魔法修行、難航
ディオブはそう言ってすぐに船室に引っ込んだ。少しだけ間抜けな顔で顔を合わせてから、三人は修行を始めた。
サグはまず昨日と同じように、魔力を取り出すところから修行を始めてみた。魔力の流れを感じ、手にそれを集める。すると手を覆うように電気が発生する。それにもう片方の手で触れてみると、確かに対して何も感じない。
強いて挙げても、静電気の見えないワタに触れるような感覚を弱くしたイメージだ。これでは確かに攻撃にはならない。
「電気…か」
電気と考えると、一番最初に思いつくのは明かりだ。また危険というイメージもあるが、それは薄ぼんやりとした感覚でしか無く、はっきりと危険というイメージを持てなかったのだ。
チラリとエボットを見てみた。エボットもなかなか苦戦しているようだ。見るに氷を大きくしようとしているようだが、未だただのエネルギーから固形物になることができていないようだ。
反対のテリンを見る。テリンは今は魔力コントロールをしているようだ。目を閉じて肩幅に足を開き、少しだけ脇を開いて脱力している。
現状、誰もはっきりと魔法には至ってはいない。ぐだぐだと悩みながら魔力コントロールを試行錯誤しているうちに、昼になってしまった。ディオブに呼ばれて船内に戻る。扉を括った瞬間に、チャーハンのいい匂いがした。
上手くいっていない現状にむしゃくしゃしながら、チャーハンを口いっぱいに入れる。少し痛いほどに頬が膨らんだが、構わずに米粒を一つ一つ噛み潰していく。
「なんだ?ずいぶんイライラしてるじゃねえか」
座りながらディオブが言う。ケラケラ笑っているのが少しだけイラッとした。
「何かヒントないの?」
目だけでディオブを捉えて言った。サグも我ならぶっきらぼうだと自覚した口調だった。
「なんもねーよ」
ディオブはチャーハンを口に入れながら言った。
「魔法ってのは魔力と違って、イメージが大事だ」
「一人一人の持つ物事への僅かな認識の違いと、密接に関わっている、横からどうこう言っても妨害にしかなんねんだ」
「俺とは適正属性違うしな」
そう言ってまたチャーハンを口に入れた。
程なくして全員が食事を終えた。エボットが残り食器洗いをする。本来はサグだったのだが、ディオブの指名だった。
再び外に出て、魔力を確認する。溢れるような魔力はある。しかしその魔力をどうしていいものか、いかんせんわからなかった。再び手に魔力を集中させる。手を覆うように、バチバチと電気が弾ける。まるで線香花火だ。
「……あれ?」
ポツリつぶやいてみる。何かが引っかかったような感覚がした。自分の手をじっ…とみてみる。弾ける電気、弾けると言う点に気付いた。
(これって……)
魔力を意識してみる。弾ける電気が強くなるように、バチバチからさらに大きく強く、バヂバヂバヂバヂ、と大きな音で弾けるようになった。線香花火から、火花に変化した程度だが、これでも変化だ。
「これが……」
何か一歩進んだような、何かを成し遂げたような達成感があった。胸が熱くなって、喜びに心が震える。
「すごいね、よくそんなにすぐ」
「テリンはどんな感じ?」
テリンは手全体を大きく燃やした。炎は昨日よりも大きく鮮やかで、力強く見えた。
「触る?」
うなづいてから、恐る恐る手を近づける。近づけるほど、熱をより強く感じた。手に触れた。確かに熱いが、まだ火傷をするほどでは無い。
「うーん、確かに熱いけど……まだダメージには」
「うん、だけどだいぶ進んだ、火のイメージが固まってきてる!」
扉が勢いよく開いて、エボットが飛び出してきた。
「おっ?何やってんだ?」
エボットもテリンの手に触った。しかし、やはり反応は微妙だった。l
「俺はまだまだだ……」
手に氷を発生させる。触ると、確かに冷たいのだが、水みたいな温度でしかない。明らかに食器洗いに影響を受けている。
「とりあえず、それぞれの属性らしさを……かな」
あまりの微妙さに苦笑いしながら、三人はまた修行を開始した。




