対策しようもない
いったんの休息を終え、仲間達は通された会議室の椅子にぐったりもたれかかっていた。
決して上等と言える椅子では無いが、彼らの疲れた体を受け止めてくれうるものならばなんでもよかった。
全身を脱力させ、本来背骨が果たすべき体の支えという役割を背もたれに押し付ける。
ある程度身を引き締めさせる空気を持った会議室という空間で全員がそうだと、逆に真面目な人間がけおされてしまう。
「ごほん!」
少しだけわざとらしく王兵隊の隊長が咳をした。
咳というよりももはや言葉だったが、誰もそれを突っ込まず、むしろ疲れ切っているメンバーに「しゃきっとしてくれ」なんてメッセージ付きの視線を送る。
サグはそれを少しだけ理不尽に感じたが、一番疲れているであろうイリエルが姿勢を直したのを見て、自分も仕方なく姿勢を正す。
といっても、ミラ含め田舎出身の四人は、この場での正しい礼儀など一切知らない。
仕方ないのでとりあえず適当に座ることにした。だがサグは腕をテーブルの上へ乗せているし、エボットなんかはズボンのポケットに両手を突っ込んでいる。
なぜここまで姿勢や態度いついて気を使う必要があるのかは簡単。目の前に集められたメンバーの重要さだ。
猿についてを説明してくれた商会の会長、王兵隊の隊長、そしてこの島の市民会の会長、その他にも名前のあるお偉い、つまり王族を除いた島民の代表が一室に集められ、島の部外者であるリエロス号のメンバーと難しい顔で向かい合っていた。
「では、話をさせていただきます」
用意されたホワイトボードの前でペンを握りながらイリエルが言った。
それに同意するようにお偉い方がうなづいて会議が始まる。
イリエルが説明するのは無論猿達の現状について。自分が見たもの、襲われ戦った結果、感じ取った危険性。
気になるところがあれば随時質問を受け付け、できるだけ正確に事実を共有しようとしている。
「猿達のコロニーの目的は?」
「考察ですが、単なる生活区域と防衛が主かと」
「猿達の総合数に関しては?」
「コロニー内部の危険性を判断し未調査です」
「危険性とおっしゃられましたが、どうお考えですか?」
「数が未知数という点が一番恐ろしいですね、猿達一匹一匹の実力は高く無いですが、いわゆる群れの部隊長がいます、それが厄介かと」
「戦ったそうですが、どうでしたか?」
「率直に言えば、一般兵では厳しいと思います」
イリエルの言葉でさらにピリリとした空気が走る。
彼らにとって王兵隊と言えば島の誇る最高戦力だ。
それの一般兵が通用しないとなると、本来持っていたはずの計算が全て狂うことになる。
サグがあまり知らないお偉い方がざわざわし始める。
どうやっても解決できないだろうに、強く無い自分をどうして恨まないのか、サグは少しだけ不思議に思った。
その中で、商会の会長すっと手を挙げた。
「猿のリーダーはどの程度の強さでしたか?」
「私が戦いましたが、正直あまり戦いたい相手ではないです」
「どのような特徴が?」
「魔法を使用していました、おそらく一定範囲内のワープ的なイメージです」
王兵隊の隊長は顎に手を当て、わかりやすく考え込む様子を見せた。
隊長がどれほどの戦闘経験を積んでいるのかはわからないが、とにかく予想のつかない相手には間違いないのだろう。
イリエルも戦ってみてわかるが、未知数の相手というのはとにかく恐ろしくて仕方ない。
ディオブがすっと手を挙げた。ただし視線はイリエルではなく正面に向けられている。
「王族に頼ることはできないのか? 資金面での支援とか」
それを言った瞬間、お偉い方の顔が急に苦しいものになった。若く経験の浅いサグでさえそれがよくわかるほどだ。
空気感がわかった事を感じ取り、リエロス号メンバーが落ち着かなくなる。
「王に報告すれば……我々は死刑かと……」
隊長の言葉は唐突で、なんとなく察していた言葉を告げらてしまった。




