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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
謎の集団 リリオウド編
237/304

この島は

「この度は協力していただきありがとうございました」

「いえ、人助けは当たり前です」


 通されたシンプルな雰囲気の場所で、サグは白髪の老人に頭を下げた。

 長方形で横に広い部屋の中、サグ達は一列になって会議用テーブルに並び、パイプ椅子に尻を何度か置き直している。

 あの後、怪我人達を集めてから、サグは店主の女性に話を聞こうとしたが呼び止められ、目の前に座る白髪の老人に連れられてきたのだ。

 仲間達六人全員を誘われ、多少の警戒心と共にお茶を啜って最初に飛んできた言葉がこれだった。サグに合わせてなんとかぺこりと頷くのが仲間達の限界。

 

「自己紹介が遅れました、私はこの島の商い達のリーダーで、ダング・ドルと申します」


 自己紹介と共に、ダングが名刺を出した。

 真正面に座るサグがそれを受け取り、最年長として隣に座るディオブもそれを覗き込んだ。

 名前に加えて肩書きや連絡先、所属している商会の住所まで書いてあり、肩書きからしてもある程度重要なポストに居る人物である事が窺える。


「サグ、パンフレットで見た、この住所は島の商会の会議所だ、しかもそのリーダーとなると」

「うん、政治はともかく、かなり高い位置の人だね」


 事実を理解した二人の緊張が強くなった。

 だが同時に、ずっと抱いていた疑問の正体をこの人は握っている。ならば切り出さねばならないだろう。


「あの、この島で今何が起こってるんです?」

「……」

「私たちは昨日、傷ついた商品の賠償をしろと叫ばれました、初めて来た島です、発展具合から期待もしていました、だというのにこの仕打ちですか?」

「……」

「答えてください、何が起こっているんです!!」


 何も答えない男にイラつき、サグは思わず拳を机に叩きつけた。

 部屋に響く鈍い音は、サグ達の心を象徴するかのようで、誰もそれを否定しない。

 だがあまりにも無作法な行動だ。テリンはサグの拳に触れ、目線で今の蛮行を嗜める。サグも同じように目線を向けて自分の行動を謝った。

 

「……この島の商人が働いた数々の非礼を……まずは謝罪させていただきます……」


 ダングは非常に申し訳なさそうにゆっくりと頭を下げた。

 心なしかその顔は蒼白に見える。

 

「簡単に申しますと、この島は今、動物被害を受けているのです」

「あのサル達ですね」

「ええ」


 サグはあの悍ましいサル軍団による蹂躙の光景を思い出していた。

 人々が襲われ、建物や商品を破壊し尽くし、食料は無邪気なほどに食い尽くす。混沌とした獣らしい光景。

 それ以上に恐ろしかったのは、終わった後、話をイリエルが通りへ向けた視線だったが。

 

「やつらはとにかく手当たり次第に商品や人を襲います、それも一定の通りだけ、普通の民家には興味が無いのです」

「知能が高いのは知ってますが、サルがそこまで判断できるのでしょうか?」

「実際そうなので……怪我人も多く、今はギリギリですが、商品を傷つけられて店が回らなくなる可能性も」

「ぎりぎり……」

「ええ、傷ついた商品を置き、その上でさらに利益を生み出さなければ存続が怪しいほど……島には失業者もすでに多いのです、あなた方を襲ったという一団がそうかと」


 確かに、とサグは心の中で小さく呟く。

 襲った集団は極めて素人臭く、年齢や見た目に統一感が一切なかった。失業者を集めて助けてもらったというのなら、納得できる話だった。


「ですが、そんな単位の害獣被害、島が動くのでは?」


 サグが言ったことは極めて当然の事だ。

 するとダングの様子が目に見えて変わった。手が真っ赤になる程きつく握りしめ、震えながら下を見つめ続けている。

 あまりの変化に不安になり、横に座るテリンの顔を見た。テリンと同時にエボットとも目があったが、二人とも不思議そうな顔をしていた。


「……が」


 小さな声が静かな部屋に響く。次を求めて耳が自然と研ぎ澄まされた。


「こんな島が! 頼れるわけないでしょう!!!」


 ダングの叫びは、絞り出した悲鳴のような声だった。

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