魔法修行、疲れ
なかなか疲れていたので、不満ではあったが仕方なく船内に戻る。料理を担当したのはサグだった。
「何食べたい?」
なんとなしに三人に問いかける。するとディオブが勢いよく手を挙げた。
「スクランブルエッグだ!!」
あまりの大声に三人は耳を塞いでしまう。
手を離した後は三人同時にツッコミを入れた。
「嘘でしょ!?朝も食べたじゃない!」
「そうだぜ!昼も同じもん食いたかねえよ!」
「そうだよ!目玉焼きとか他にあるでしょ!」
「イーヤ!譲らねえ!絶対にスクランブルエッグにしろ!」
どれだけ言っても、ディオブは頑として譲らなかった。しょうがないので、少しだけ呆れた表情でスクランブルエッグ入りのチャーハンを作ることにした。適当に野菜を刻んで入れただけのシンプルなものにするつもりだ。
トントントンと、リズムよく人参やキャベツを刻む。そしてフライパンに油を敷き火をつける、適当に油が広がってから、卵をフライパンの上で割る。
「そういや」
その時、ディオブが言った。
「魔力を教えるときに、他にもよく使われる例えがあってな、卵に例える」
サグは固まっていく卵をヘラでかき混ぜながら、聞き耳を立てていた。本を読んでいたテリンも、槍を磨いていたエボットも同じだった。
「卵は確かにご飯にかけると美味いが、それしか食えん、だが焼くと違う、塊になって旨くなる、目玉焼きに卵焼き、色んな種類だってある」
「これはヒントだ、どう受け取るかは任せるぜ」
すぐにチャーハンは完成した。しかし上手にできたはずのそれも、さっきのヒントに頭が精いっぱいで全く味を感じなかった。
食後、すぐに三人とも甲板に出た。そして再びさっきと同じ体勢を取った。
(さっきの言葉……それは……)
それぞれに思考を巡らす。魔力を感じる中で、必死に答えを求める。その時、サグはあることに気づいた。体の端っこにたどり着いた魔力は抜けていっている。だがそれだけでは無い。魔力は全身から抜けていっている。例えるなら空気漏れが近い。
「そっか……!」
サグの言葉は、二人の意識を引いた。今気づいたことを、すぐに二人にも共有する。二人は再び魔力に集中した。同じように感じたようで、強くうなづいた。
「多分、あの卵の例え話は塊にする、つまり魔力を集中させるってことだったんだ」
「なるほどな……俺たちの体から魔力が漏れ出るのを止めて、体の中に集中させるか……でもなんで卵?」
「さあ?それでもいいヒントだったわ」
再び三人は魔力に集中する。自然と抜けていく魔力を、全力で止めて体内に集めていく。すると雨によって泉から水が溢れるように、体内で循環する中で溢れる魔力が生まれ始めた。それは流れている魔力よりも圧倒的にコントロールしやすく、簡単に掌へと集まってくれた。
利き手の方へと集めた魔力を見てみると、それぞれの掌には、さっきと同じ属性の効果が現れていた。しかしそれぞれが明らかに違っている。サグの電気は明らかにさっきよりも強く光り、大きな音で弾けている。テリンは手の全体が炎に覆われていた、だが熱そうにしている様子は無い。エボットは掌から氷が大きく発生していた、それもさっきの雪の状態とは比べ物にならないほど大きい。
船室の方から、弾けるような拍手の音が聞こえてきた。ディオブが満足そうに笑いながら拍手をしていたのだ。
「いいじゃねえか、魔力の集中を覚えたな」
サグはゆっくりと首を曲げて、自分の手を見た。手で弾けている稲妻は、自分の力のはずなのに、自分でないほどに力強く美しく、少しだけ嬉しくなって笑ってしまった。
「その感覚を忘れんな、魔力を閉じ込めることになれれば、自然と全てができるようになる」
「流れている魔力だって、制御して魔法に使うことができるようになる」
「魔力コントロールを繰り返せ、慣れて、自分を支配しろ」
ディオブの口調は重いものだった。実際にそれを経験し、それができている人間の言葉だった。
「「「おう!!」」」
初めてのことができるようになってきて、三人は楽しくなってきていた。だからこそ、気合を入れた。この楽しさが続く限り、努力できる気がした。
日が落ち始めるころには、三人はだいぶコントロールができるようになってきていた。エボットなんかは、両手両足どれにも氷を発生させることに成功した。
サグは手にしか発生させることしかできなかったが、集中させる魔力を上げて電気を大きくすることに成功した。
テリンは二人に比べてイマイチ上手くいっていない様子だったが、コントロールそのもののコツは掴んだようだった。
日も落ち始めて、相当疲れてしまったので船室に入る。
操縦室に行って空中静止状態にセットする。この状態であればあまりエネルギーを消費せず、一晩過ごせる。警戒アラームもあるため夜中起きている必要も無い。
船室ではすでにディオブが料理を作っていた。今晩のメインは美味しそうな茶色の唐揚げだった。すぐに風呂に入って、最後に入ったエボットが上がって、すぐに食事を始めた。誰も気づいていなかったが、自覚している以上に修行は体力を使っていたらしい。三人とも次々に料理を口に放り込んでいく。普段あまり食べるわけでも無いテリンも、今日ばかりは普段の倍は食べていた。
そんな三人の様子を、ディオブはくっくっと笑う。
「疲れたろ?俺も魔力のコントロールを始めた時はそうだった」
「なんでこんなに、疲れるんだかな!」
エボットが野菜炒めを頬張りながら言った。
「今まで魔力はずっと体内にあった、産まれてから消費したこともなくずっとな、それがいきなり消えて、補うためにエネルギーを欲しがってんのさ」
「えっ?じゃあ魔力使うと毎回こんなに食べなきゃなの!?」
テリンが唐揚げに齧り付いていた。
「そうじゃねえ、それもまた繰り返すことによって、魔力が減る現象に体が慣れる」
「すると、体内の魔力を補充する働きは、より素早く、より効率的にできるようになる」
「結局は時間ってことなのね」
諦めた表情でテリンは唐揚げを頬張った。ガツガツと食べ続けて、六割は食べ切ったところで、サグが一つ疑問を口にした。
「ほうひえは」
「飲み込んでから言え」
ディオブの眉間に皺が寄った。しっかりと噛んで飲み込んでからもう一度言う。
「そう言えばさ、ディオブの適正属性って?」




