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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
謎の集団 リリオウド編
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船での一幕

「ふぇ〜そんなことがあったのか」


 何があったのか話し終えたところで、今までに無いほど気が抜けた声でエボットが言った。

 サグ達からすればそんな反応で終わらせてほしく無いほど冗談では無い出来事だったが、エボットからすればそんな物だ。

 サグ達はイリエルの狂気的な部分を改めて垣間見たような気がした。

 

「つってもどうしようもないだろ、島の店を救う力なんざ俺らにはねーよ」

「そりゃそうだけどさ……怖いんだよねえ」


 エボットの言った事は正しいし、それが正しい事をサグも認識している。

 偶然立ち寄った島の店の一つが「もう直ぐ潰れそうなんです」と言われようとも、サグ達からすればどうしようも無い話。献金できるわけも無く、ただ滅びの前に立ち寄っただけの事なのだ。

 だがイリエルからすれば我慢ならない事実に他ならないらしい。

 なんとも傍迷惑な怒りである。

 

「そのイリエルは? ディオブもいねーけど?」

「二人は甲板で修行、多分憂さ晴らしでしょ」


 テリンが向いたりんごをテーブルに置いた。丁寧に小さいフォークがリンゴに刺されていた。

 いの一番にミラがフォークを手に取り、何よりも嬉しそうな顔をしてリンゴに齧りついた。

 そんな微笑ましい光景を視界の端に、三人もフォークを手に取ってリンゴを食す。この前買ったばかりのリンゴは想像以上に瑞々しく、口の中に酸味と甘味の混ざった水分が溢れ出し、舌の上が痺れそうな程の味が広がった。

 

「憂さ晴らしって、ディオブも大変だな」


 リンゴを口に入れたまま、やや聞き取りにくい声でエボットが言う。


「そういや、エボットは今日何か買ったの?」

「ああ! ジャンク屋で壊れたパーツを大量に見つけてよ! 銃も作れちまいそうだぜ!!」


 エボットのテンションがいつに無いほど高く、三人は苦笑いで話に応じた。

 サグもとりあえず買った物はあるものの、エボットほどテンションが上がる物でも無く、エボットの喜びを羨ましく思う気持ちも少しだけあった。

 そういえばと思い出し、買った絵本をリュックから取り出した。


「ん? なんだそれ」

「サグお兄ちゃんが買った絵本」


 ミラがリンゴを頬張りながら言った。

 サグが見ている限りミラは既に六つはリンゴを食べており、夕飯が入るのかと心配な苦笑いをミラに向けた。もっとも、本人は一切視線に気づかず、またリンゴを美味しそうに食べていたが。


「絵本? なんでそんなもん」

「見てみろってこれ」


 サグはページが欠落している絵本をエボットに手渡した。

 エボットは変なものを見る目をサグに一瞬向けて、絵本を受け取り本を開いた。

 

「んっだよ、本にはいい思い出があんまねーんだよ」

「「確かに」」


 サグとテリンは漏れ出た愚痴に同意した。

 オリアークのノート然り、本やそれに関連するものにはあまりいい思い出がない。

 エボットは最初不審な物を見る目でページをめくっていたが、ページを捲るうちに、徐々にその表情を変化させていった。

 手には力が入り、眉間には皺が寄り始めていた。


「なんだこの本、プラネットの事書いてあんのか?」

「そう思うよな」

「考えすぎもあると思うけどなあ」


 エボットが驚きに目を大きく開いてサグに詰め寄った。だがテリンは少しドライな視線を向ける。

 ある意味当然だ。いつ書かれたかもわからない絵本と現実の状況が多少被っているからって、それを現実に当てはめたり、起こったりするかもしれないなんて思うのはあまりに愚かな事だ。

 

「僕は……あると思うよ」

「ミラ?」


 ミラがリンゴの刺さったフォークを持ちながら呟くように言った。


「だってわからない事が多すぎるもん! 分かんない事が多いと、繋がらないって決めることもできないよね!」

「ミラ……そうだね」


 テリンが優しい顔をして頭を撫でた。

 現状ではわからないことが多すぎる。この状況ではわからない事が多い。運命や流れに導かれここまで来たような物だ。

 やっと”果て”に関するはっきりした指針であるプラネットが見つかったのだ。期待してしまう気持ちもあるだろう。

 リエロス号の仲間は一人では無い。それがどれだけ助かる事か、サグは改めて自覚できた。


「あ゛〜っ! 疲れた!!」

「それは俺だ! 付き合わされた俺の方が疲れとるわあ!!」


 空気が一度落ち着いたところで、ディオブとイリエルが騒ぎながら、まるで雪崩れ込むかのように入ってきた。

 二人の体には一部擦り傷や、服には多少汚れが付いていて、甲板だけでは無く島に降りてまで戦った事が見てとれた。


「テリン! 飯できてるか!!」

「あと少しだけど……ってかうるさ」

「お腹すいたあ!!」

「うるせって、落ち着けよお前ら」

「あははははは! テンション高いね二人とも!」

「そうだね、ところでミラ、食べ過ぎかな?」


 サグのミラにしか聞こえない声の一言で、ミラはぎくりと肩を振るわせた。

 皿の上に積まれていたリンゴはいつの間にか消えていたのだ。大半をミラが食べ切ってしまったらしかった。

 案の定ミラは夕食をあまり食べれず、テリンにきちんと説教されてしまった。

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