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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
魔法修行編
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魔法修行、謎

「そう言えばさ、ディオブの適正属性って?」


 テリンとエボットの箸が止まった。そして興味津々の目線でディオブを見た。三人の興味の目線に晒されたディオブは、少しだけ照れたような表情をしてから茶碗をおいた。


「俺の属性は鉄だ、薄く魔力を纏って体を鉄のようにしたりできる」


 腕を出して言った通りに鉄のようにしてみせた。人工の光に照らされて、腕はシルバーメタリックに輝いていた。サグがゆっくりと腕に触れてみた、それは筋肉らしい硬くも柔らかい感覚は一切なく、純粋な金属に触れている感覚そのものだった。


「すげえ!鉄だ鉄!」

「マジで!?」

「触る触る!」

「おい!?」


 サグのリアクションに、二人とも興味を抑えられなくなってしまったようで、わざわざディオブのところまで移動してベタベタと触る。あんまり触られすぎて、ディオブは魔法を解除した。好奇心が満たされた三人は満足そうな表情をしている。


「面白かった」


 テリンの端的な感想に、ディオブは苦笑いを浮かべた。あれ?とテリンが今度は不思議そうな表情をした。


「あの煙は?あれも鉄属性の技?」

「ああ、あれは闇属性の技だ」


 闇属性、ノートに書かれていた光属性と双方向の矢印で結ばれた属性だ。しかし説明はされていなかった。


「それって?」

「話は食い終わってからな」


 それだけ言ってディオブは味噌汁をぐいっと飲み干した。三人もそれぞれ食事を続ける。


 食べ終わって、テリンとサグが食器を洗い終えた。再び四人でテーブルを囲むようにして座る。さっきメモに使っていたノートをディオブは取り出した、そして例の図形が書かれたページを開く。


「これが闇属性と光属性の魔属図、この二つは一般的に個人の適正属性になることは無い」

「自分の適正属性を普通に使えるようになった段階の奴が、属性習得の選択肢としてあるのがこの二つだ」


 ペンで下に書かれた双方向の矢印を指す。


「この矢印が上の一方的なのと違って両方を指しているのは、”この二つは対極にあってバランスをとっている”という意味だ」

「闇属性が得意としているのは妨害、弱体化、トラップ、マイナス方向の効果だ」

「大して光は、強化、サポート、回復とプラス方向の効果がある」


 そこまで言ってから、ディオブはテーブルの真ん中に自分の手を出した。そこから少しだけ黒い煙を出した。煙はごく少量だったため、天井に少しだけ登って、すぐに消えた。


「これが闇属性の魔法だ」

「へえ……すげえな」

「私たちも習得できるかな」

「ああできるぜ、ただ現状、お前らは自分の属性を満足に扱えていない、まずはそこだ」

「それとこの二つは、生来の魔力の性質に由来する、だから自分はこっちの属性がいいから、と選べたりはしない」


 サグはぼんやりとしながら、自分の掌を見つめた。目の前ではなんでも無いことのようにやっているが、自分たちからしてみればまだまだ先の領域なのだろう。聞いた話からして、自分たちはスタートラインに立っただけなのだと、改めて強く実感させられる。


「闇はなんとなくわかんだけどよ、光属性の強化ってなんだよ」

「主に身体能力の強化だな、筋力とかスピードとか、暗視とかもあるな」

「「「あっ!!!」」」


 暗視と聞いて、三人同時にある男を思い出した。故郷から自分たちを追いかけてきて、以前に戦い、”淵”に落とした男、レイゴス・ビルカードだ。

 あの時は、なぜあんなにも追いかけて来れるのか不思議だったが、今合点がいった。あの時あの男は魔法を使っていたのだと。突然叫んだ三人に、ディオブは驚きすぎて開いた口が塞がらなくなっていた。


「なんだよ急に」


 三人は矢継ぎ早に話をした。一気に三人から話をされて混乱してしまったが、話す内容がほぼ同じだったためなんとなくは理解できた。


「ああ、そりゃ確かに光属性の魔法を使ってたんだろ」

「やっぱそうか、あんときゃマジ死ぬかと」

「それでもラッキーだったよね、そんな魔法を使うなんて強敵を倒せて」

「ん?神軍は大体魔法使えるぞ?」


 絶望的な表情を三人が同時に向けた。余りに絶望的な面白い表情だったせいで、ディオブは盛大に笑い出した。


「えっ、神軍て魔法使えるの!?」

「ああ、ある程度の立場になりゃ、訓練に魔法が導入されるらしい、そいつが暗視しか使わなかったのは舐めてたからだな」

「じゃあディオブは?」

「俺がいた島の大人に教えてもらったんだ、同世代のやつと一緒にな」


 手をひらひらとさせながら言った。そして少ししてから考え込むように顎に手を当てた。


「そうだよな……普通知ってるはずなんだよ……」

「え?」


 急に眉間に皺を寄せて、聞き取りにくいほど小さな声でボソボソと呟き始めた。不思議なほど考え込んでいるように見えて、三人は不思議そうに顔を見合わせる。


「魔法も神軍も、はっきり言って世界基準で常識だ、だっつうにお前らはそれを知らなかったと言った」

「しかも他の島と交流はあったんだろ?エボットに関しては他の島へも行ってたっつうし」

「確かに……他の島にゃ行ってたけど、俺は船の上から島を覗いてただけだぞ?」

「「そうだったの!?」」

「そうだって!昔言ったろ!」


 驚きに二人はエボットに詰め寄った。しかし実際はただ忘れていただけのようで、少し苦笑いしながら言い返していた。

 話を聞いて、さらにディオブは考え込んだ様子になる。不思議に思って見ていると、急に思いついたように顔を上げた。


「サグ、お前の親父はそのオリアークの資料を知ってたんだよな」

「えっうん」

「家の地下にあったものを知ってた……ってことは……教えられてたのか」

「教えられてた?」

「ああ、多分、お前の爺さんに当たる人物から教えられてたんだろう」


 ぴっと人差し指を立てて言った。サグはかけられた言葉をうっすらと理解し始めていた。


「家の、その床のとこを今まで不思議には思わなかったのか?」

「……全く……ずっと綺麗だったし」

「じゃあ誰かから聞いてたと考えるのが普通だな、そしてそれは同じ家で生活していたであろう自分の父親、つまりお前の爺さんと考えるのが自然だ」


 確かに、心の中でサグは納得した。ディオブの言っていることは所詮推測に過ぎないが、現状あまり矛盾点は無い。


「じゃあサグの親父たちは、ずっとその資料を守り続けていたってか?一族だけで!?」


 エボットが身を乗り出して言った。またディオブが顎に手を当てた。そして少ししてからまた話し始める。


「いや……違うな……多分島の大人たちは全員知ってたんだ、オリアークの資料というものを」

「えっ?」

「だからこそ、その騒動の時、渡さないことに誰も文句を言わなかった」

「普通、武器持って武装してる連中が押しかけてきたら、言いなりになっちまうだろ、魔法とかの戦闘手段もねーってのに」

「じゃあ、なんで私たちは知らなかったのかな」

「大人だけが知ってたんじゃないか?年齢や立場で情報を制限するのは当然だ」


 ディオブは島に来たこともなければ、神軍襲撃の場にいたわけでも無い。しかし、言っていることは当たっている気がする。感じていた違和感が、消えていく感覚がする。


「まあ、これ全部推測だ、事実と断定するには情報が足りな過ぎる」


 ディオブは立ち上がって、そのまま寝室へ行った。三人も寝室に向かった、慣れないことをして、心臓の感覚を味わって、疲れていたことは間違いない。テリンも、エボットも、見守ってくれていたディオブも寝巻きに着替えて、すぐに眠ってしまった。

 しかしただ一人、サグだけが、夜の闇の中に囚われてしまっていた。

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