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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
謎の集団 リリオウド編
254/304

猿の戦い

 猿達が木の上からこちらを見下ろしている。それが理解できても、サグ達は全く動けず、ただひたすら汗を流していていた。

 頬を伝う汗の感覚がわかるように、猿達が何を思ってこちらを見ているのかわかる。

 観察しているのだ。

 こちらが持っているものは何か、いる人数は何人か、自分たちが勝てる相手か、自分たちに対し何をしようとしているのか。

 猿達は探っているのだ。

 

「逃げるべきね」


 イリエルの言葉に誰もうなづかなかった、全員が同意していた。

 この状況で未だ調査を続けようと考えるメンバーは居ない。明らかに詰みの状況に苦笑いもできない。

 サグとエボットは目を合わせ、いつでも魔法を行使できる状態にしている。

 

「キッ!」


 真ん中に木にしがみついている、一際大きな猿が他の猿に向かって叫んだ。

 顔の方向にある木に付いていた猿達は、サグ達へと、まるで木から落ちる木の実のように飛んだ。

 十を優に超える猿達が空を覆い尽くさんばかりに落ちてくる。

 

「全員! 戦闘態勢!」


 イリエルが叫ぶよりも早く、サグとエボットは魔力を全身に巡らせ身体強化を発動した。

 飛んでくる一匹の猿の腹に、同時に二人の蹴りが突き刺さり、水切り石のように猿が吹っ飛ぶ。

 サグとエボットが着地して、二人が真逆の方向に走り出して攻撃を開始する。猿達も攻撃は鋭く手数も多かったが、体格差を利用して木に叩きつけたり、強めの攻撃でふっ飛ばしたりして対応している。

 

「ギィ」


 また真ん中の猿が指示を出した。

 今度は二十匹程度の猿が飛び降り、合わせて三十匹程度が襲いかかってくる。

 サグとエボットがメインで対応するものの、数に押されて二人が対応しきれない。

 エボットの背後に攻撃が加えられようとし始めていた。

 だがその瞬間、グリアが攻撃を仕掛けた猿を蹴り飛ばす。


「攻撃はまずいんじゃないの?」

「バレなきゃ犯罪じゃないんですよ」

「悪い警備だな」


 エボットはニヤリと笑いながら襲いかかってきた猿を殴った。

 ディオブとイリエルはミラを守りながら後退し、テリン含め戦っている四人に守ってもらえる位置に移動する。

 ミラは対人ですら経験不足、その中であらゆる状況、あらゆる数が想像されるこの戦場に飛び出させるには無茶だ。

 サグとテリンはアイコンタクトを取り、お互いの意思を確かめ動き出す。

 サグはまず腕をクロスし、受け止める体制を整えた。そこにテリンが飛び、サグの腕を足場にして大ジャンプをする。

 飛ぶ先はリーダーらしき猿の居る木。

 テリンは空中で体勢を整え、蹴りのポーズを作った。

 猿はテリンがしようとしている事を察し、すぐに木から飛んで攻撃を回避してしまった。


「頭いい」


 その時点で回避した。だけだと思い込んでしまった。

 猿は飛んだ先にある枝を利用し、回転し、その力を自分のパワーとしてテリンに両足で突っ込んだ。

 テリンは一切回避行動を取れず、両足の蹴りをそのまま受け、地面に自由落下してしまう。


「テリン!」


 テリンへ叫んだサグの前に、猿が落下した。 

 人と猿。殺意と殺意がぶつかった。

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