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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
謎の集団 リリオウド編
200/304

テリンの暇

 会議からさらに一日が経過した。

 ラウドベリオスへの到着予定日まではまだ一週間以上、トレーニングをすれば時間が潰れるものの、はっきり言ってメンバーは時間を持て余していた。

 甲板で瞑想をしていたディオブは、甲板の縁に腕をかけて、ぐったりとしているテリンを見つけた。

 

「何してんだテリン」

「……暇……あまりにも……」


 ディオブもそれなりに教養があり、蚊の鳴くような声、という表現を知っていたが、極めて小さな音を表現するその言葉でさえもテリンの声には大袈裟に感じた。


「サグは」

「サグは読書……」


 言われて「ああ」と呟いた。

 ついこの前商戦から大量に本を購入していた。トレーニングの合間に少しづつ読み進めていたらしいが、定期的に決めている休憩日の今日ひたすらそれを読み耽っている姿が容易に想像できた。

 

「じゃエボット」

「下の倉庫で武器と船のパーツいじってる」


 ディオブは少ししか聞いたことが無かったが、エボットは故郷に居た頃から親の仕事で船に乗り、メカや物の改造などに興味を示していたのだ。

 リエロス号にはディオブの合流前に神軍の男から奪った武器が大量に積まれ、エストリテで船をいじってもらった時に貰った余剰パーツと鳥たちの島で手に入れた神軍たちの武器があった。

 つまり改造が好きな人間が暇しない空間になってしまったのだ。

 すっかり瞑想を邪魔されてしまったディオブは、頬を掻きながら考えを巡らせた。


「イリエル」

「ミラに勉強を教えてる」


 終わってしまった。

 悲しいことでもあるが、リエロス号は乗っているメンバーが少ない。大きさが他の船と大差無いのに人数だけ少なく、小さな寂しさを覚える程だ。

 そして人数が少ないゆえに、テリンの暇に対抗できるメンバーも居なくなってしまった。

 瞑想の邪魔をされてしまったことでディオブも多少文句を言いたかったが、面倒を産むのも好ましく無かった。


「じゃなにかしろよ、本読むとか」

「本……気分じゃなぁい……」

「銃のメンテ!」

「エボットに預けた……そもそもできない」

「もう空でも眺めてろよ!!」


 心を落ち着けるはずだったのにすっかり苛立ってしまった。

 少しイライラしながらも、結局瞑想に戻ることにした。

 ディオブが瞑想を好むのは師匠の教えがあるからだ。

 故郷に居た頃、アリオットと共に師事した師匠からは、トレーニングも大事だが、己の中にある答えを探すため、自分との対話に時間を割くことも大事であると習った。

 それを大事に、旅を始めてから時間を見つけて瞑想をしているのだ。

 この時間ほど落ち着く時間はない。のだが。


「ねえディオブ〜、何してるの?」


 テリンのだる絡みがそれを妨害してくる。

 無視していたが、「ねえねえ」という声がうざったくなって流石に我慢の限界を迎えてしまった。

 

「静かにしろぉ!!!」


 まさか持ち前の剛力を、こんなくだらないタイミングでテリンを投げ飛ばすために使うことになるとは思わなかった。

 叫びを聞いたサグが、バタバタと走りながら雑に扉を開けた。


「なっ、何事?」

「サグ!! このうるさいの連れてけ!! 迷惑だ!!」


 ディオブの珍しい態度に何が起こったのか、幼馴染であるサグは大体察した。

 テリンは島に居た頃からやる事が無いという状況に弱かったのだ。

 苦笑いしながらサグはテリンの襟首を掴んだ。


「ごめんねディオブ」

「あ〜」


 そのまま二人は中へ引っ込んでいってしまった。

 

「なんだったんだ一体」


 ディオブは額に手を当てて呟いた。

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