ボルテージ
「なんでこんな事せにゃあならんのだ」
「仕方ないでしょ、サグがノリノリなんだから」
二人は少しだけ呆れた顔をして言った。
サグがノリノリで、三人では無く四人でやりたがっている以上、二人がそれを拒否する事はできず、結局ずるずると参戦する事になったのだ。
つまり二人からすればあまりやりたい状況ではない。
そもそも午前に全力でトレーニングをしているというのに、無駄に午後に疲れる事はしたくない、そう思うのは当然だろう。
「あいつ王兵隊っても見習いなんだろ? トレーニングになんのか?」
「さあね、フラットな心で行けばいんじゃない?」
二人はそう言いつつもストレッチをして戦闘準備を始めている。
乗りかかった船にはとことん乗る性質なのだ。
「ルールは二対二、魔法魔力一切無しでいこう」
「「了解」」
ストレッチを終えたサグが、二人に言った。
二人はその言葉に対し、それぞれ片手をひらひらと、全く力を入れずに振って答える。
グリアもすでに準備を完了し、次に何が起こるのかを静かに待っていた。
テリンとエボットが戦闘の構えを作り、答えるようにサグとグリアも構えを作って応じた。
「ようい」
「スタート!!」
サグの叫びと同時に四人が動き出した。
サグとテリンが中央を囲むように動き、エボットとグリアの拳がほぼ同時にその中心でぶつかり合った。
その瞬間に、少しだけ気だるそうだったエボットの表情が、テリンが横顔で分かるほどに変わった。
痛み、衝撃、押し合いの威力、少ない戦闘経験の中で実力者達と渡り合ってきた自覚はあったが、まさか目の前の男に驚かされるとは思わなかった。
「いいね!!」
そのまま足を出し、大ぶりに攻撃を繰り出す。まるで氷の上を滑るかのように素早い。
肩に攻撃を受けたグリアは体勢を大きく崩される。
素早く回りながら走っていたテリンは飛び出し、エボットと連携して攻撃を仕掛ける。
だがそこに同じく素早くサグが介入し、大ぶりかつ素早い蹴りで牽制、二人は同時に後ろに飛び退いた。
二人が後ろに飛び退いた瞬間、グリアがサグの横をすり抜け、後ろに体重が寄っている二人の頭を掴む。
そしてそのまま体重をかけて後ろへと押し倒す。
しかし二人は同時にグリアの手を掴み、横に回転して拘束を逃れた。テリンは着地に僅かに失敗し両手と片足で着地、エボットは完璧に着地し両足でしっかり立つ。
そしてそのまま、テリンは足、エボットは拳でグリアに同時攻撃をかけた。
その攻撃は明らかに視界の外、読みきれない範囲からの攻撃、しかも前に倒れかけた姿勢で受けた攻撃。グリアはそれを手で完全に掴み止めた。
(テリンはこのまま倒れて全力で足に力を込める……エボットはまだ不完全な体勢……テリンだ!)
サグは狙いを完全にテリンの方に絞り、後ろに倒れて無防備な脇腹を蹴りで狙う。
テリンはギリギリで腕を畳み、肘の辺りでその攻撃を受け止めた。
が、サグの攻撃の勢いそのものは殺しきれない。地面を滑り吹っ飛ばされ、背中から近くの木に激突する。
(パワーついたね、けど普段と比べれば痛くない!!)
ようやくスイッチが入り、テリンの心もヒートアップし始めていた。
エボットとグリアの方はもっと激しい。
拳、膝、肘、蹴り、手刀、頭突き、持てるテクニックと暴力をぶつけ合っている。
エボットの方はひたすら暴力的だが、グリアの方は組織の構成員らしい、理論を感じるテクニックを交えてエボットを捌いている。
(純粋なパワーでは勝てない、なら攻撃の軸をズラす!)
放たれた拳の手首に手刀を、喉を狙った肘に手のひらから投げを、蹴りに回避を合わせ、全てに対応してしまう。
エボットは戦闘経験は少ないが高レベルな相手と戦っている。グリアは実戦経験は少ないがたくさんの訓練を積んでいる。二人はある意味対照的だ。
場が温まり、四人のボルテージも上がっていく。




