表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
謎の集団 リリオウド編
224/304

ラウドベリオスの今

「もうすぐ閉館って……」


 サグは心の中でそっと「それも当然じゃないか?」と付け足した。すごく辛そうに見える少女を前にとても言えなかったが。

 さっきも思ったが、観光客の身としてここに来るまでそこそこ疲れた。それに道がまあまあ分かりにくいのだ。途中人に聞かなくてはならない程度に。

 ここまで来て料金も高いとなれば、いくら中の設備がよかろうと、来た側の心象はマイナスも良いとこ。

 ある意味閉館も当然という結論になってしまうのだ。


「ほんとはね……もっと街の方にあったんだ」

「この建物がか?」


 ディオブの問いに、少女が苦しそうにゆっくりとうなづいた。

 

「一年前に、元々この島を収めてた王様が死んじゃって……新しい王様になったの……」


 ラウドベリオスに来る前、さらっとだがサグ達はイリエルからこの島の統治形態について聞いていた。

 世襲制で王国を受け継いでいるイメージで間違いなかったらしい。

 

「その王様はね、動物が大好きなの、だからこの剥製資料館が気持ち悪くて仕方ないって」

「普通逆な気がするけど……」


 テリンが苦笑いをしながら頬を掻いた。

 その感想はサグも同じだったが、恐らくその王様からすると”剥製とは動物の死体を加工し晒す技術”なのだろうと思った。

 それならば剥製を気持ち悪いと感じる事にも合点がいく。

 だが少女の言葉に怪訝な顔をしたのがイリエルだった。


「おかしいわ、確かにこの島は昔も生き物を傷つける事に厳しかったけど、それは普段から研究させてもらっている事の敬意もあるからって、罰金程度の罪のはずよ」

「それは一年前まで……今は生き物を傷つければ殺される……」

「じゃこの間の連中は?」

「この間……ああメインストリートの、多分判決待ち、大方死刑だと思うけど……」


 少女から聞こえる言葉はこれ以上と無いほどに無慈悲だった。

 リエロス号のメンバーにあの王兵隊にボコボコにされた連中を庇おうとする者は居ない。だが死刑になるには罪が重いような気さえする。

 サグが一般常識を勉強する中で知った事だが、神軍は犯罪者を捕らえた場合、人に対する傷害の罪でも殺人の罪でも、度合いにもよるが多くは神軍管理の刑務所に収監されるらしい。

 それと比較すると、いかにラウドベリオスの王が恐ろしい刑罰を用意しているか分かるだろう。

 連中が他にも人を傷つけていたのかも知れないが、見る限り犬を蹴っていたのが罪だった。


「この剥製資料館は何て言われてここに?」


 ディオブが言った。

 口調は静かだったが、サグは大方興味本意だろうと察していた。

 テリンも同じ考えらしく、目が合ってからほとんど同時に苦笑いでうなづく。

 

「気持ち悪いから廃業を命ずるって……けど今までの研究を無碍にはできないって意見が集まって、メインストリートから出ていけって言われた」

「メインストリートから!!? そりゃあ随分大変だったな……」


 ディオブが驚くのも無理はない。

 メインストリートは一番港に近く観光客も多い、つまり一番目に付く場所なのだ。元々そこに合ったという事は人がよく来ていた、収益が段違いにあっただろうし、交通の利便性も段違いだっただろう。

 それに移転するのも大変だったはずだ。それはサグ達の体が感じる疲れが証明している。


「大変……どころじゃ無かったよ……色んな人が手伝ってくれたけど、暑い時期の移動だったから……剥製がいくつかダメになっちゃったし……それにみんな素人でノウハウが無かったから落としたり傷つけたり……展示数が3分の1くらいになっちゃった」


 光景は想像に難くない。

 素人が繊細かつ重いものを運ぶ時、距離と傾斜と気温も含めてその事故率を計算せよ、と言われれば、誰もが事故が起こる確率100%と回答するはずだ。

 ただ気持ち悪いという理由でここまで迫害される道理がサグには分からなかった。

 恐らく新しい王様とやらは、島の生物研究の歴史そのものを侮辱しているのだ。

 自然と眉間に皺が寄っていた。


「許せない……」


 サグが侮辱という答えにたどり着いた時、リエロス号の仲間達は、地獄から漏れ出たようなイリエルの声を聞いた。

 表情を見ようとすら思わない、身震いしてしまうような純粋な怒りだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ