イリエルの止まらぬ好奇心
治療と着替えを終えた六人は、昼食を済ませてからいつものように街に繰り出していた。
しかし今日歩く道はどうにも気持ちがいい。自分の想像を超えるほど、修行や、考えていた攻撃が上手くいったからだ。
サグとエボットは特にそう。自分の打撃が上手くいった感覚は、未だに体に強く残っている。普通に島の道を歩いていても強く。
三人は経験が少ない、その分どうしてもディオブに劣ってしまう部分があった。
今日得た経験は、今までの戦闘経験値とほぼどう価値さえとも言える程。少なくともディオブとイリエルはそう見積もっている。
(問題は三人が今日の経験をモノにできるかどうか)
(誰もがぶつかる壁……越えられるか? 天才ども)
雑談をしている四人から僅かに前方を歩いている二人が、ちらりと後ろを見ながら心でつぶやく。
強く、経験を積んでいる。つまりディオブとイリエルも、二人と同じことを経験しているという事だ。ディオブに関してはイリエルと出会った島で、さらに視線を越えて成長している。
成長の感覚、必要な物、全てが重なるタイミング。
成長とはある意味偶、運気さえも絡むミステリアスなもの。成長を経験した二人はそれも分かっている。
だからこそ積極的に外に出る、積極的に幸運に出会う機会を与える。
あまりにも幸運だよりの教育方針。しかし仕方がない。二人は教師としてはど素人なのだ。
今日、二人は賭けへの勝利を確信した。
「そういやさ、今日はどこ行く?」
「今日か……どうしようかな」
ディオブは顎を撫でながら言った。
六人で同時に出かけるのは初日以来。とりあえず食事は済ませてある。それぞれに趣味があるが、どうせなら一緒に行動したいと全員が思っていた。
静かに全員が悩む。その中でただ一人、イリエルだけがすっと手を上げた。
「あのさ、あの山に行ってみたいんだけど」
イリエルが指差した山に一部のメンバーは覚えがあった。
猿が襲撃してきたあの時、わらわらとやってきた方向にある山だ。
あの現場にいた三人は眉間に深く皺を寄せる。あまりにもわかりやすい三人の反応に、イリエルは手を叩きながら大笑いした。腰をくの字に曲げてまで。
「あっはははは! 察しちゃった!」
「ああ……最悪だよ」
エボットが苛立った顔で後頭部を荒々しく引っ掻く。それとは対照的にイリエルは楽しそうな笑顔。
サグも全てを察した。絶対に面倒なことになると。
「はあ……イリエル……お前まさか……」
ディオブは心底嫌そうなため息と共に顔を手で抑える。テリンも全く同じことをした。察せていないのはミラだけだ。
イリエルは背負っていたリュックの紐を肘に滑らせ、リュックを腕で支えながら、中をごそごそとあさってノートとペンを取り出した。それも人数分。
「生体調査!」
投げられたペン付きノートを全員が綺麗にキャッチした。
サグがキャッチしたノートには『生体調査ノート イリエル・トントーク』と書かれている。
こんなノートまで用意していたとは知らなかった。
「いつ買ったこんなの」
「昨日」
イリエルは「当たり前でしょ?」という言葉をたった二文字に含ませながら言った。
そして全員が気づいた。
イリエルの目が異様なほどキラキラしている。希望と期待に満ち溢れた、誕生日前夜の子供のような目だ。
といっても、一年に一度なんてレアリティはそこに無く、結構高頻度で見る目の輝きなのだが。
「さあ行こう!! 危険と興奮の山へ!!」
イリエルはこういう時、絶対に止まらない。止めようとすれば大げんかになる。
ディオブは心の隅っこでストッパーとしての覚悟を固めつつ、サイクロンになりそうな程大きなため息を吐いた。




