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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
謎の集団 リリオウド編
227/304

星を掴むまで

「ふぅ……良い夜だな」


 食事を終えると、すぐに夜は深く、空にはキラキラと星が輝く時間になっていた。

 今日の天気は快晴。星を遮るものは空に無く、美しい星をサグは一人甲板で見つめていた。

 試しに単願鏡を取り出し星の一つを見つめてみる。だが距離が近くなり視界が狭まっただけで、星がくっきり見えるわけでもない、落ちてきそうな程近い視界だったが。

 ついでに持ってきた絵本の表紙を撫でる。

 表紙の星の部分に指が引っかかり、さらりと手を通り抜けさせてはくれなかったがただそれだけ。何も新しい事などない。

 

「何してんの一人で」


 後ろから聞こえた声。声の人物は見なくてもわかる。

 少し微笑みながら振り返った。


「空を見てただけ、かな、テリンは?」

「疲れたから夜風に当たりに」


 サグはその一言でミラの身を心配した。

 疲れた、というのはさっきまでミラを説教していたからだろう。まあサグから見てもミラが悪いのだが、それにしても随分長かったように感じる。

 

「随分長く説教したね」

「リンゴ、好きなのよ」

「個人的な恨みじゃん」


 サグはさらにミラに同情した。

 食べ物の恨みは恐ろしいとよく言うが、まさかそれがこんなどうでも良いタイミング、こんな狭い空間に適応される時があるとは。

 テリンを怒らせた時の果てしない面倒臭さを知っているサグは逆に「よくこの程度で済んだな」とさえ感じた。

 テリンはゆっくりサグの横へと歩き、肘を甲板の縁に置いて、ほとんど同じようなポーズをした。

 サグは幼馴染。だからこそ飽きるほどテリンの顔を見ているが、改めて夜空とテリンの顔が並んだ時、心臓が高鳴る感覚を味わった。

 既にテリンに恋をしている事は認めている。だが今までの旅の中でそんな事を考える余裕は無かった。落ち着いた今だからこそ、サグの心はテリンの美に見惚れていた。


「ねえサグ、魔力、出してみてよ」

「はっ?」

「攻撃性とか魔法とか一切なしの、適正だけ発現させるやつ」

「いい……けど」


 サグは少し困惑しつつ、掌に魔力を集め、見た目だけの電気を発生させた。

 ばちばちと弾ける音すらしない、まさに見た目だけの電気だ。

 テリンは魔力ごとサグの掌に優しく触れ、静かに目を閉じる。まるで何かを考えるかのように。

 少しだけ心臓の動きが早くなる。好きだと自覚している相手に手を握られれば無理もない話だ。

 ほんの少し目を閉じてから、テリンはゆっくりと目を開けて、サグが息を感じるくらい大きなため息を吐いた。

 それも突風なんじゃないかと感じるほど大きなため息を。


「何? 人の手握ってため息って、普通にショックなんだけど」

「やごめん、ちょっと悔しくてさ」

「悔しい?」


 不思議に思うと自然に顔がこわばったりする。サグもそうだ。

 唐突にため息を吐かれ、次いで出てきた言葉が悔しいでは混乱しかできない。

 

「二人ともさ、魔力のコントロール上手くなってるでしょ?」

「まあ、強くなるにはそれが必要だし」

「私さ、魔力のコントロールくらいは二人に勝ててると思ってたんだ、変なプライド持ってさ」

「……みみっち」

「言わないで、フィジカルじゃ勝てないからこうしておかないと辛いの」

「……」

「強くならなきゃ、強くならなきゃいけないのに、私はフィジカルが育たない……苦しいよ」


 サグもその気持ちはよくわかる。

 リリオウドで戦い、サグは負けた。強くなり続け、進化の渦中にいた伸び盛りの状態でだ。

 吐きそうなほど悔しかったし、今でもその気持ちが心を呪縛する。

 テリンも同じ気持ちを抱えていたとは思わなかったが。


「俺もだよ、けど負けられない」

「……どうして」

「”果て”へ行くまで、プラネットを全て手入れるまで、折れるわけにはいかないから」


 サグの瞳には狂気があった。テリンはそれを、静かに見抜き、寒空のせいか悪寒のせいか、いつの間にかあった鳥肌を撫でた。

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