好奇心を逃さない
「すみません」
サグは疑問のまま側にいた女性店員に話しかけた。
「はい?」
女性は商品を陳列している途中だったが、サグの質問ににこやかに応じ、立ち上がってくれた。
「この商品なんですが、何かページが破り取られるみたいでして」
「えっ!?」
女性はひどく驚いた様子で絵本を受け取り、ペラペラと音を立てながら、少し焦りながらページをめくっていた。
ある意味当然だ。自分の店の商品が破り取られていたなんて聞かされれば誰でもこうなる。
ページを捲り、女性店員が終わりの辺りを見ている。
破り取られた跡は無かったが、そこにある隙間を確かに女性定員も確認した。
だが裏表紙を見て、ひどく安堵したような顔を浮かべ、その本をサグたちに返した。
「この本は正常です、よかったあ」
「えっ正常って」
「ここを見てください」
女性定員は裏表紙に貼られたシールのバーコードを指差した。
シールにはメモ用らしき余白があり、そこには『ページ欠落、値引き30%』と書かれている。
「うちは古本屋もしているんです、その本は初めからページが欠落した状態で売られたみたいですね」
「初めから……」
ということは、この本の内容を見た誰かが、内容を独占するために抜き取って行ったわけでは無いということだ。
だがそれではページの行方が分からない。
「あの! これを売った人って」
「う〜ん、お名前や買取日の記録はしているんですが、この本が買い取られたのは何年も前ですね……」
シールに書かれている番号から読み取ったのか、少し残念そうな口調で言われてしまった。
最悪なことに、サグからしてみればだいぶ手詰まった状況だ。
考えすぎかもしれないが、今の自分達とは切り離しては考えられない絵本の中の世界。
もしかしたらこの先のページに旅の手がかりになるものが眠っているかもしれないのだ、サグとしても諦めきれない。
「じゃ、この本のレーベルとか調べられませんか?」
「無理ですね、さっき見ましたが、この本レーベルとか発行した会社とか、そういうのが一切書いてない」
「ぐっ」
サグもそれは確かめたのでわかってる。元々作者名が書かれていない本。正直期待はしていなかった。
だがそれでも引き下がるわけにはいかない。
「じゃあ名前を教えてください」
「個人情報です」
ピシャリと言い切られてしまった。
そしてピシャリと後頭部を殴られる。当たり前だ、仲間が堂々と人様の個人情報を求めたのだから。
テリンは元々何の情報も出てこないだろうと察していたし、ミラは何かわかっていないがとりあえずダメなのだろうと察している。すでにこの本から絞れる情報は何も無いのだ。
「なら、この本を買います」
「……ページ欠落品ですがよろしいんですか?」
「構わないです」
テリンとしてはサグを止めたかったが、実際テリンも興味を引かれていたし、好奇心に突き動かされている時のサグは何故か間違っていないような気がする。これはテリンが経験してきた人生の哲学のような物だ。間違っているはずはない。
サグは本を購入し、とりあえず雑貨屋を出た。
当たり前だが、道で本を開いてみてもやはり本は変わらない。相変わらずページは書けたままだ。
「サグ、どうするこの後」
「まだ時間あるし……ミラ、見たいとこある?」
「うん! 僕ここ行ってみたい!」
ミラがパンフレットを開き、二人にそのページを見せてきた。
その場所はここから少し離れていたが、二人も確かに興味を惹かれていた。
「へえ、剥製資料館か……面白そうだな」
「行ってみよう」
「やった!!」
ミラは嬉しそうにテリンの手を引き、二人は少し呆れた顔をして、それでも笑いながら歩き出した。




