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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
謎の集団 リリオウド編
219/304

挑戦的

 ディオブの言う反射習得訓練は、最初に基礎トレーニングから始まった。

 まずは船の甲板を目一杯にスピードで走り回る。スピードを落とすことは許されず、常に全速を求められた。

 疲れとそれぞれのスピードの違いのせいでどれだけ走り回ったか分からなくなった頃、唐突なディオブの号令で動きは止まった。

 それが終わると、たった五分のインターバルの後、筋トレが始まる。

 腕立て伏せに始まり、スクワットからペアでの腹筋など、締めは腕立ての体勢からジャンプまでをするバービージャンプトレーニング。

 それだけのことをして、ようやく一旦長めの休憩を与えられたのだ。

 すでに全員、疲れ切り大量の汗と肩で息を切らしている。


「ヤベッ、死ぬ……やばい……」


 エボットが声を出せていることを、サグは少しだけ尊敬した。

 実際サグやテリン、ミラはすでに声が出ないほど疲弊している。

 だがそれ以上に凄かったのはディオブとイリエルだった。

 このトレーニングには二人も参加している。つまり同じだけのトレーニングを二人もこなしているのだ。

 だが二人は大汗こそ流しているものの、疲れ切り動けないといった姿は見せていなかった。

 ディオブはともかく、イリエルも異常な体力をしているとは考えていなかったのだ。


「大丈夫かお前ら」


 ディオブが汗を拭きながら倒れている四人に声をかけた。

 返事は返ってこなかったが、四人の恨んだような目線から疲れを読み取り、ディオブは少しだけ笑った。


「まあ疲れたよな、それでも立て、再開だ」


 ディオブの無慈悲な号令がかかった。

 イリエルが止めていないあたり、無茶を言っているわけでは無いらしい。すでに十分無茶なのだが。

 四人はまるでゾンビのように、甲板から無理矢理体を剥がして、ゆらりゆらりと体を震わせて立ち上がった。


「よし、じゃあサグ」

「えっ?」


 ディオブが小さく、そしていつも通りの声色で声をかけた瞬間、恐ろしい速度のパンチが飛んできた。

 圧倒的な殺意と見てわかるほどの威力。サグは反射的に腕で体を守ろうとした。

 パンチはサグの腕に当たる直前で止まり、突風を巻き起こした。


「なにすんだよ!!」

「今腕で守ったろ? それが反射だ」

「いやそらそうだが!」


 冷静になって怒りが込み上げてくる。いくら攻撃を寸止めするつもりだったとはいえ、流石に許容しかねる事態に間違いない。


「疲れててもその現象は起こる、お前の体が証明したな、でも」


 次の瞬間、ディオブはまた同じように殺意を込めたパンチを繰り出した。

 だがそのパンチにサグの腕のガードは間に合わず、腹部にパンチが炸裂した。

 サグは少しだけ吹っ飛び、エボットに激突することで停止した。


「反射にも素早さはある、俺の意図的な素早さにお前の反射は負けてるんだ」

「ぐっ」


 体にある打撃の痛みに少し苦しみながら、サグはディオブを恨みがましい目で睨んだ。


「それじゃ次、反射をどう攻撃に転用するか」


 ぐっ、とディオブは拳を握り、後ろにまるで弓を引くかのように腕を引いた。


「この攻撃の予備体勢、この状態ですでに体は緊張状態にある、無意識に心臓はいつもより拍動し、攻撃を今やる、今やる、今やるぞ!! と、徐々に緊張が強くなっていく」


 サグは自分の手のひらを見た。

 根本的に理解はできていなかったが、確かに、とは感じていた。

 緊張状態とは確かにそういう物だし、何よりも戦闘中に緊張しないわけが無いからだ。


「やるべきはこの緊張の波を乗りこなす事だ、ドキドキ、ドキイッ、ていう最高に緊張が強い瞬間に攻撃を繰り出す、すると、攻撃は反射並みの速度を叩き出す」

「あんでだよ」

「反射ってのは起こった現象に対する緊張の結果だ、体が緊張し反射するといえばいいのか、つまりは緊張を乗りこなす事で反射を支配する、すると速度は限界を超える」


 おそらくその現象、と言うよりも言っていることは体験せねば分からない事なのだろう。

 だが、言っていることを簡単にすれば、自分の体のテンポを見つけ出し、最高に威力が出るように支配せよ、だ。

 鍛えていけば、それは実現できそうな気がしていた。


「これからは基礎フィジカルトレーニング、それにプラスして戦闘訓練だ、その中で自分の反射のタイミング、その動作をみつけろ、そしてそれを乗りこなせ」

「あっ、私から意見」


 ディオブが言葉を閉めようとした時、イリエルが小さく手を上げた。


「トレーニング中、常に体内魔力を感じて」

「あっ悪い、それを言い忘れてたな」

「反射に魔力を乗せる、神経の感じ方と支配力が段違いなの、だから魔力を感じることを忘れないでね」


 二人はこのトレーニングが始まる前、この技術は自分たちも使っていると言っていた。

 つまりは習得する事で、二人の強さに近づけると言う事だ。

 サグはその事実に気づき、一人挑戦的な笑みを浮かべていた。

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