表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
謎の集団 リリオウド編
257/304

イリエルの戦闘、その進化

 実力のある二人、サグとエボットが倒された時点で、イリエルのリミッターは限界ギリギリまで解放されている。

 それは精神の制御装置。自分を押さえつける恐怖という枷そのもの。

 イリエルは自分の精神を恐れていた。

 いくつかの自分がいる事、それを自覚しているが故に、イリエルは全力を出すことを恐れてしまっていた。

 だが、尊ぶべき命、尊ぶべき生命が躍動し、共にあるべき者たちを傷つけるのならば、イリエルは恐れない。

 自分自身の全力を振り絞り、故郷が壊れたあの日を、暴力で塗り替える。

 それが今、このたびにおける正答。確信している。


「生物研究者として……今禁を犯す!」


 イリエルは走り出し、鋭くサルへ蹴りを放った。

 イリエルの蹴りは今までにないほど鋭く、ただ掠っただけの地面の草を、足で切り裂くほどの勢いがある。

 リーダーらしき猿を狙った蹴りは木に当たり、まるで斧をあてたかのように大きく裂けた。

 木に張り付いていた猿達が地面へ落ち、リーダーらしき猿はわずかに怒りを滲ませてる。


「へえ、同族を傷つけられて怒る、いい知性ね」


 回転し、勢いをつけた踵蹴りで猿の肩あたりを狙う。

 しかし猿は動きを見切り、踵を掴んで攻撃を完全にいなす態勢を作った。

 体制は完璧、イリエルの攻撃は受け止められるはず。だがイリエルは、途中で身体強化に使っていた魔力の比率を変え、攻撃途中で自身の蹴りの速度を増加させた。

 猿は完璧な読みを崩され、思いっきり蹴りを喰らってしまった。

 イリエルの回転回数と同じだけ空中で周り、木の切られた跡に回転しながら激突した。

 その瞬間、周りの猿たちに動揺が見える。

 リーダーらしき猿は即座に体勢を立て直し、比較的長い手足を木に絡めて腕をきっちり構えた。

 だがその構えはパンチではなく、まるでカタパルト。


「!!」


 イリエルは後ろに飛んだ。

 さっきまでいた箇所に、強烈な威力の石が地面を抉りながら炸裂する。

 地面から飛んだ土がイリエルの頬に付着した。飛び退いた先のイリエルにだ。

 

「これは面白い、けど」


 イリエルは手のひらに炎を発生させる。明らかに、猿は動揺してしまった。

 イリエルの魔力の適性属性は念、しかし、人は属性を一つしか習得できないわけではない。特訓と才能次第でいくつも習得できるのだ。

 生物研究者として、何度も危険に遭遇してきたイリエルは、野生生物への対抗策として火属性を習得している。

 目の前にいる猿も、例に漏れず火に対する恐怖を見せている。

 火を炎へと大きくさせ、念属性で自在に操る。リリオウドでフォルテが見せた念属性と毒属性の合わせ技、その炎版だ。


「私よりも弱い」


 イリエルの指先に導かれ、炎は木にまるで突風の如き勢いで激突した。

 猿はすんでのところで皆回避できたものの、猿のいた場所には一瞬で大きな焦げ跡が残っている。

 

(どうだ!? 逃げろこれで!)


 しかし、イリエルの願いに反し、猿は急速に接近してきた。

 

「この猿!!」


 さらに炎を蛇のように操り、猿を攻撃しようとする。

 だが猿はそれをするするすり抜け、イリエルへと接近する。

 

(見抜かれた)


 イリエルはあくまで生物研究者。その対象は植物ではないが、自然という大きな括りで、植物も守ろうとしている。

 実のところ、念属性と火属性を同時使用しているのは、コントロール精度の上昇と、温度の調節を狙ったものだ。

 つまり、イリエルは自然を壊すことを恐れている。

 だがそれ以上に恐れているのは、仲間が傷つくこと。

 イリエルは、すでに仕込みを終えている。

 猿が地面に触れた。その瞬間、イリエルが仕込んでいた魔力が発動し、空中に浮かび上がり静止した。


「念属性、不可視の拘束」


 イリエルが完全に勝利した瞬間であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ