意だけど、魔法を使うのは苦手なんだよね、使おうとすると暴走しちゃって」
暴走。と言われると三人にも思い当たる人物がいる。
だがミラの場合は、潜在している魔力量に対しコントロールが未熟すぎて暴走する。
魔力コントロールをできているグリアが暴走する理由がわからない。
「暴走の心当たりは?」
「あります」
グリアはそう言って自分の服を捲り上げ腹を晒した。
晒された腹には、目を覆いたくなるような惨たらしいやけど跡が、ぼこぼこと盛り上がった肌と共に刻まれていた。
夜で暗いが、それでもはっきりとわかるその凄惨な跡は、三人の経験にない辛さを醸し出していた。
サグとエボットは眉間に皺を寄せ、テリンは思わず反射的に口を手で覆う。
グリアは慣れているのか、ふっ、と小さく笑った。
「昔、酔った父につけられた傷」
「父親に?」
「ええ、父は王兵隊の一人だったけど、人格としては最悪だった……酔った父にこれが魔法だ……と、火を放たれた」
「ひでぇな……親父はどこにいんだよ今」
「さあ、いつの間にか消えてたから」
心の底からどうでもいいことのように、どこか他人事のような口調でグリアが言った。
「魔法はイメージ……だから暴走するみたいで」
「そうか……でもなんでこんな必死に」
「決まってるよ、魔法を使えば猿に対抗できるから」
テリンは今日の光景を思い出していた。
今日、イリエルは完全に制御した炎で猿達を退けた。
一度目の光景はグリアも見ていたのだ。それがあるからこそ、グリアは魔法を使おうとしているのだろう。
「強くなれば島を守れる……それだけだよ」




