エボットの目標
サグの部屋を出たディオブは、今度はリエロス号の船底室に来ていた。
今日もエボットは船底の部屋に篭り、ひたすらパーツいじりをしているのだ。
サグ達が言うには、元々勉学は好きでは無いらしいが、それにしてもパーツいじりばかりしているような気がした。
それもあってディオブはイリエルから「もっと勉強しろ」という伝言を預かっている。
こんこんという二回ノック後、返事も聞かずに扉を開いた。
「ディオブ? ノックしたなら返事聞けよ」
振り返ったエボットが少しだけ眉間に皺を寄せながら言った。
見てわかるほど作った表情だったので、ディオブはそこに悪感情が無い事を確信した。
エボットは敷物を広げて、その上に工具やらパーツやらを乗せ作業をしていた。
「悪いな、せっかちで、パーツいじってたのか?」
ディオブはエボットの持っているものを見て、何をどうしているのかは分からなかったが、とりあえず何かしらのパーツを綺麗にしている事は分かった。
エボットはそれをクルクル回して確認し始めた。
「ああ、平たく言えば舵を動かすパーツの交換用なんだが、常に整備しとかねーと船がやばいからな」
「ほお……」
ディオブは小さく呟いて敷物の上を見つめた。
ディオブは船の構造に詳しいわけでは無いが、流石に船が数多のパーツで構成されている事くらいはわかる。前のようにドックでなければ直せない物も多いが、細かいパーツに関しては自分で整備した方が安上がりな場合もある。
エボットはある意味で、このリエロス号の心臓部なのだと感じた。
「すげぇな」
「言われ慣れたよ」
少し照れたように笑うエボット。
「確かに」とディオブはひとりごちた。
エボットの幼馴染二人はある意味非常に素直だ。普段から、というより昔から言われ慣れている姿が簡単に想像できた。
「それはそうと、だ、お前、次自分がなりたい自分は何だ?」
「なりたい?」
「ああ、強くなる上で理想とする自分だ」
エボットは言われて顎に手を当てた。
わかりやすく悩んでいるようで、うんうん唸っている。
サグにしたのと同じ質問だった。ディオブはそれ故に帰ってくる答えが楽しみだった。
「そうだな……柔軟になりてえ」
「柔軟?」
ディオブの想像していた物とは違う答えに一瞬混乱したが、エボットはディオブに一度うなづいて、パーツを置いてから腕を振りながら説明を始めた。
「リリオウドで土属性の魔法と戦ったんだけどよ、相手は土に魔力を流して拳を作って触手みたいに操ったり、壁を作ったりして戦ってたんだ」
ディオブは土属性の相手とは戦闘経験が無かったが、大体どういう光景なのか想像はできた。確かにその戦い方は柔軟だ。
「氷で同じ事がしたいと?」
「できるかな」
「難しいな」
全ての答えが即答だった。
ディオブの難しいという今までに無かった回答に、エボットは少しの不安感を覚えてしまった。
「まず、土属性の場合はそこにあるものを操る、だが氷の場合は自らの純粋な魔力を変換して作らにゃならん、その差は大きいぞ」
「……」
「だからまずは、魔力のコントロールを極めるべきだと思う、そしてから柔軟な魔法を作るんだ」
「……魔力のロスを抑えるためか」
「そうだ、魔力消費を気にせず戦うのは良いが、異常に使ってばかりじゃいられないだろ」
エボットは小さくうなづいた。
サグは魔力消費の問題を気にしていたが、ある意味ディオブにも通じる問題であった。
思案を始めたエボットに安心し、ディオブは静かに部屋を出た。




