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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
魔法修行編
23/304

魔法修行、疲れ

 なかなか疲れていたので、不満ではあったが仕方なく船内に戻る。料理を担当したのはサグだった。


「何食べたい?」


 なんとなしに三人に問いかける。するとディオブが勢いよく手を挙げた。


「スクランブルエッグだ!!」


 あまりの大声に三人は耳を塞いでしまう。

 手を離した後は三人同時にツッコミを入れた。


「嘘でしょ!?朝も食べたじゃない!」

「そうだぜ!昼も同じもん食いたかねえよ!」

「そうだよ!目玉焼きとか他にあるでしょ!」

「イーヤ!譲らねえ!絶対にスクランブルエッグにしろ!」


 どれだけ言っても、ディオブは頑として譲らなかった。しょうがないので、少しだけ呆れた表情でスクランブルエッグ入りのチャーハンを作ることにした。適当に野菜を刻んで入れただけのシンプルなものにするつもりだ。

 トントントンと、リズムよく人参やキャベツを刻む。そしてフライパンに油を敷き火をつける、適当に油が広がってから、卵をフライパンの上で割る。


「そういや」


 その時、ディオブが言った。


「魔力を教えるときに、他にもよく使われる例えがあってな、卵に例える」


 サグは固まっていく卵をヘラでかき混ぜながら、聞き耳を立てていた。本を読んでいたテリンも、槍を磨いていたエボットも同じだった。


「卵は確かにご飯にかけると美味いが、それしか食えん、だが焼くと違う、塊になって旨くなる、目玉焼きに卵焼き、色んな種類だってある」

「これはヒントだ、どう受け取るかは任せるぜ」


 すぐにチャーハンは完成した。しかし上手にできたはずのそれも、さっきのヒントに頭が精いっぱいで全く味を感じなかった。

 食後、すぐに三人とも甲板に出た。そして再びさっきと同じ体勢を取った。


(さっきの言葉……それは……)


 それぞれに思考を巡らす。魔力を感じる中で、必死に答えを求める。その時、サグはあることに気づいた。体の端っこにたどり着いた魔力は抜けていっている。だがそれだけでは無い。魔力は全身から抜けていっている。例えるなら空気漏れが近い。


「そっか……!」


 サグの言葉は、二人の意識を引いた。今気づいたことを、すぐに二人にも共有する。二人は再び魔力に集中した。同じように感じたようで、強くうなづいた。


「多分、あの卵の例え話は塊にする、つまり魔力を集中させるってことだったんだ」

「なるほどな……俺たちの体から魔力が漏れ出るのを止めて、体の中に集中させるか……でもなんで卵?」

「さあ?それでもいいヒントだったわ」


 再び三人は魔力に集中する。自然と抜けていく魔力を、全力で止めて体内に集めていく。すると雨によって泉から水が溢れるように、体内で循環する中で溢れる魔力が生まれ始めた。それは流れている魔力よりも圧倒的にコントロールしやすく、簡単に掌へと集まってくれた。

 利き手の方へと集めた魔力を見てみると、それぞれの掌には、さっきと同じ属性の効果が現れていた。しかしそれぞれが明らかに違っている。サグの電気は明らかにさっきよりも強く光り、大きな音で弾けている。テリンは手の全体が炎に覆われていた、だが熱そうにしている様子は無い。エボットは掌から氷が大きく発生していた、それもさっきの雪の状態とは比べ物にならないほど大きい。

 船室の方から、弾けるような拍手の音が聞こえてきた。ディオブが満足そうに笑いながら拍手をしていたのだ。


「いいじゃねえか、魔力の集中を覚えたな」


 サグはゆっくりと首を曲げて、自分の手を見た。手で弾けている稲妻は、自分の力のはずなのに、自分でないほどに力強く美しく、少しだけ嬉しくなって笑ってしまった。


「その感覚を忘れんな、魔力を閉じ込めることになれれば、自然と全てができるようになる」

「流れている魔力だって、制御して魔法に使うことができるようになる」

「魔力コントロールを繰り返せ、慣れて、自分を支配しろ」


 ディオブの口調は重いものだった。実際にそれを経験し、それができている人間の言葉だった。


「「「おう!!」」」


 初めてのことができるようになってきて、三人は楽しくなってきていた。だからこそ、気合を入れた。この楽しさが続く限り、努力できる気がした。

 日が落ち始めるころには、三人はだいぶコントロールができるようになってきていた。エボットなんかは、両手両足どれにも氷を発生させることに成功した。

 サグは手にしか発生させることしかできなかったが、集中させる魔力を上げて電気を大きくすることに成功した。

 テリンは二人に比べてイマイチ上手くいっていない様子だったが、コントロールそのもののコツは掴んだようだった。

 日も落ち始めて、相当疲れてしまったので船室に入る。

 操縦室に行って空中静止状態にセットする。この状態であればあまりエネルギーを消費せず、一晩過ごせる。警戒アラームもあるため夜中起きている必要も無い。

 船室ではすでにディオブが料理を作っていた。今晩のメインは美味しそうな茶色の唐揚げだった。すぐに風呂に入って、最後に入ったエボットが上がって、すぐに食事を始めた。誰も気づいていなかったが、自覚している以上に修行は体力を使っていたらしい。三人とも次々に料理を口に放り込んでいく。普段あまり食べるわけでも無いテリンも、今日ばかりは普段の倍は食べていた。

 そんな三人の様子を、ディオブはくっくっと笑う。


「疲れたろ?俺も魔力のコントロールを始めた時はそうだった」

「なんでこんなに、疲れるんだかな!」

 

 エボットが野菜炒めを頬張りながら言った。


「今まで魔力はずっと体内にあった、産まれてから消費したこともなくずっとな、それがいきなり消えて、補うためにエネルギーを欲しがってんのさ」

「えっ?じゃあ魔力使うと毎回こんなに食べなきゃなの!?」


 テリンが唐揚げに齧り付いていた。


「そうじゃねえ、それもまた繰り返すことによって、魔力が減る現象に体が慣れる」

「すると、体内の魔力を補充する働きは、より素早く、より効率的にできるようになる」

「結局は時間ってことなのね」


 諦めた表情でテリンは唐揚げを頬張った。ガツガツと食べ続けて、六割は食べ切ったところで、サグが一つ疑問を口にした。


「ほうひえは」

「飲み込んでから言え」


 ディオブの眉間に皺が寄った。しっかりと噛んで飲み込んでからもう一度言う。


「そう言えばさ、ディオブの適正属性って?」

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