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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
謎の集団 リリオウド編
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イリエルの狂気

 リーダーらしき猿は、イリエルの念属性の魔法により空中に拘束されてなおも、ひたすら抵抗を続けている。

 第三者にはわからない。一切動けていないから。

 しかし魔法を操るイリエルは、猿の激しい抵抗を感じ取っていた。


(この筋肉量、通常の猿とはずいぶん違う……やはり魔力をもってる)


 天空生物の基準の一つである魔力の潜在。イリエルは感覚からそれを見抜く。

 今回ここにきたのは、戦闘などではなく、猿たちの生態調査が本来の目的。

 しかし気づかれてしまった以上、このまま猿たちの住処を見学して終わり、というわけにもいかない。

 イリエルは猿の体を押さえていたが、口もしっかり拘束していた。そうでなければメッセージを送られ、それこそ街を襲うほどの数が、たった七人に襲いかかってくる。

 ならば、とイリエルは考えた。

 

「はっ!!」


 リーダーらしき猿を拘束したまま、地面へと落とした。

 そしてまた持ち上げ、もう一度地面に叩きつける。

 もちろん猿はその度ダメージを負い、傷ついていく。

 リーダーがやられ、何の指示もない現状に動揺したのか、猿たちは動きを止め、その場からリーダーの酷い光景を眺めていた。

 

「彼女は何を?」


 グリアはあまりに酷い光景に止まり、サグとエボットを助け起こしているディオブに質問を投げかけた。

 ディオブ自身、イリエルのやろうとしていることはわからなかったが、猿たちが固まっている姿を見て、ようやく何をしようとしているのか理解できた。


「イリエルは恐怖を植え付ける気だ」

「恐怖?」

「多分この島じゃ、人間は傷つけてもいい弱い存在だと猿は認識している」

「……」


 グリアは何も言い返せない。

 猿、というよりも野生生物に弱肉強食の概念があるのかはわからないが、自然とそうなってしまうのが野生というもの。

 だからこそ、生き残るために攻撃できる生物は攻撃する。そこに善悪の概念は無い、ただの生存本能の一部に過ぎないのだ。

 イリエルはその感覚をよく理解していた。

 そのため、ここでリーダーだろう猿を傷つけて、人間に対する恐怖をねじ込む。

 そうすることで猿たちが本能的に人間を避ける状況を作り出そうとしているのだ。

 でなければ、これから先もこの島の人たちは襲われ続けることだろう。

 また一度、イリエルは猿を地面に叩き落とした。

 猿は体から血こそ流していなかったが、高さ、速度、そして音、全てがなかなかの衝撃を与えていると周囲に伝えている。

 イリエルは指を曲げ、猿を自分の方へと引き寄せた。


「痛いでしょ? あと何回落ちたい?」


 猿は知能が高い生物である。人の言葉を理解できる個体もいる。

 だがそれは、人と長期間触れ合った個体に限る。

 猿は鋭くイリエルを睨み、イリエルにしか感じ取れなかったが、全身を動かして全力の抵抗を見せた。

 それに対し、イリエルは小さくため息を吐いて、指を天へと向けた。

 まるで風に吹かれ浮かび上がるハンカチ。猿はそれほど軽く見えた。


「そう」


 その瞬間、ディオブはミラの目を塞ぎ、テリンはミラの耳を塞いだ。

 イリエルはある程度の高さまで確認すると目を閉じ、指を引っ込めて拳にした。

 そのまま、猿は自由落下し、地面へと落ちた。

 どちゃ、ぐちゃ、めちゃ、ぐしゃ、どおっ、どの音が正しいのかわからないが、とにかく耳障りの悪い音がした。

 決着がついたのだ。

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