グリアの可能性
暗闇を走るのは久しぶりの体験だった。
強くなるには健康的な生活が一番。として、悩みのない日は基本的に早く寝るように決めている。
冷たい風が頬を刺し、暗い空間に足音だけが響いている。もはや懐かしくさえ感じる夜の姿。
この島に来て数日が経っているが実感する。太陽というものは物体をより美しく見せてくれるのだと。
暗い世界では何もかもが重く冷たく感じさせる。
「どっちだっけ?」
「右に曲がんだよ!」
行く道と帰る道が同じに見えないように、暗いと今までの道がどっちだったのかよくわからなくなる。土地勘がまだ備わってない場所ならば余計に。
困惑したサグにエボットが叫び、三人は公園を目指す。
森に入り、街中よりも慣れた感覚がした。故郷は建物よりも植物に溢れる場所だったから。
三人は森を走り、目的地だった公園へとたどり着いた。
そこにはグリアが居た。暗闇でもわかるくらい大汗をかき、全身で息をしながら。
走ってきた三人に気づき、意外そうな顔をして三人の方を向いた。
「あれ? 三人ともどうして?」
グリアが言った瞬間、近くの草が突然燃え上がった。
「うわっ!」
「しまった! 消し損ねた!」
グリアが慌てて炎へと向かおうとする。しかし意外と炎が大きくなり始めていて近づけない。
「バカどけ!」
エボットが飛び出し、片腕に氷を分厚く纏わせた。
そしてそのままの勢いで、拳を炎へと叩きつけ、炎の元になっている物を潰した。
じゅううと音がしたが、それでもまだ炎は消えない。
さらに、周りの草やら木やらを巻き込んでもっと大きく燃え広がろうとしている。
「テリン! 周りの草を毟って! エボットは氷でとにかく潰す!」
「了解!」
「おう!」
二人はサグの指示に従い行動を開始した。
テリンの行為は非常に地味なものだが、燃えるものを無くすという意味で、非常に大事な役割と言える。
エボットは両手両足に氷を発動し、ひたすら炎を潰す。
サグは電気の魔力を発動し、鋭くコントロールした魔法で枝や葉を切って炎から遠ざけた。
グリアもできるだけ自分の魔法で干渉し、炎の勢いを止めようと必死になっている。
四人が尽力し、とりあえず炎を消す事には成功した。さっきまでは月光に照らされていた緑が、すっかり寂しくなってしまったが。
「はぁ……はぁ……なにやってるのあんた」
テリンが土まみれになった手を叩きながら言った。
テリンもそうだが、サグとエボットも心の底から呆れた顔をグリアに向けている。
グリアには真面目なイメージが定着していたが、今三人のグリアに対するイメージは完全に間抜けのイメージだ。
「いやあはは、魔法の練習してたんですよ」
グリアは少し焦げた髪の毛を引っ掻きながら、気まずそうに笑った。




