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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
謎の集団 リリオウド編
201/304

これからのサグ

「ふう……トレーニング終わったか」


 ラウドベリオスの到着予定日まで後一週間、サグは船の船室で自分自身の基礎フィジカルを上げるトレーニングを続けていた。

 普段はエボットやテリンと一緒にしているが、たまには一人でフィジカルアップのためにトレーニングに勤しむ時もある。

 やっていたのは基礎筋肉トレーニングだ。元々あったものを改造してだが、筋トレ用の機材を詰め込んだトーレングルームで体を鍛えていた。

 ディオブを見ていると唐突な超パワーに憧れるが、基礎を怠ってはいけないのはよく理解している。

 サグは元々自然の環境で磨かれた、ミラに近いフィジカルの良さを持っていた。旅を始めてから、そのフィジカルは伸びを見せつつある。

 だがサグは、現状の自分に不満を抱いていた。


(リリオウドでやばかったのは魔力の消費……魔力を使い切った後俺はほとんど何もできないで終わった……)


 サグは自分の手をグーパーした。疲れているせいか、想像以上に自分の手に力が入らなかった。

 ゾッグ戦で自分の魔力がほとんど全部消えてしまった後、アリオット率いる有象無象に襲撃された。

 

(あの時、俺に力があれば……)


 かなり究極な話だが、相手の人数を全て薙ぎ倒す程度の力があれば、捕まってしまうなどという失態は犯さなかったかもしれない。

 そう考えると、基礎トレーニングをせずにはいられなかったのだ。

 汗を拭きながら自分の体の伸びを感じるサグ。

 まだ不満はあるものの、自分が成長していることに対する実感と興奮を感じずにはいられなかった。


「やってるなサグ」


 開いた扉にもたれながら、ディオブが少しだけ茶化すように言った。

 茶化されたことに、サグは少し眉間に皺を寄せたが、エボットが余りパーツで作ったダンベルを持ち上げトレーニングを再開した。


「そりゃね、まだまだだし」

「そりゃ良いが、お前随分筋トレしてんな」


 サグの汗の量を見て、鍛えた時間を察知したディオブは言った。

 どれだけ時間が経ったのかわからなかったが、確かにいつの間にかとんでもない時間が流れたような気がしていた。

 座っていた椅子から立ちあがろうとすると、足の筋肉にもやんとした熱さがあった。

 そしてずしりとした重りをつけているような感覚がして、ようやく自分の疲れを感覚で理解できたような気がした。


「あっ」

「な? いつの間にか疲れてんだよ」


 ディオブがサグを指差した。

 仕方ないのでダンベルをテリンの指定した置き場所に置いた。テリンは置き場所や掃除に厳しいのだ。

 

「サグ、今の理想の自分は何だ?」

「理想の自分?」

「ああ、強くなってく上で、自分の目標はどこだ? って事だ」


 言われてサグは少し悩んでしまう。

 やりたい事は? と言われるとたくさん出てくるが、強さの目標は? と言われると出てくる言葉が無かった。

 少し考えて、まっすぐディオブを見た。


「魔法と格闘を両立できる戦い方」

「というと?」

「具体的には難しいけど、遠距離の魔法はある程度あるから、近づいても十分以上に戦える格闘術を育てたい」


 サグの答えにディオブは二回うなづいた。

 だがその後見せた表情は注意を示していた。


「それは間違い無い、だがお前の格闘は十分だと思うぞ?」

「えっ?」

「近接が苦手って認識してるみたいだが、お前の武器術に格闘はレベルとしては十分だと思うんだがな」

「じゃあどうしたら?」

「そこで提案するのが魔法と格闘の融合だな」

「融合?」


 サグは自分の手を見つめた。

 融合、考えたこともない発想に心が躍る。


「近いのはエボットの戦い方だな、聞いたぜ、武器に魔力を流したんだろ?」

「うん……」

「それの延長にある強力な魔法の開発、それだけで融合は完成する、やる価値はあるだろ」


 サグは自分の掌を見つめた。

 魔法を使い、身体強化を使い、鎧を使い戦える相手。

 おそらくだが、これから先神軍と戦うならば、その想定以上の防御を持った相手とも戦うことになるだろう。

 それを乗り越えるには、普通じゃ足りない。新しく、それでいて強く、自分の常識を壊す力。

 サグは何故か、自然と笑っていた。


「楽しみにしてるぜサグ」

「ありがとう」


 ディオブは何がしたかったのか、それだけ言って出ていってしまった。

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