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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
鉱山の島アクマンス編
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新しい仲間

 鉱山入口、数時間前までは荒くれ達が溜まっていた場には、代わりに神軍達が集まっていた。しかし神軍達は、誰も彼もだらけていた。座り込んだり、岩に寄りかかったりで、全く気を張っていない。ヘリオ達のあの戦力で十分だと判断したのだ。

 突然、坑道の方から足音がした。神軍達はそれぞれゆっくりと立ち上がった。その時、神軍の一人が気づいた。足音が妙に少ないことに。次の瞬間、坑道から黒い煙が一気に噴き出してきた。

 やっていることは二回目だが、一回目を体験している人間がどこにもいない。作戦は見事に成功、神軍達全員が混乱してしまった。


「なっなんだ!?」


 兵士の一人が腕で顔を覆いながら叫んだ。その瞬間に、地面を転がってきたトロッコに弾き飛ばされた。五メートルほど空に飛び上がって、錐揉み回転しながら地面へと落ちた。

 トロッコはそのまま、黒い煙を突き抜けて、ディオブに押されながら坂を転がっていく。なかなかスピードが出ていて、見た人間は全員端っこに避けている。


「街に入る!もっと体勢を低くしろ!」


 トロッコに乗っている三人に言った。三人はさらに体勢を低くして備える。

 程なくして街に入り、一番大きな街道を勢いよく駆け抜ける。坂で十分加速していたおかげで、もはやボブスレーのようになっていた。一気に街を駆け抜けて、港へと急ぐ。


「どれがお前らの船だ!?」

「帆のついてるやつ!」


 エボットが強い風を感じながら、必死に大声で返した。帆のついた船は非常に目立つ、離れた場所でもすぐに見つけることができた。ディオブはなかなかスピードの出ているトロッコを、両手で挟んで足をブレーキにした。踵によって土がえぐられ、二メートルほどの道ができた。


「投げんぞ!!」

「え!?」


 止まったその場でトロッコを持ち上げて、回転しながら勢いをつけて、思いっきり甲板へと投げる。トロッコは甲板の少し上まで飛んで、そのまま自由落下した。三人はトロッコから飛び出して、空中に投げ出されてしまった。少しだけ赤みを帯びた空の中、三人の天地は完全にひっくり返っていた。


「うわあああ!!!」


 誰が叫んでいるのか、自分が叫んでいるのか、あまりの体験にそれすらもわからなくなってしまった。新体験の感覚の中で、サグは美しい太陽を見た。大空の中にあっても、雲を煌めかせ、空を煌々と照らす美しい太陽だ。


「綺麗だ」


 自分の感想を、率直に呟いた。しかしそんな感覚も一瞬だ。すぐに甲板へと落ちていく。幸いなことに、誰一人として頭からは落ちなかったが、結局落ちたことには代わりなく、相応の衝撃が体に響いた。


「グエっ」


 エボットが肺から飛び出した空気と共に、潰れたカエルのような声を出した。

 サグはすぐに起き上がっていた。確かに痛かったし、まあまあの衝撃があったが、さっきまで強敵と戦っていた身だ、正直比べ物にならないほど軽いダメージだった。それはテリンとエボットも同じようで、驚いた表情で立ち上がっていた。全員揃って顔を見合わせる、自分と同じ表情をしている二人に、思わず苦笑いをしてしまった。


「何ポケッとしてんだ?」


 甲板の縁に立っているディオブが言った。その言葉が全員を現実へと引き戻した。エボットは急いで操縦室へと向かった、船のエンジンを起動する、舵輪をしっかりと握って、レバーを起こして浮上させた。航行中ならともかく、発進したばかりの船はとりわけ揺れる、甲板にいる三人は転ばないようにしっかり足に力を入れる。しかしサグとテリンは一度強く船が揺れた時、ガクンと力が抜けて甲板にへたり込んでしまった。二人が感じているよりも、大きなダメージがあったようだ。

 船は高度を上げて、ある程度まで行ってから発進した。いつもよりスピードを出しているようで、普段感じるよりも強い風が、サグの肌を叩いた。

 すぐに島は小さくなった。一日に満たない時間しかいない島だったが、経験した内容が中々濃かった。サグは心の端っこに、一抹の寂しさを覚えていた。


「大丈夫か?」


 ディオブが、座り込んでいるサグに手を伸ばした。見ると、すでにテリンは立ち上がっていた。


「ありがとう」


 少しだけ笑って、その手を取った。グイ!と引っ張られ、立ち上がる。その時やっと気づいた、ディオブの表情が今までにないほどに真剣だったことに。痛くは無いが、握っている手は、逃さないぞと力で伝えてくる。


「お前らは……見事俺の出した条件をクリアした……魔法を教えるためのな」

「だが、魔法は戦うための力だ、一度言った言葉を変えるつもりはねえが……聞かせろ」


「お前らは、何者なんだ?」


 怖いほどに真剣な目で射竦められる。観念するしかなかった。


「……”果て”って知ってる?」

「……?なんだそれ」

「俺の遠い御先祖が行ったっていう、この世界の”果て”だってさ」

「そんな場所に行きたいがために、神軍達は故郷の島を滅ぼした」


 想像していなかったほど大きな話に、ディオブの目は大きく開かれた。


「”果て”に、人を殺すほどの価値があるのか、なんで殺されなければならなかったのか、投げかけられた理不尽に、今のところ答えは無い」

「でも……俺たちは知りたいんだ、なんで……殺されなきゃならなかったのか」


 ゆっくりと目を閉じた。視界は暗くなり、あの時の、惨たらしい光景が浮かんでくる。何日か経った今でも、鮮明に浮かぶ。つけられた傷は、一切癒えていない。

 目を開けた、困惑しながらも、話を必死に咀嚼しているディオブが見えた。現実が、サグの視界に飛び込んできた。


「進むしかない、”果て”まで行けば、わかるかも知れないんだ」


 ディオブは握っていた手を離した。


「強くならなきゃ、たどり着けない」


 ディオブは、目をさらに大きく見開いていた。日が沈み始め、眩い光がサグの空色の髪を照らしていた。ディオブ自身が影になり、生まれたコントラストが、余計に美しく見えた。

 少しだけの力で、サグの肩を、触れるように叩いた。するとサグの肩に、電流のような痛みが走った。あまりの痛みに、思わず自分の肩を抑えた。


「っつ〜……!!!」

「サグ!」


 痛みに目に力を入れて、シワだらけになっているサグにテリンが駆け寄った。


「……今お前らの体はボロボロだ、今日は飯食って休め」


 ディオブは船室の方へと歩いて行った。ノブに手をかけてから、二人の方を振り向いた。


「魔法修行、明日から始めんぞ」


 それだけ言って、船内へ入って行った。

 二人は一瞬だけ顔を見合わせてから、喜びで大笑いした。強くなれる、その実感が、二人を笑わせていた。

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