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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
謎の集団 リリオウド編
229/304

絵本の縁

 雑貨屋であった二人は雑談をしながら島の公園の方へと向かって行った。

 発展した島の中で自然を残す公園が話すにはもってこいの場所だとグリアが言ったからだ。

 自然を残す公園に今日の暖かな晴天、期待にサグの心は踊っている。

 雑貨屋から大して離れていない場所に公園はあった。規則正しく並べられている木製ベンチに二人は腰掛け、適当に雑談を始める。


「サグさん、あなたがあの絵本を買ったんですよね? どうしてです?」

「えっ、ああ」


 いきなり急所に突き刺さるかのような質問だ。

 絵本を買った理由に関して、正直に話せば長い話になるし、話したところで結論は「現実と重なってビビッときました」だ。

 そんな夢想家のような話を誰が信じることだろうか。それに神軍に通報される危険がある以上、適当に話すわけにもいかない。

 少し言い淀む間に千の事を考え、サグの中で弾き出した最適解を口にだす。


「昔読んだ事があるような気がして、残念なことにページが欠けていましたが」

「そうですか……僕は見たことのないので読んだことあるのが羨ましいですね」

「なるほど、自分も記憶が朧げなので、全編しっかり読みたかったですよ」


 グリアの回答にサグは内心で舌打ちをした。

 グリアの答えが真実だとするならば、やはり店にあった頃からページは無かったとわかる。

 新しい情報もなくハズレを引いてしまったとサグは舌打ちしたのだ。


「そういえば、サグさんは旅をしている方なのだそうですね、どうですかこのラウドベリオスは」

「いい島だと思います、ただ島が広いだけじゃなく、そこに島民達の活気があって」

「ええ……そうですよね」


 サグは呟いたグリアの瞳に強い違和感を覚えた。

 まるでサグの答えに安堵を得ているような、確信が欲しかったような、ただ質問して答えを聞いただけには見えなかったのだ。

 

「どうかしましたか?」


 サグは表面上で心配を装いつつ、グリアの奥に隠された違和感の正体を、好奇心のまま掘り起こそうとした。

 絵本の秘密を知ることができなかった理不尽な腹いせもある。

 グリアは視線を下にやって、自分の手を何度か撫でる。まるで淑女のような仕草だが妙に似合っていた。


「この島は今、ちょっと荒れているんです」

「荒れて……」


 それ以上は言わなかったが心当たりがある。昨日であった資料館。あれこそが歪みの原因なのだろう。

 

「歴代の王はいいお方でした……だからこそ今この島がある」


 グリアの視線を追うようにサグもぐるりと公園を見渡す。

 整えられた歩きやすい地面に、丁寧に整備されているだろうベンチや木々、街並みへと視線を動かせば、公園からでもわかるくらい活気に溢れゴミなどカケラもない程に治安が良い。

 確かに素晴らしい島。王達が良かったと、知らないサグからしても納得できる。

 

「ええ島を見るとなんとなく」

「ですが……今の王に対し、島の不満が高まっています」

「今の……そんなにですか?」

「はい、先王が王位を継がせるための勉強を王子だった現王に与える前に亡くなられて」

「なるほど」


 そこからは言われずともサグも想像できる。

 つまりは甘やかされたまま大人になった子供おとなのような存在が出来上がり、それがこの世の中でも一級品の権力を手にしてしまった、ということだろう。

 つまり地獄。長期間それを味わっている島民達の心境は察するところだ。

 

「僕ら王兵隊も、そろそろ暴動対策を練らなくてはと……」

「なるほ……えっ? 王兵隊?」

「あっそういえば名乗ってませんでしたね、僕は王兵隊の所属なんですよ」


 その瞬間サグの口は鍵が開きっぱなしのようになり閉じなくなった。

 期待していた数倍の情報にサグの心は喜び踊っていた。

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