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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
謎の集団 リリオウド編
239/304

余計な

 話が終わってから、六人はいつもと同じように船へ戻ろうとした。 

 だが船へ戻る合間にも、あまり見たく無い現実達は、ずらりと島の通りに並べられていた。

 その中で聞こえてきた声の中で「包帯が足りない!」というものがあった。

 この島ではすでに物資不足に陥っているらしく、寝かせられている人たちの中には血がダラダラ流れている状態で放置されている人も居た。

 船に戻ってからもあの光景や悲鳴が離れず、あの場の全てに居合わせた三人の喉を食事が通らなかった。

 結局、寝る時間になっても気持ちが絡まって寝れず、三人は悩んだ時はいつものように、外へ来て星を眺めていた。

 

「なあ、あの星食えるかな」

「とうとうエボットがイカれた」

「ああ、ついにね」

「なんで元々イカれてたみたいな言い方なんだよ」


 エボットが突っ込んだ瞬間に三人同時に笑い出した。

 こうやって冗談も言える程度には大丈夫なのだが、どうにもその先に言葉を踏み出せない。

 踏み込む事が怖いとは思っていない。だがそれ以上に、何を話して良いのかわからないのだ。

 

「話してたの?」


 扉が軋み音を立てて開き、イリエルが毛布を羽織りながら現れた。

 三人の元へと駆け寄り、毛布を羽織りながらも器用に体を震わせた。

 

「寒く無いの?」


 サグは確かに、と心の端っこで思った。

 夜はそれなりに冷えるし、白い息は自分の口から出てくる。寒く無いという方が変だ。

 だがサグ達はこの状況に慣れていた。


「俺たちの故郷は時期によって暑い寒いがあったからな、慣れてる」

「そう? もう凍えそうなんだけど」


 イリエルは毛布の中で体を震わせながら言った。

 生物研究で夜に潜むこともあるだろうに、寒さにはどうしても弱いらしい。

 しかし研究への情熱がある時は、たいていの事は平気になってしまう、その姿を何度か見てきた。サグはある意味、最も不思議な生物はイリエルなのでは無いか、と疑い始めていた。

 イリエルも船の縁に体を預け星空を眺める。

 

「いつもこう、悩んだ時はみんなね」

「まあ、言われてみれば」


 笑い混じりの楽しそうな声。イリエルの優しい声だ。

 いつも悩んだりモヤモヤした時は確かに外に出ているが、それを意識していたつもりはなかった。なんとなくその場にとどまると変わらない気がしただけで。

 今日のように、遮る雲の無い星空の下に出たくなるのは、ある意味当然の事なのかもしれない。

 包み込んでくれそうな夜の闇、降ってきそうな輝く星、悩みなんて消えそうになる。


「……できる事は多分無いわ」

「……やっぱり?」

「わかってるでしょ? みんないい子だから」


 圧倒的に子供扱い。その事実に三人同時に苦笑いをしてしまう。

 経験豊富なイリエルからすれば子供に見えるのだろうが、サグ達とてそれなりに経験を積んだ戦士となりつつある。

 だが仕方ない。14歳のこの時期は、本人の心も周囲の対応も、子供とも大人とも扱いきれない、なんとも中途半端で複雑な時期なのだ。


「けどさ、目の前で見ちゃったんだよ?」


 落ち着いているが、自分への皮肉と怒りを隠しきれない口調でテリンが言った。

 そんな憤りを全て理解し、イリエルは小さく頭を横に振る。


「島にはね、それぞれの運命や、あるべき姿がある、私たちにできる事があるとすれば、その運命が私たちを導いた時だけ」

「なんだそれ、オカルト?」

「故郷に伝わる御伽噺、オリアークみたいなものよ」


 二人の会話にサグは笑い出した。

 確かにサグ達が追いかけている話自体がオカルト、夢物語もいいとこだ。

 しかしそれはそれとしてイリエルのいう事は悉く正論。何一つ間違っていないのだ。悩んでも仕方ない、何の意味もない立ち位置に自分たちは居る。それが答え。 


「私は寝るけど、風邪ひかないうちに寝なさいね」


 それだけ言ってイリエルは船へと戻っていった。

 自分たちにできる事は無い。その答えがわかっていても、三人の脳からはあの光景が離れず、どうしようも無い無力感に苛まれ続けていた。

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