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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
謎の集団 リリオウド編
241/304

権力とは

 サグ達は話しながら公園のできるだけ人のいない場所へと歩いた。聞かれてまずい話をするつもりはなかったが、グリアがそれを希望したのだ。

 グリアの事を最初二人は怪しんだものの、サグが二人を説得し、サグが信頼している相手として二人は同行することにした。

 しかしながら、グリアに対する疑いの目をずっと感じ、サグは苦笑いを隠しきれなかった。

 

「あの〜……もしかして邪魔でしたか?」

「いやあ、そうでも?」


 グリアも一応は王兵隊。自分に向けられている悪意ある視線は感じているようだった。

 だがそれはあくまで警戒心の領域であって、決して敵意があるわけではない。真実はどうあれサグはそう思っている。

 三人は公園の端っこ、ギリギリ柵の範囲内にあるベンチに座り、話を始めた。

 語る事は簡単。昨日見た光景だ。

 今の島がどうなっている様子を見たのか、恐ろしい思いをした人たちが今どうしているのか、島の人たちがどれほどの不満を王族に抱いているのか。

 グリアは知っているだろうが、自分たちからすれば初耳、というか初遭遇の話だった。あれほどの光景をみれば語りたくなるのも当然。

 グリアは全ての話を頷きもせず黙って聞いて、話が終わると、まるでその話を噛み締めるかのように下を向いた。

 静かすぎて、風によって草が擦れた音がうるさくすら聞こえる。


「なるほど……見ましたか……」


 グリアが下を向きながら言った。

 その言葉の中に、どこと無く苦しみや悲しみが溢れているような気がして、静かで爽やかな風がひどく冷たく感じた。

 

「ああ、見たよ」

「……あの猿達は一週間に一度くらいの頻度で騒動を起こします……目撃しないで行く旅行者も多いんですけどね」


 口調が冗談混じりになった。暗くなりそうな話題を誤魔化そうとする気持ちが透けて見える。

 確かに、サグ達の運が悪かっただけとも言えるかもしれないが、それでは納得できないほどに恐ろしい光景だった。

 あれを一週間に一度味わっている島民達はたまったものではないだろう。

 

「王兵隊は対処しないと聞いたが?」

「……上司に聞いたんですが、王は対処する気が無いそうで」

「なんで? 島民が危険に晒されてるのに」


 テリンが純粋な疑問顔で聞く。

 流石に失礼かもしれないとサグがテリンを見たが、テリンの表情は怒りが混じっているが純粋で、心から疑問に思い質問している事がわかった。

 あれだけの失礼をされたが、それでも平等に憐れみ怒る事ができる。それがテリンのいい部分だとサグは知っていた。

 テリンの言葉を受け、グリアは自虐的な笑顔を浮かべた。

 どこか歪んでいる笑顔はテリンの純粋な疑問とは対照的で、まるで舐められたかのような不気味さをサグに与えていた。


「現王にとって、島民よりも動物の方が大事なのだそうです」

「それってどういう事!?」

「現王は昔、どこかの島に留学していたようです、ですがそこで人間不信になる体験をしたそうで」

「それで島民を苦しめるのは随分筋違いな話だな」


 エボットがひどく呆れた顔で言った。

 サグもエボットの意見には同意する。

 かつて人にどれだけの酷い思いをさせられようと、その怒りを他者に押し付けるのは全く筋の違う話、島民達からすれば地獄以外の何者でも無い事だ。


「勝手に動こうとは?」

「そうすれば罰せられるのは周囲です」

「なんだそれ、理不尽」

「自分で言うのも何ですが、一応王兵隊はエリート部隊に当たります、優秀な兵を失うより、周囲を罰して従順にする方が、と言う発想で」

「合理的かもね」


 テリンが皮肉を呟いた。

 グリアもそれに同調して、自分を嘲笑うかのように笑う。

 そしてまた沈黙が場を支配した。

 流れ者とエリート兵士、権力に抗えるはずもない者達がどれだけ揃おうと、そこに何の力もアイディアが生まれる事もない。三人集まろうとも無力に終わる。権力の前ではそれが真理だ。

 そうしていると、唐突にグリアが立ち上がった。


「モヤモヤしてきました……仕方ないです、手合わせしましょう、四人で」


 グリアの表情はさっきまでと違い晴れていた。

 考える事が違うと人の表情は大きく変わる。サグはそれをよく理解できた気がした。

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