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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
謎の集団 リリオウド編
202/304

エボットの目標

 サグの部屋を出たディオブは、今度はリエロス号の船底室に来ていた。

 今日もエボットは船底の部屋に篭り、ひたすらパーツいじりをしているのだ。

 サグ達が言うには、元々勉学は好きでは無いらしいが、それにしてもパーツいじりばかりしているような気がした。

 それもあってディオブはイリエルから「もっと勉強しろ」という伝言を預かっている。

 こんこんという二回ノック後、返事も聞かずに扉を開いた。


「ディオブ? ノックしたなら返事聞けよ」


 振り返ったエボットが少しだけ眉間に皺を寄せながら言った。

 見てわかるほど作った表情だったので、ディオブはそこに悪感情が無い事を確信した。

 エボットは敷物を広げて、その上に工具やらパーツやらを乗せ作業をしていた。

 

「悪いな、せっかちで、パーツいじってたのか?」


 ディオブはエボットの持っているものを見て、何をどうしているのかは分からなかったが、とりあえず何かしらのパーツを綺麗にしている事は分かった。

 エボットはそれをクルクル回して確認し始めた。


「ああ、平たく言えば舵を動かすパーツの交換用なんだが、常に整備しとかねーと船がやばいからな」

「ほお……」


 ディオブは小さく呟いて敷物の上を見つめた。

 ディオブは船の構造に詳しいわけでは無いが、流石に船が数多のパーツで構成されている事くらいはわかる。前のようにドックでなければ直せない物も多いが、細かいパーツに関しては自分で整備した方が安上がりな場合もある。

 エボットはある意味で、このリエロス号の心臓部なのだと感じた。


「すげぇな」

「言われ慣れたよ」


 少し照れたように笑うエボット。

 「確かに」とディオブはひとりごちた。

 エボットの幼馴染二人はある意味非常に素直だ。普段から、というより昔から言われ慣れている姿が簡単に想像できた。


「それはそうと、だ、お前、次自分がなりたい自分は何だ?」

「なりたい?」

「ああ、強くなる上で理想とする自分だ」


 エボットは言われて顎に手を当てた。

 わかりやすく悩んでいるようで、うんうん唸っている。

 サグにしたのと同じ質問だった。ディオブはそれ故に帰ってくる答えが楽しみだった。


「そうだな……柔軟になりてえ」

「柔軟?」


 ディオブの想像していた物とは違う答えに一瞬混乱したが、エボットはディオブに一度うなづいて、パーツを置いてから腕を振りながら説明を始めた。


「リリオウドで土属性の魔法と戦ったんだけどよ、相手は土に魔力を流して拳を作って触手みたいに操ったり、壁を作ったりして戦ってたんだ」


 ディオブは土属性の相手とは戦闘経験が無かったが、大体どういう光景なのか想像はできた。確かにその戦い方は柔軟だ。


「氷で同じ事がしたいと?」

「できるかな」

「難しいな」


 全ての答えが即答だった。

 ディオブの難しいという今までに無かった回答に、エボットは少しの不安感を覚えてしまった。


「まず、土属性の場合はそこにあるものを操る、だが氷の場合は自らの純粋な魔力を変換して作らにゃならん、その差は大きいぞ」

「……」

「だからまずは、魔力のコントロールを極めるべきだと思う、そしてから柔軟な魔法を作るんだ」

「……魔力のロスを抑えるためか」

「そうだ、魔力消費を気にせず戦うのは良いが、異常に使ってばかりじゃいられないだろ」


 エボットは小さくうなづいた。

 サグは魔力消費の問題を気にしていたが、ある意味ディオブにも通じる問題であった。

 思案を始めたエボットに安心し、ディオブは静かに部屋を出た。

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