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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
魔法修行編
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魔法修行、適正

 ゆっくりとディオブは立ち上がった。そして手で三人にも立ち上がるように指示を出した。少しの疑問も抱くことなく、三人は立ち上がる。それよりもドキドキワクワクした感情が強かった。


「まずそれぞれの利き手を」


 指示通りに、サグとテリンは右手を、エボットは左手を出した。


「そいつを自分の胸に置くんだ、心臓の上にな」


 また指示に従う。手のひらにそれぞれの心臓の、ドク…ドク…という感覚があった。脈拍のペースはそれぞれ違ったが、ワクワクのせいで全員普段よりも早かった。


「大きく、そしてゆっくり深呼吸をしながら目を閉じろ、あとは脈を感じることに集中するんだ」


 ゆっくりと肺に空気を溜め込んだ、胸が少しだけ膨らんだ。ゆっくりと口から空気を吐く、胸がゆっくりと萎んでいくのを感じていた。音からして隣の二人も同じことをしているのがよくわかった。

 ゆっくりとした脈拍を手のひらで感じ取る。視界の情報が無いからか、余計に脈拍を強く感じる。その中に、なんとなく別のものを感じていた。脈拍とは別にある何かを、三人が感じた瞬間、三人の目が一斉に強く開かれた。


「なんだ!?」


 エボットがそう言いたくなるのもよくわかる。今三人は落ち着いていたはずの心臓の鼓動を、今までに感じたことがないほどに強く、強く感じていたのだ。

 うるさいどころではない、もはや痛いほどだ。なぜか心臓だけのはずなのに、全身まで跳ねていると錯覚するほど、鼓動は強い。


 「全身が心臓になったみたいだろ?安心しろ、健康とかにゃなんの問題もねーよ!」


 ディオブが楽しそうに言った。しかしサグたちからしてみれば冗談ではない。


「心臓に置いた手のひらを、ゆっくりと離せ!」


 三人はそれぞれ新しい感覚に苦しみながらも、ゆっくりと手のひらを離した。そして今度は驚きに目を輝かせる。

 サグの手のひらには小さな黄色の電気、テリンの手のひらにはマッチに灯ったような小さな火、エボットの手のひらには昨日降ったばかりのような僅かな雪が、それぞれに乗っていた。


「それがそれぞれの適正だ、サグは雷、テリンは火、エボットは氷ってとこだな」


 手のひらに乗っているよくわからないものを見て、少しだけ嬉しくなる。だが、手を心臓から離して三十秒もしない間にそれぞれの属性は消えてしまった。


「あっ」

「消えちまった」

「なんでよ?」

「そりゃそうだ」


 不思議がる三人に、ディオブは笑って見せた。


「この方法は、魔力を取りだす、初心者にもやりやすい極めて簡単な方法だ、だが取り出すだけ、つまりコントロールに関してはど素人なんだよ」

「魔力ってのは、魔法の維持や発動のために修行する必要がある、今のお前らはそこだ」


 考えてみれば当然の話だった。どんなスポーツの技だって、理論を聞いただけでは習得とはならない、実際に何度も練習して、使いこなせるようにならなければいけないのだ。今自分たちが必要なのは、この何度も練習の過程だった。


「それじゃ、その魔力コントロールの修行を始めようか」


 ディオブの言葉に、楽しくなっている自分に気づいた。いろんなことがあり、心を少しだけ変えたとはいえサグもやはり14歳の少年なのだ。魔力、魔法というワードは大好物でしょうがない。


「さっきと同じように、心臓に手を置いて深呼吸だ」


 また目を閉じて、心臓に集中する。さっきよりも早く、同じ感覚がした。だが、さっきよりも心臓の感覚は小さい。痛いほどではなかった。しかし慣れない感覚に三人とも目をまた開いてしまった。


「さっきよりも早く来ただろ!?一度経験した分体が慣れたんだ!心臓の鼓動と!心臓によって流れている魔力の感覚に集中しろ!」


 ディオブの言葉を信じ、目を必死に硬く閉じる。心臓の鼓動、その衝撃に誤魔化されず、さらに奥の奥を探る。すると、体の奥の方に、血流とは少し違うものを感じた。

 液体のように流れている、というよりも水溜まりのようなものがあるのを感じたのだ。感覚としては、心臓の中心に水溜まりのようなものがあり、そこから流れ出たものが身体中を巡っているような感覚だ。


「よし!やめろ!」


 手のひらを心臓から離して、目を開ける。心臓が穏やかになっていったので、大きく息を吸い込んだ。エボットはよっぽど疲れたのか、吸い込みすぎてゲホゲホと咳き込んでいた。テリンは膝が耐えられなくなったのか、深呼吸をした瞬間に甲板に崩れ落ちた。無理もない、サグ自身も大汗をかいて膝を抑えている。


「どうだった?疲れたろ」


 ディオブがニッカリと笑って見せる。三人は反対に苦笑して見せた。


「さっき心臓に手を当ててた時、水溜まりみたいな感覚したやつ、手ェ上げろ」


 三人全員が手をあげた。ディオブはまた嬉しそうに笑った。


「上出来だ、その水溜まりみたいなのが魔力だ、今やった方法はイメージで言えば、蓋を開けて流れ出た魔力を、手のひらで受け止める、ただそれだけのことだ」

「だが戦闘中、そんな風に集中する時間は無い」

「あと三回、同じことして自分の魔力を感じ取れ」


 三人はそれぞれしっかり立って、もう一度心臓に手を当てた。深呼吸をすると、さっきよりも早く同じことが起こった。しかしさっきよりも辛くなかった、穏やかな脈拍に集中を邪魔されず、魔力の流れをより感じることができた。

 魔力は心臓から流れ出して、血流のように体の端っこ、腕や足に向かっていっている。血流と違う点は循環していないという点だ、魔力は先端に到達すると、目に見えないが、そこから出ていっているようだった。

 四回目、五回目と重ねると、心臓の鼓動にストレスを感じることは無くなっていた。いつもと変わらず、心臓の鼓動を気にすることなく魔力を感じ取れた。

 ディオブは五回目が終わったのを確認すると、ノートをペラペラと捲っていた。どうやらノートに魔法修行の手順をメモしていたようで、必死になってページを探していた。


「よし、全員魔力の感覚はわかったな?次は手を当てずに魔力を感じ取れ」

「また流れを感じるだけなの?」


 テリンが手を挙げて質問した。エボットも少しだけ不満そうな顔をしている。


「ああそうだ、さっき蓋を開けて流れ出た魔力って言ったろ?あれは魔力のイメージでよく用いられる表現でな」

「ただ単に蓋を開けるだけじゃ、さっきのお前らみたいに、体内に魔力が垂れ流しになっちまう、だから集中しないで蓋を開ける力と、流れを感じてコントロールする力が必要なんだよ」

「鉱山で三回、黒い煙を掌から出して見せたろ?あれは魔力をコントロールして掌に集中させたものだ」

「魔力をコントロールできれば、()()()()()()()()()()()()()()()、地味だがそれも大きい」

「魔法の前提にあるのが魔力のコントロール、お前らはとりあえずそこを目指せ」


 ディオブの言っていることは正しい。魔法に関して三人は極めて素人だったが、ディオブの説明のおかげで、初心者の自分たちがすべきところがよくわかった。

 肩幅ほどに足を開いて、腕を少しだけ広げて楽な姿勢を取る。三人同時に、体の中に集中した。手を置いていない分、さっきよりもずいぶん難しい、いつもある心臓の鼓動、その奥に魔力の溜まりがあることは、さっきの感覚を元になんとなく感じ取れた。

 しかし蓋が開かない。さっきまでは壺の栓を抜くようだったが、今では重厚な扉をこじ開けようとしているようだった。

 十分ほどかけて、ようやく扉を開けることに成功した。心臓から流れ出たものを感じる、しかしそれをコントロールしようとしてもできない。流れるままになってしまっている。川に手をやっても、指の間をすり抜けて流れていくように、意識しても流れを変えることができずにいた。


「一回やめろ!」


 ディオブの声で、三人同時に目を開けた。二人の方を見ると、それぞれ不満そうな顔をしていた。サグと同じで二人も十分にできていなかったようだ。


「三人とも難しかったようだな、一時間もそうしてたぞ」

「え!?一時間!?」


 意外にも経っていた時間に、驚くまま叫んでしまった。ディオブは自分の懐から懐中時計を取り出した。


「もう昼だ、一旦飯にしよう」

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