生物の知能
一行はさらに街とは逆の方向、森の奥深くへと進み続けた。
イリエルを先頭として進む間も、周囲を観察し何か猿達の痕跡らしき物がないかと探し続ける。
しかしそれらしきものは全く発見できず。
進めば進むほど虫でさえも少なくなっているように感じ、周囲で動物が動く音さえも聞こえない。
「この辺……生態系が崩れてる?」
「分かるのか?」
「同じ山の中で、ここまで生息してないエリアがあるって事がおかしいのよ、環境自体はそう変わらないのに」
サグは生物学者ではないし、生態学に詳しいわけじゃないが、何が起こっているのかは大体察する事ができた。
この辺りに、生態系を崩せる捕食者たちがいる。
幼いミラ以外は全員がその事実を察し、自然と警戒のボルテージを上げていく。
あの猿達が危険なのは理解していたが、勢い任せに来てしまったので全員が武器を携帯していない。グリアでさえもだ。
全員の実力は高いものの、森の中というシチュエーションに、数という生物が持てる最大級の戦術を行使されれば負けは必然。
全員の緊張感が高まっている。
「ミラ、俺の上に乗れ、最悪俺が守る」
「うっ、うん」
ディオブがミラの襟首を掴み、自分の首の裏に乗せた。肩車の体勢で森を進み続ける。
「そういえばよ、なんでグリアは武器持ってねーんだ?」
「王が動物を傷つけてはならぬと、武器の携帯を許可しなかったんですよ」
「なにそれ、理不尽ね」
「ええ、だから王兵隊はみんな嫌がっててんです」
苦笑いでエボットとテリンに答えるグリア。
それに対し二人も同じような苦笑いを浮かべる。
自然と雑談が多くなってきた。緊張や不安を打ち消すために、自然と出てしまっている行動と言えるだろう。
森を進むと、少し遠くから、明らかに多数の生物が動いている音が聞こえきた。
植物が明らかに風で無い動きでガサガサガサガサ音を立てながらゆれ動き、何か鳴き声のような物もまだ微かながら聞こえる。
イリエルは手で一旦全員の行進を止めた。
「全員、装備を下ろして」
イリエルは重いリュックなどを下ろしながら言った。
それに従い、全員同じように装備を地面に下ろす。
「いい? 余計な音は立てないで……静かに、後退」
「後退? 進まないんですか?」
グリアが不思議そうにイリエルへ尋ねる。
サグもグリアと同意見だった。ここまで来て後退するというのも、死ぬ思いをしてからでは納得できない話。
だがそんな疑問は、振り返ったイリエルの表情を見て吹っ飛ぶ。
イリエルの顔は今までに無いほど焦っていた。好奇心などといった明るい物は一切ない。とにかく焦っている顔だ。
「良い? 多分もうここは奴らのテリトリー、痕跡は見つけたんじゃなくて見つけさせたの」
「見つけさせた?」
「多分天空生物……舐めてた……もうそばに」
イリエルが言葉を繋いでいると、いきなり後ろから「キーっ!」と鳴き声がした。
全員が振り返ると、十匹ほどの猿達がこちらを見ていた。
「完全に囲まれた」
イリエルの汗が、地面へと落ちた。




